マラソン理論の基礎を築いたといわれるニュージーランドの伝説的なランニングコーチ、アーサー・リディアード。彼のトレーニング理論をリディアード・ファウンデーションの橋爪伸也氏にひも解いてもらう。 ※『ランニングマガジン・クリール』2017年5月号から2018年4月号まで掲載された連載を再構成しました。

母国ニュージーランドで、女子高生たちと走るアーサ・リディアード ⓒGarth GilmourCollection

驚くべきは「人の適応能力」

「無名の『ゼロ』からあっと言う間にヒーローに…」というセリフがディズニーの歌にありました。

 トラック半周、200mを続けて走るのがやっとだったという20人の中年の心臓病患者が、たった8カ月で全員32㎞を走り、そのうち8人がフルマラソンを4時間前後で完走。ガーミンもエナジージェルもない時代です。

 日本のマラソン人口は600万人に届こうかという今日この頃。そのうち男子の平均完走タイムは4時間37分、女子が5時間7分。すべてがそろっている現代であっても、サブ4はそれなりに「高嶺の花」なのです。「4時間前後」のマラソンなんて、そんなに簡単に達成できるものなのでしょうか。

 リディアードのトレーニングは、「週に160㎞走る」というハードコアのランナーのための練習法、という見方がほとんどだと思います。リディアード門下のランナーたちが世界を牛耳った1960年代、その当時800mの選手だったスネルでも週160㎞(100マイル)、毎週末には35㎞を走るという「ものすごい」練習量に、世界中の専門家が舌を巻いたといいます。

 しかしそれは、リディアードの練習法がすごかったわけではなく、すごいのは私たち「人間の適応能力」なのです! リディアードの持論は、「自分が持っている『その都度の限界』というものを理解し、その限界内でトレーニングを繰り返せば誰でもその負荷に適応し、その限界を高めていくことができる」というものです。

無理して速く走る必要なし!

 さあ今日から走り始めよう! と思っているあなたも必見です。リディアードは、中年太りの20人の心臓病患者に対して、どのようなトレーニングを課したのかを見ていきましょう。

 第一歩として、15分間継続して走れるようになることを目指します。15分間走れたら、そこから強弱をつけて、「ハード/イージー」のコンセプトを守るようにします。リディアードの場合、15分ゆっくりを2日間続け、3日目に20~30分の継続走(ハード)をするようにしました。続く2日間はまた15分に戻り、ゆっくりと(イージー)、6日目にまた20~30分走ります(表1)。

画像: 無理して速く走る必要なし!

 ここで一番大事なことは、速く走ろうとする誘惑を抑制すること! この段階では、継続して走れる「時間」を延ばしていくことが大切なのです。ランをストップさせるのは「スピード」です。それよりもスピードを落として、継続して走れる総時間を延ばすことに集中します。

 皆さん、「有酸素/無酸素」という単語を聞いたことがあると思います。有酸素能力の最も重要な要素となる、毛細血管の発達とミトコンドリアの数をより効果的に増加させるトレーニングとは、「強度」ではなく「継続時間」に比例する、ということがわかっています。リディアードは、これを「筋持久力」と呼んでいました。この筋持久力の発達こそが、将来のためのより大きな受け皿を築き上げる第一歩となるのです。

 30分を快適に走れるようになったら、次には45分を目指します。ロング・ランが45分になっても、この段階ではまだ中2日間は15分に戻ります。この「ロング・ラン」によって、スタミナがみなぎってくるのを感じられるようになるはずです。ここまで来ると、スケジュールにバラエティーを加え、例えば週末の一番長いランを1時間、週の中間ロング・ランを45分、その間のリカバリーを15分と20分というパターンにします(表2)。このうちの20分走の1つを、スピード・プレイ、ファルトレクにするのもいいでしょう。

ロング・ランの継続が命

 日本の忙しい皆さんの場合、6日どころか4日か3日でもきついかも…などという人もいるかと思います。そんな場合でも、ここで揚げている「コンセプト」を守るようにすると、全体像が見えてきます。

 例えば週4日の場合は、ロング・ラン45分―15分―ファルトレク20分―15分…。週に3日しか走れない場合、前記の週6日のスケジュールを2週間に引き伸ばして、週3日ずつやればいいのです(表3)。このパターンで、かなり短時間に1時間以上継続して走れるようになります。

画像: ロング・ランの継続が命

 この段階では、ロング・ランの継続という点がポイントです。リサーチによると、2時間以上継続して運動をすることで、前記の「筋持久力」が一気に増大する、ということがわかっています。つまり、ゆっくりゆっくりのペースで2時間20分走ったとしましょう。この最後の20分こそが、本当のロング・ランの最大の効果となるのです。

 次回は、有酸素/無酸素トレーニングについて、詳しく説明してみたいと思います。

アーサー・リディアード
1917年ニュージーランド生まれ。2004年12月にアメリカでのランニングクリニック中に急逝。50年代中頃、「リディアード方式」と呼ばれる独自のトレーニング方法を確立した。その方法で指導した選手が、60年ローマ五輪と64年東京五輪で大活躍。心臓病のリハビリに走ることを導入した、ジョギングの生みの親でもある。

筆者/橋爪伸也(はしづめ・のぶや)
三重県津市出身。1980年からアーサー・リディアードに師事。日立陸上部の初代コーチを経て、バルセロナ五輪銅メダリストのロレイン・モラーと「リディアード・ファウンデーション」を設立。2004年以降はリディアード法トレーニングの普及に努めている。現在は米国ミネソタ州に在住。

記録を目指すならリディアード・ランナー
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