Playbackシリーズ「突撃! 研究室訪問」第8回は、国際武道大学大学院武道・スポーツ科学研究科・山本利春教授の研究室に突撃!
国内4年制大学で初めて「スポーツトレーナー学科」を設立した経緯と研究に迫った。
--※本稿は『コーチング・クリニック』の連載「突撃!研究室訪問」第12回として、2011年12月号に掲載したものを再構成したものです。

すべては現場から

 山本利春教授の研究室には、千葉県勝浦市の街と海とを一望できる大きな窓がある。日当たりもよく、とても心地いい空間だ。デスク前に置かれたボードには、学生からの贈り物が貼られている。そのなかに、教授も大ファンだという漫画『ワンピース』の登場人物をアレンジして描いたイラストを見つけた。書き込まれていたのは、「HAPPY BIRTHDAY FATHER」とのメッセージ。教授は、「学生たちは、僕にとって家族のように大切な仲間ですよ」と笑顔で話した。

 順天堂大学大学院体育学研究科を修了してすぐ、開校2年目の国際武道大学に助手として着任。それから勤続34年。教授は、文部科学省平成19年度特色GP(特色ある大学教育支援プログラム)に採択された独自の教育プログラム「学生によるスポーツ医科学サポートシステム」を作り上げた中心人物であり、スポーツトレーナー教育トップクラスの同大において、顔といえる存在である。

「開校2年面に、スポーツドクターを務めていた黄川(昭雄)先生に声を掛けていただきました。当時は『トレーナー』という存在を認識してはいるものの、専任スタッフとして大学に常駐させるという時代ではなかったんです。だからケガの予防・処置に対応できる人員がいなくて、黄川先生がいざ学生を診ようとすると、患者が列をなして後を絶たない。そこで先生は、まずはトレーナーが必要だと、僕を呼び込んだんです」

 そうして始まった助手生活は、毎日がフル回転。トレーナールームで全学生を対象にテーピングやコンディショニングを行ったり、遠征に帯同したり…。次第に「自分の分身を作りたい」と思うようになったことと、各クラブが欲する専属トレーナーを作るために、1期生(2年生)に声を掛けた。

「学生はトレーナーを目指して大学に入ってきたわけではありませんが、僕の活動に多くの子が興味を抱いてくれました。彼らを即戦力とするために、ご飯を食べたりお酒を飲んだり、生活を共にしながら基礎知識を教えていきました。時には、夜通しで勉強会を開いたりもして。当時僕は24歳で年齢も近かったし、学生たちは教え子というより仲間という感覚でしたね」

 そうして学生トレーナーチームの活動がスタート。1987年には学内施設のスポーツ医学実習室を改良し、アスレティックリハビリテーションルームをオープン。学外から「武大へ行けばトレーナーの勉強ができる」との声が聞こえるようになってきた。

 より充実した内容を求めてカリキュラムの改編に着手すると、94年に始まった日本体育協会公認アスレティックトレーナー制度の適応校に認定された。そして2001年、国内4年制大学では初めてスポーツトレーナー学科が設立された。これらはすべて、現場がきっかけ。これがポイントだ、と教授は言う。

 学科設立以降、今も学生トレーナーチームは成長を続けている。所属人数は100名を超える大所帯だ。チームの半分は各クラブで専属または選手兼トレーナーとして活動し、もう半分はキャンパスにあるリコンディショニングルームに常駐して、故障者にアスレティックリハビリテーションを施す。

実践ばかり、も不十分

 活動は学内に留まらず、山本教授が先頭に立って、県内外におけるさまざまな競技会にもスタッフ(ボランティア含む)として赴いている。遠征先のトレーナーテントでは、施術だけでなく、セルフコンディショニングの知識をもたない中高生に向けて指導することもしばしば。誰かに1を教えるためには、10を知る必要がある。そのため、出発前には学生たちで勉強会を幾度も重ねるそうだ。

「設備が整った大学は、ある意味で特別な環境。一般的な中学・高校、公共施設に同等のものを求めるわけにはいきません。そこで必要になるのが基礎知識に加えた応用力。つまり、さまざまなサポート技術を科学的視点から考察することができる力です。ストレッチングなら、ただ伸ばすのではなく、なぜこのストレッチングを行うのか? を考える。テーピングも1本1本に意味がある。裏付けを把握していれば自信をもって選手に指導することができるし、現場で代用を導き出すことができます」

 机上の勉強だけではトレーナーになれないが、実践経験ばかりというのも不十分。エビデンスをもった上でコンディショニングを行えるトレーナーを育てるためにも教授自身、指導の際には研究者としてデータに基づいた意見も述べるよう、心がけているという。

 山本教授のゼミにはチームの主要メンバーが所属し、大学院の研究室(コンディショニング科学研究室)には、そのチームを束ねて指導するコーチングスタッフが名を連ねている。ゆえに、学内における現場サポート状況や直面している課題、スポーツ医科学の最新情報などは自然に教授の下へ集まってくることになる。

「研究室では『柔軟性』『リカバリー』『筋温』などテーマ別に班分けして、研究を行います。毎週定例会を開き、それぞれが得た情報を交換・共有する。それをゼミやトレーナーチームに落とし込んだり、論文にまとめて学会で発表したりして、多くの現場に発信していくのです。我々、研究室の使命は理論と実践の橋渡しだと考えています。私たちが母体となって、学内のスポーツ現場をサポートすることでフィールドと科学とをつなぐ。そして、活動を通じて科学的知見をもったトレーナーを育成、輩出すること。大学として外せないポイントは、最終的に教育に結びつくことですからね」

 山本教授が教育と研究を行う際にイメージするのは、たくさんの葉と実をつけた一本の大きな樹。コンディショニングという太い幹があって、そこに、例えば『柔軟性』という枝を生やす。それはさらに『ストレッチング』『柔軟性測定評価』と分かれていく。それぞれの研究が葉となり、成果が実となる。もちろん、幹にはほかにも『アスレティックリハビリテーション』や『応急処置』や『測定評価』といった枝もあって、それぞれ細かく分かれては、葉や実をつけていくのだ。

「樹をイメージすることで研究の偏りをなくすことができ、自分たちの現状を一目で把握できる。仲間たちとともに、少しでも多くの葉と実をつけた樹を育てられるよう、どんな場面に出くわしても最適な情報を現場に届けられるよう、私たち研究室は走り続けないと! と思います」

画像: ジョギングを実施した際の下腿の深部筋温の上昇と、マッサージの効果を測定

ジョギングを実施した際の下腿の深部筋温の上昇と、マッサージの効果を測定

Profile

やまもと・としはる

1961年、静岡県出身。85年、順天堂大学大学院体育学研究科修了(スポーツ医学)。2000年、医学博士(整形外科学)。日本体育協会公認アスレティックトレーナーマスター、NSCA公認ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本ライフセービング協会公認インストラクター。特にスポーツ傷害の予防やリコンディショニングなど、スポーツ現場に役立つ実践的な研究や普及活動を行うかたわら、トレーナーの指導・育成に力を注いでいる。

This article is a sponsored article by
''.