※新たな戦いのステージに入る3人の世界王者(左から瀬戸、萩野、カリシュ)
写真◎小山真司/スイミング・マガジン

 明日8月9日から12日までの4日間、東京辰巳国際水泳場で行なわれる第13回パンパシフィック選手権(パンパック)競泳競技(OWS競技は14日、千葉県館山市・北条海岸にて開催)。ホスト国・日本をはじめ、米国、豪州、カナダのパンパシフィック(環太平洋)水泳連盟を構成する4カ国に加え、欧州以外の国と地域からも参戦する中、まず初日の対決で楽しみなのが男子400m個人メドレー(4個メ)、萩野公介、瀬戸大也、チェース・カリシュによる日米“世界王者”同士の戦いである(ここでいう「世界王者」とはオリンピック、世界選手権優勝者のことで、競泳の世界選手権はオリンピックの前年と翌年、2年に1度の開催)。

 個人メドレーは、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、自由形(クロール)の順で4泳法を泳ぐ種目で、特に400mは、スピード、技術、体力すべてが求められるだけに、その王者には「King of Swimmers」の称号が与えられる。

今日までの流れ

 世界の競泳史で「最強」の呼び声の高いマイケル・フェルプスが世界選手権の4個メで初優勝を果たしたのは2003年。それ以降の結果で見てみると(エントリーしなかった2005年世界選手権は除く)、04年アテネ五輪、07年世界選手権、08年北京五輪がフェルプス、09年、11年の世界選手権、12年ロンドン五輪はライアン・ロクテが制してきた。この二人で10年以上、4個メの覇権を米国として守ってきたといえる。

 ロンドン五輪後、選手としての活動を逡巡する時期が続いたフェルプスとロクテに代わり、覇権を奪ったのが瀬戸と萩野である。ロンドン五輪出場を逃し、再スタートをきった瀬戸は13年、15年世界選手権で2連覇、15年の世界選手権を骨折のため欠場した萩野はその悔しさを胸に挑んだ16年リオ五輪で金メダルを獲得と、世界大会3大会連続で日本が男子4個メの世界王座を保持してきた。

 その間、カリシュは、米国男子4個メの新たな看板選手として期待を受けながら、瀬戸、萩野が世界王者になった大会では、それぞれ2位、3位、2位とことごとく瀬戸、萩野の牙城に跳ね返されてきた。そのため、カリシュは、“もう悔しい思いはしたくない”と意を決して、新たなオリンピックサイクル(次のオリンピックまでの4年間)に入った。

 そして、その最初のシーズンとなった昨年のブダペスト世界選手権で、カリシュは一気にそれまでの借りを返す活躍を見せる。4個メ、200m個人メドレー(2個メ)とともに自己ベストで2冠を達成。4個メでは萩野、瀬戸の自己ベストを上回る4分5秒90をたたき出す強烈なカウンターパンチで、それまでのライバル関係の勢力図に変化をもたらした。

画像: 2016年リオ五輪では萩野が金メダルを獲得(写真中)、銅メダルの瀬戸は13、15年世界選手権では金メダルを獲得。カリシュはこの3年間の敗戦の悔しさを翌年にぶつけることに 写真◎Getty Images

2016年リオ五輪では萩野が金メダルを獲得(写真中)、銅メダルの瀬戸は13、15年世界選手権では金メダルを獲得。カリシュはこの3年間の敗戦の悔しさを翌年にぶつけることに
写真◎Getty Images

新たな力関係の中で迎える第1ラウンド

 迎えた2018年、三者はそれぞれが異なる道筋で夏を迎えた。

 まず萩野は、年末年始に体調を崩してしまい、1シーズンを乗り切るための泳ぎ込みを十分にこなすことができず、4月の日本選手権こそ優勝したものの(4分10秒69)、5月のジャパンオープンでは4分14秒77と日本選手権時より4秒以上もタイムを落としてしまう。400m種目で高いレベルの泳ぎを維持するのは、冬場の泳ぎ込みに裏付けされた体力がなければなかなか難しいものだが、そういう状況でもベストを尽くすのが五輪王者としての誇り。ジャパンオープン後は耐乳酸系の練習にも積極的に取り組み、6月下旬~7月下旬のシエラネバダの高地合宿でも、やるべきことはこなしてきたという。

 瀬戸は、冬場の大会でなかなか調子が上がらず、4月の日本選手権は2位で代表権を獲得したものの、4分14秒01と自己ベストから6秒以上も遅い記録に終わった。しかし、選考会を抜けたあとは復調の兆しを見せ始め、5月のジャパンオープンでは4分8秒98と快心の記録で優勝。瀬戸は気持ちがそのまま結果に結び付く傾向の強い選手だけに、「夏が近づいてくればくるほど、調子は上がってくる」というコメントにも大きな期待を感じさせていた。6、7月は海外での合宿や大会を入れながらの調整だった例年と違い、腰をすえて国内で調整を図り、「何の不安もなしに大会に臨むのは、2013年バルセロナ世界選手権以来のことかも」と、自信を持って、辰巳に足を踏み入れた。

 そして、カリシュ。昨シーズン終了後からじっくりトレーニングを積み、1月の大会でいきなり4分10秒80、3月にも4分8秒92と好記録をマーク。その実力の底上げを見せつけていたが、さらなる記録アップが期待された7月下旬の全米選手権では、4分8秒25と予想よりも低めの記録にとどまり、本人も納得いかない様子だったとのことだが、それでも、2018年のシーズンベストは瀬戸、萩野を上回っている。

勝負のポイントは前半2種目終了時点の差

 4年前のパンパックでは、萩野1位、カリシュ3位、瀬戸5位となったが、当時の力関係とは違う状況で迎える今回のパンパックは、来年の世界選手権、2年後の東京五輪まで続く戦いの第1ラウンドとなる。

 レース展開の予想は、三者のラップ(自己ベスト更新時)比較から見えてくる。

萩  野 4分6秒05(55.57/1.02.16/1.10.23/58.09)
瀬  戸 4分7秒99(56.80/1.05.07/1.09.23/56.89)
カリシュ 4分5秒90(55.93/1.03.65/1.07.67/58.65)

 ポイントは3種目めの平泳ぎ。400mの中で一番きつい200~300mの種目であり、前半2種目の疲れがある中でも、スピードを保ちながらラストの自由形勝負のための体力も温存しなければならない。そこでアドバンテージを取っているのはカリシュであり、そのため、萩野、瀬戸ともに前半2種目のバタフライ、背泳ぎでどれだけリードを奪うことができるか。そこが勝負のカギとなる。

 萩野はバタフライで余力を残しながらもトップラップを奪い、得意の背泳ぎで2人との差を広げたい。平泳ぎが得意の瀬戸は自分以上のラップをカリシュが刻む力があることを認識しており、5月のジャパンオープンでは課題にしてきた前半2種目の2分切りを初めて果たし(1分59秒61)、さらなる自己ベスト更新への布石は打ってきた。瀬戸自身、「前半2種目と平泳ぎをベストラップに近い、1分9秒台前半で回ること」とポイントを挙げている。

 萩野が終始リードを奪い、平泳ぎから瀬戸が追いかけ、カリシュが2人を猛追して最後のクロールへ、という展開なら大接戦。逆にカリシュが僅差で後半2種目に入るようなら、瀬戸、萩野にとっては苦しい戦いになる可能性は高い。

 3日目の2個メでの戦いも興味深いが、やっぱり注目は4個メ。見逃し厳禁!

文◎牧野 豊/スイミング・マガジン

※アリーナはパンパシフィック選手権2018のゴールドパートナーです。

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