2017年度の全国高校サッカー選手権大会で2度目のベスト4進出を果たした栃木県の矢板中央高校。明日(8月7日)、開幕するインターハイでは福岡県の強豪校、東福岡高校との1回戦を控えている(10時キックオフ)。「堅守速攻」を戦い方のベースとし、17年度は「フットサル」という要素に躍進の活路を見出すことに成功したと言う矢板中央の高橋健二・監督に、「3人目の動き」についてその考え方と指導方法を聞いた。
(出典:『サッカークリニック』2018年6月号)

※メイン写真=スケールの大きな矢板中央高校のストライカー大塚尋斗 
写真/窪田亮

フットサルを通じて習得した
「全員が関わること」

――矢板中央高校は縦に速く、パワーのある攻撃を展開するチームです。特に、『全国高校サッカー選手権大会』(以下、選手権)でベスト4に進出した2017年度のチームは、非常に柔軟性があり、3人目が積極的に関わる攻撃が印象的でした。

高橋 17年度のチームには、軸となる選手がボランチに2人いました。ボランチが安定していましたし、前線には個性のある選手が2年生を中心にいました。彼らの組み合わせ方がチームづくりのポイントでもありました。加えて、矢板中央には伝統の堅守速攻がベースとしてあります。
 ただし17年度のチームは、力があると思っていたのに反して、春先からなかなか勝てませんでした。そのときにいろいろと悩んだりしたのですが、良くなるきっかけの1つがフットサルの存在でした。17年度のインターハイ栃木県大会で敗れ、本大会に出場できなくなったことで、8月に行なわれる『全日本ユース(U―18)フットサル大会』を目指す戦いにシフトすることになったのです。初めはトップチーム以外の選手で臨んでいたのですが、栃木県予選で優勝し、関東大会に出場することができました。関東大会があった時期はトップチームに公式戦がなかったのもあり、関東大会にはトップチームの2年生が中心となって出ました。すると、圧倒的な強さを見せて優勝することができたのです。
 フットサルは攻守の素早い切り替えが求められ、ゴール前の攻防が頻繁にあるスポーツです。「サッカーに通じるものがある。サッカーにフットサルの要素を取り入れたら面白いものができそう」と関東大会のときに思ったのです。

――フットサルのどの要素を取り入れたのでしょうか?

高橋 「関わる」という点です。私たちは縦に速いサッカーを目指していますが、肝心となるのが縦パスに対して周囲が前向きになり、バリエーションのある攻撃をすることです。縦パスを入れたときに全体が間延びしてしまうのではなく、3人目や4人目が関わらなければいけません。「関わる」という要素をフットサルから取り入れました。
 私たちにはいいポスト・プレーヤーがいましたので、ポスト・プレーヤーにボールが入ったときの3人目や4人目の関わり方を整理しました。ポスト・プレーヤーに関わりつつ、数的優位な状態を局面でつくることを意識させていたのです。3人目以降がうまく関われば相手も集まってくるものですから、逆サイドなどに生まれるスペースをまた別の選手が突くことができます。縦パスに対して全体が連動していくことを徹底しました。

――過去にも、縦パスに対する3人目の飛び出しがいい年代があったと思います。そのときはどう指導していたのですか?

高橋 確かに、このような取り組みは以前もしていましたが、そのときはフルコートを使って練習することが多く、ゴール前のシーンは頻繁には起こりませんでした。それでも、能力の高い選手がいた年代にはできていましたが、毎年のようにできるわけではありません。そこで、フットサルを取り入れたほうがいいと思ったのです。フットサルの『ピヴォ(サッカーのフォワード)』にボールを入れ、接近し、展開していく形が何度も起こるのがフットサルです。矢板中央ではフルコートを使った練習を行ないながらも、狭いコートではフットサルの要領で攻守の素早い切り替えなどを意識した練習も並行して行なっていました。すると、フットサルの全国大会(『全日本ユース(U―18)フットサル大会』)でも優勝できたのです。
 フットサルで結果を出したあと、栃木県リーグでは後期の得点数が前期の約2倍になりました。12月には『プリンスリーグ関東・参入決定戦』でも勝利でき、選手権ではベスト4に進出できました。前期とは見違えるほどのチームになりました。

――飯島翼・選手、大塚尋斗・選手、板橋幸大・選手ら3年生は、昨年のフットサル大会の優勝メンバーです。

高橋 彼らは本当に成長しました。大塚選手は181センチの身長がありながら足元の技術も高く、フットサルの大会ではピヴォとして大会MVPにもなりました。大塚選手が前線でボールを収め、飯島選手や板橋選手が飛び出すなど、迫力のある攻撃ができていました。

――フットサルを通して「3人目の動き」を引き出すことで、サッカーにおいてメリットは得られましたか?

