9月14~16日、神奈川・相模原ギオンスタジアムで関東学生新人が開催された。男子棒高跳に出場した江島雅紀(日大2年)は、5m45の大会新記録で優勝。すでに国際舞台を経験し、日本トップに絡もうかという江島が新人戦に出場した理由とは――?

写真:棒高跳で活躍が期待される江島雅紀

5m45の大会新記録で関東学生新人を制す

 9月初旬。学生の日本一を決める日本インカレの男子棒高跳で2位だった江島雅紀(日大2年)は悔しさがあふれる試合後にこう話した。

「来週の関東学生新人にも出場しようと思っています」

 関東学生新人は文字どおり“新人戦”ということもあり、関東の大学に所属する1・2年生が出場する大会。もちろん、日本インカレから連戦をする選手もいるが、日本インカレの選手になれず、来年の飛躍を誓う下級生たちが出場することが多い大会だ。

 競技は大会最終日の10時30分に4m50から開始された。江島が登場したのは5m20から。その時点で今年のU20室内を制している石橋和也(清和大2年)、アジアジュニア優勝の尾﨑駿翔(日体大1年)しか残っていない。

 5m20を江島と尾﨑が1回で成功し、石橋は3回目でクリアして食い下がる。5m25を3人ともパスし、大会タイ記録の5m30を石橋が1回で跳び、尾﨑はここで敗退した。

 それをパスしていた江島は、続く5m35を1回で跳び、石橋はクリアできず。優勝が決まった江島は5m45も1回で成功。すでに、ほかの種目はすべて終了し、14時半になろうとしていた。

 たった一人に会場の視線が集中した5m55。なかなか踏み切れなかったが、手拍子を求めた3回目は惜しい跳躍を見せた。僅かにクリアはならなかったが、貫禄の勝利を収めた。

画像: 関東学生新人では、三段跳の中村紗華(順大1年)と共に大会最優秀選手に選ばれた

関東学生新人では、三段跳の中村紗華(順大1年)と共に大会最優秀選手に選ばれた

原点に戻り、自分を変えるために出場

「久しぶりに楽しいって思える試合でした。右手首の痛みがあり、踏み切れず駆け抜けてしまうのもありましたが、マックスポールも使えて収穫がありました」

 江島雅紀は190㎝近い長身と抜群のセンスを備える規格外の選手。神奈川・荏田高3年時にはインターハイを高校新記録で優勝し、国体・日本ジュニア(現・U20日本選手権)も制して高校三冠も達成した。

 卒業後は日大に進学し、日本記録保持者の澤野大地に師事。入学すぐに5m61のU20日本新をマークすると、6月の日本選手権で2位となり日本代表としてアジア選手権に出場。そこでは5m65の関東学生新、日本歴代6位を跳んで2位。すでに数々の世界大会を経験し、将来を嘱望されている。

画像: 記録を持つ者、勝ち続けた者でしか感じられないプレッシャーを背負って戦っている(写真/中野英聡)

記録を持つ者、勝ち続けた者でしか感じられないプレッシャーを背負って戦っている(写真/中野英聡)

 そんな経験豊富な江島が日本インカレの疲労も残るなか、なぜこの大会に出場したのか。

「変わらなきゃいけない。前に進みたかったんです」

 他者からは順風満帆に見えるキャリアだが、この2年は悩みを抱えながら過ごしていた。

 タイトルを総なめにした高3シーズンと違い、強力な先輩たちの前にことごとく敗戦。関東インカレ・日本インカレ共に2年連続2位と悔しい思いをしてきた。

 5m65という大きな記録を“跳んでしまった”ことで、跳んで当り前、勝って当たり前という重圧を常に背負いながらの2シーズン。ケガもあって思うように跳躍ができず、試合後は目を真っ赤にすることも少なくなかった。

 なかには、「どうして江島がこの大会に出るんだ」という声もあっただろう。だが、江島にとって関東学生新人は大きな一歩を踏み出すきっかけとなった。

「記録は持っていますが、僕はこの世代の選手。同じ世代のなかでタイトルを取るというのは大切にしていきたい。大会新記録で優勝というのはしっかり目標にしていました。やっぱりうれしいです。一番上の景色はどんな大会でも変わりません」

 高校時代、小さな大会や記録会でも、しっかりと自分の課題を持って出場し、観客を沸かせていた江島。初心に戻り、伸び伸びと棒高跳を楽しみ、そして勝ち切った。と同時に、新しい感情も芽生えている。

「これまで以上に第三者の意見も自分のものにしていかないといけないと思っています。澤野先生とも、『まずは5m50を安定して跳べるようにしていこう』と話しています。これからは世界大会もポイント制になり、試合で結果を出すことが大事になります。それもあって出場しました」

 江島は常に“別格”という見方をされてしまうが、高校時代は同世代の選手たちに「全国高体連合宿で一緒にやろう」と声を掛けて参加するなど、この世代を結果以外の面でも大きな影響を与えてきた。江島がいるから、江島に負けたくないから――同世代のみならず、先輩・後輩たちにもそう思わせる選手だ。

「次の試合もしっかり自己ベストを狙っていきます。次はもっと笑顔で取材してもえるようにします!」

 恩師である澤野大地が持つ5m83を超えるのは自分じゃなきゃいけない――。多くの悔し涙を流した2シーズン。その鬱憤を晴らすべく、江島雅紀の逆襲が始まろうとしている。

文/向永拓史

画像: 日本インカで澤野大地コーチのアドバイスを聞く江島。もちろん、いつの日か恩師を超えるつもりでいる(写真/中野英聡)

日本インカで澤野大地コーチのアドバイスを聞く江島。もちろん、いつの日か恩師を超えるつもりでいる(写真/中野英聡)

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