Playbackシリーズ「突撃! 研究室訪問」第7回は、早稲田大学スポーツ科学学術院・間野義之教授の研究室に突撃!
取材時は夏休みだったため、特別に夏合宿にお邪魔しました。
--※本稿は『コーチング・クリニック』の連載「突撃!研究室訪問」第11回として、2011年11月号に掲載したものを再構成したものです。

会社員→大学教授!?

「皆さん、私を利用してください」

 合宿における勉強会の最後、総括を行うために登壇した間野義之教授は、学生たちに向かって、こう話し始めた――。

 スポーツ政策論を専門とする間野教授は、現在進行形で多くの現場に携わっている。現職に就いたのは2002年4月。早稲田大学人間科学部に助教授として加わり、翌年「スポーツ科学部」発足に合わせて異動。09年4月にスポーツ科学学術院教授となり、現在に至る。

「以前は、三菱総合研究所で研究員をしていました。1995年に文部科学省がスタートした総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業の効果測定の調査研究依頼を受けたことがキッカケとなり、スポーツ政策の研究に本格的に関わるようになったんです」

 研究員として地方自治体のさまざまなスポーツ基本計画の調査を受託したり、学会やシンポジウムなどで講演をしたりするうちに“スポ科”設立の話を耳にした。そのとき、入社から11年が経ち、自身を「潮時」と思っていたこともあって、転職を決意したという。

「シンクタンクは、お客さんに育ててもらう部分が多いんです。多くの要望を受けて、知らないことを調べて学び成長していく。けれども、11年もやっていると、学びの要素が薄れてきてしまう。もっとインプットしたい、という欲求が強くなってきていたんです」

 大学に移ってからは、公共スポーツ施設の調査研究を中心に行った。スポーツ政策の予算は、半分以上がスポーツ施設に使われている。なのに、経験上、大半の施設に使い勝手の悪さを感じていたこともあり、それら施設の在り方を改善することはできないか? と考え、動き出した。実際には、指定管理者制度が導入された(06年9月)前後でどのような変化が起こるのか、時系列に沿って研究を行った。

 1つは、90年代前半に公共スポーツ施設の運営を民間企業を含めたCCT(Compulsory Competitive Tendering/強制競争入札)に変えたイギリスからヒントを得て、ベンチマーク導入を提案。公共施設同士を比較することで経営改善が進むのでは、という思惑があった。

 全国規模でアンケート調査を行い、利用者数、利用時間、指導者数、コストなどを徹底比較。しかし、いざ始めるとアンケート回収率の悪さが目立った。というのも、イギリスでは高い評価を受けた施設に補助金がプラスされるのに対し、日本は現状が明確化されるだけ。施設として、協力するインセンティブがなかったのだ。

「それでもデータは取れましたから、反省と同時に収穫もありました。ほかには指定管理者制度が導入されるとき、財団法人
東京都スポーツ文化事業団から効果測定を含めて依頼があり、私が所長を務める早稲田大学スポーツビジネス研究所と契約を交わし、利用者の満足度調査も行いました」

 同じように、横浜市と協力して、市内17ヵ所のスポーツセンターを対象に、制度導入後に統計的にどれだけの伸びがあったのかも調査した。

現場直結のゼミ

「依頼をいただくものと、こちらから働きかけるものとの比率は半々ですね。ただ、働きかける場合『調査させてください』とお願いするのはナンセンス。そこは、調査から得られるメリットを挙げて先方に“提案”するんです」

 現在、修士課程に「観戦者の行動変容」を研究している学生がいる。彼女は、アメリカン・フットボールに興味をもたない人でも、実際に競技を観戦させると徐々に興味を抱くようになり、最終的にはファンになる、という仮説を立てた。実態調査では、アメフトを核とした街づくりを掲げる川崎市をターゲットにおいた。「市民がどれだけアメフトに関心をもっているのか、調べる必要があるのでは?」と提案すると、市は同意。先の学生が用意した質問も含むアンケートを作成し、川崎市民から無作為に5000人を抽出した調査に踏み切った。こういうちょっとしたテクニックはサラリーマン時代のノウハウだ、と教授は笑う。

 もちろん、依頼を受けたものについても、学生たちの研究や自身の学外活動にフィードバックする。その一例が11年に助手を務めていた庄子博人さん(現同志社大学スポーツ健康科学部助教)の博士論文だ。

 同年3月に博士号を取得した庄子さんは、日本プロサッカーリーグから委託された案件を担当。観客がどこから来ているのか、研究室がもつ地理情報システム(GIS)を用いて調査し、報告書を提出。代わりに、それらのデータから個人情報を抜いて学術論文として発表することを条件とした。そういった調査には、研究費もついてくる。つまり、学生でも研究活動で収入を得ることができる、ということだ。

「自然科学の先生方は最新の実験器具を欲しがります。それは、今までにないデータを取ることができるから。研究費を取ってきて機材を購入することが教授の仕事だとすれば、僕ら社会学の場合は、いいフィールドを作ることが仕事。いいデータを取るには、いいフィールドが必要で、そのために外部でいろいろなことをやっているといっても、過言ではありません」

 研究活動には、現場とのつながりは必須。しかし、スポーツ政策の現場に学生がアプローチするのは難しい。だからこそ、教授は「私を利用してください」と言うのだ。

「学生に学んでほしいのは、現場力というか、実際にフィールドに出て活動できる力。あとは、社会調査の基礎。企業に就職しても、マーケティングなどで使える要素ですから、どういうものか、きちんと知ってほしいですね」

 間野教授は学部生から社会人修士、OB・OGを含めたイベントを多く開催する。その背景には、学生は勉強以外のイベントごとで大きく成長する、という考えがある。学生たちには仲間としていい絆で結ばれてほしい。それが研究活動への動機づけにもなる、と話す教授の目は、厳しくも温かかった。

画像: ゼミ合宿中にはさまざまなレクリエーションも行われた

ゼミ合宿中にはさまざまなレクリエーションも行われた

Profile

まの・よしゆき

1963年神奈川県生まれ。早稲田大学スポーツ科学学術院教授。博士(スポーツ科学)。横浜国立大学教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。文部科学省「チームニッポン」マルチサポートプロジェクトアドバイザーリーボードメンバーを始め、スポーツ協会やプロリーグの理事、アドバイザーを多数務める。専門はスポーツ政策論。活動詳細はhttp://www.manosemi.net/を参照。

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