高橋 細かい局面では3人目の動きでも、大きな局面で見れば全員が関わらないといけません。「全員で関わる」という点が良くなったと思います。
 1本の縦パスやクロスが入ったときの周囲の関わり方は重要です。たとえ相手にボールを奪われても、奪い返せる距離を保つなど、攻守が一体となった関わりが必要です。指導者によっては、「ポゼッションしながらタメをつくって縦パスをタイミング良く入れる」という考えを持つ方がいると思います。ある意味ではセオリーなのですが、タメをつくるということは裏を返せば、「時間をつくってしまう」ということにもなります。すると、相手の守備陣形は整ってしまいます。
 タメをつくれることはもちろん大事ですが、そればかりでは良くありません。時間や手数をかけない攻撃も大切です。縦に早く入れたボールに対して、3人目、4人目が関わり、全体的なコンパクトさも保つことが、私たちが目指している「堅守速攻」というテーマの1つの要素です。それには予測や判断のほか、チームとしての約束事も必要です。それがないと、縦パスを入れても有効性を欠き、間延びしてしまいます。

画像: 巧みなボールタッチで攻撃陣を引っ張る飯島翼 写真/窪田亮

巧みなボールタッチで攻撃陣を引っ張る飯島翼 写真/窪田亮

攻撃と守備を
「自動化」させるのが大事

――高橋監督をはじめ、「堅守速攻」という言葉をよく聞きます。しかし、実現は難しいことであり、しっかりとした戦術や個の判断がないと成立しないと思います。

高橋 そうですね。キック力や走力があればいいわけではありません。私たちがしたいのは、あくまで「組織的なカウンター」です。矢板中央はタウンクラブや中学サッカー部の出身者が多く、Jクラブのような個の力もありません。1人で打開していくよりも、人数を割いて組織的に相手を崩していくことをテーマにしています。

――組織的なカウンターの要かなめこそ、縦パスが入ったときの関わり方なのですね。

高橋 そうですね。ただしこのことは、攻撃だけでなく守備にも当てはまります。特に、選手権が開幕する前に私がよく言うのが、「全員攻撃・全員守備」という言葉です。「全員が攻守に関わる」という意味でこの言葉を使っています。

――「全員攻撃・全員守備」もよく聞きますが、これも簡単ではありません。「ただみんなで攻めて、みんなで守る」という話でもありません。

高橋 私としても、とても難しいことだと思っています。選手権への出場を決めたあと、11月に東京都で組み合わせ抽選会があります。抽選会に参加する各高校のキャプテンが登壇し、大会での抱負を述べるのですが、選手たちの多くが「全員攻撃・全員守備」と言うのです。「全員攻撃・全員守備」ができてきたチームだからこそ全国大会に出場できたと思う半面、全国大会で勝つためには「全員攻撃・全員守備」の精度をどこよりも高めなければいけない、と思うのです。それには、攻撃と守備を「自動化」させることが大事です。最終的には、全員が共通理解を持ち、矢板中央の戦術の中で戦えるようになってほしいと思っています。指導者がいなくても、選手たちが話し合って修正できるようになってくれれば、全国で勝負できるチームになると思っています。

――どのようにして「自動化」させているのですか?

高橋 ポイントになるのが、攻撃時に縦パスを入れたときの自分たちの守備陣形です。縦パスを入れた瞬間から矢板中央の守備は始まります。攻撃を仕掛けるときにグッと前に行くわけですが、ボールを奪われたときにはすぐに奪い返したいと思っています。そのときに3人目以降の動きが悪ければカウンターを浴びてしまいます。攻撃をしているときでも守備を意識し、守備をしているときには攻撃を意識する、それが全員が持つべき考え方なのです。
 その際、中心的な立場を担うのがボランチとセンターバックだと思っています。17年度の選手も、ボランチが常に攻守に関われるポジションをとって、チャレンジ・アンド・カバーをしたり、展開力を発揮したりしてくれました。センターバックも的確なライン・コントロールをしてくれたからこそ、「全員攻撃・全員守備」が実現したのです。

――ボールを奪われた瞬間に素早く奪い返せることが矢板中央の求めていることなのですね。

高橋 ボールを失ったときが攻守の切り替えのスタートです。すぐに奪いに行ける距離感も、攻撃面で接近を大事にしている理由の一つでもあります。接近したときの数的優位な状態は、奪われた場所で相手をすぐに囲い込むのを可能にします。だからこそ、攻守の素早い切り替えを大切にしているのです。そのため、サイドの選手は攻撃的にいかせますが、ボランチとセンターバックにはバランスをとることとコンパクトさを求めたりしています。

画像: 飯島同様に技術に定評のある板橋幸大 写真/窪田亮

飯島同様に技術に定評のある板橋幸大 写真/窪田亮

ボールが空中にある攻防も
疎かにしてはいけない

――17年度の矢板中央は、カウンターを止められても、攻撃をつくり直せるのも強みの一つでした。

高橋 「縦に速い攻撃」と言っても、いつも攻め切れるとは限りません。相手の守備に遭うこともあります。その場合は、セカンド・ボールを拾ったりしてから、ポゼッションしたり、ドリブルをしたりと、攻め方を変える必要があります。「カウンターを止められたから何もできない」では、攻撃は単調になりますし、相手カウンターの餌食にもなります。

――攻撃を1度止められても何かできるチームが、「堅守速攻」を掲げる真のチームかもしれません。

高橋 パスワークを重視したり、ドリブルを重視したりするチームはたくさんあります。しかし、そのようなチームではグラウンダーでボールが行きかうような練習をすることが多いのではないでしょうか? 浮き球のボールが発生することがあまりない気がしていますし、ボールが空中にあるときの競り合いや動き方を重視してやれていない気がします。しかし、ボールはいつも地面を転がるわけではありません。ロングボールは立派な戦術の一つですし、現にクロスやセンタリングからの競り合いはサッカーではよく起こります。ボールが空中にあるときの攻防を疎おろそかにしてしまったら、3人目や4人目の動きの質も上がらないと思うのです。「ボールが空中を移動しているときに、選手はどう動き、どう収めたらどこに展開されるのか」を予測しながら動くのも、個の判断力を高めることにおいて欠かせないことだと思います。

――確かに、空中戦での競り合いに対する連動性が乏しいチームが多いと思います。

高橋 もちろん、蹴り合いになってはいけません。しかし、ボールが空中にあるときの攻防をやらない弊害はあると思います。空中戦に弱いチームが多いと感じているのです。そういったチームは、日々の紅白戦でも似たタイプのチームと数多く戦い、それが影響しているのかもしれません。矢板中央では紅白戦をするとき、違うタイプにして戦わせることが多いです。そうすることで、戦術的な柔軟性が生まれると思うのです。

――「ロングボールを笑う者はロングボールに泣く」と、最近の高校サッカーを見ていると感じることがあります。

高橋 ターゲットと見定めた選手にロングボールが届く間に複数が接近し、誰かがセカンド・ボールを拾って別の誰かが相手の背後に抜け出したり、スペースへボールを展開していったりすることは、共通理解や的確な判断力、走力がないとできません。いずれにせよ、地上戦であっても空中戦であっても、このような「3人目の動き」ができるのは「サッカーIQ」の高い証拠でもあると思います。
 加えて、ロングボールは局面を大きく変える力も持っています。ロングボールを有効活用しない手はないでしょう。しかし、ロングボールを正確に蹴れない選手が多いのも事実です。ロングボールを蹴れないと、選択肢の幅が狭まります。長短の展開を状況に応じて両方できる必要があるからこそ、従来のフルコートを使った練習とフットサル・コートのサイズを取り入れた練習を並行して行なうのです。それが、質の高い3人目の動きを引き出すきっかけにもなると思っています。

(取材・構成/安藤隆人)

<矢板中央高校の練習メニュー紹介>

「『6対8』+1GK」

画像: 「『6対8』+1GK」 ©BBM

「『6対8』+1GK」 ©BBM

進め方:(1)ハーフコートを使用②攻撃側は2トップと2ボランチと両サイドハーフ、守備側は4バックと2ボランチと両サイドハーフを配置(図1)(2)攻撃側の2ボランチから攻撃開始。ボランチは2トップの1人にくさびのパスを入れ、「接近」をイメージして3人目、4人目と動き出し、ゴールを目指す(3)2ボランチのうち1人はリスク・マネジメントを意識(図2)
ポイント:(1)バイタルエリアの攻略(2)くさびのパスへの関わり方(3)「接近、展開、リスク・マネジメント」の3要素を意識

画像: 「3人目の動き」について話してくれた矢板中央高校の高橋健二・監督(写真中央) 写真/窪田亮

「3人目の動き」について話してくれた矢板中央高校の高橋健二・監督(写真中央) 写真/窪田亮

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