子どもの野球離れが進む中、中学硬式のポニーリーグでは2010年に1400人ほどだった所属選手数が17年は3000人に倍増した。「野球は試合に出て覚える」との考えから機会均等主義を理念にうたい、選手に試合出場機会を与える工夫を施した運営が特徴的な組織だ。今年3月に新たに就任した広沢克実新理事長に話を聞く。

※写真上=ポニーリーグでは「試合に出て覚える」ことを指針に運営を行っている(写真はイメージ)
写真◎小倉元司/ベースボール・クリニック

野球は試合に出て覚える

 ポニーリーグでは「野球は試合に出て覚える」ことを指導の理念に掲げ、同一の団体であっても、12人単位で1チームを構成し、同じ大会に複数チームがエントリーすることを可能にしている。基本的にリーグ戦で公式戦を運営し、一定の試合数を確保。さらに特徴的なのが「リエントリー制度」で、これはスタメンの9人に限り、一度、選手交代で試合から退いても、再び試合に戻ることができるルールだ。

 小・中学生に限らず、野球はチームの規模が大きくなるほど、試合の出場機会に公平感がなくなるという課題を抱えています。100人を超える規模のチームで、公式戦でベンチ入りできる人数が限られる上に、試合に出場できるのはレギュラーだけ、という状況では野球に興味がなくなるのも致し方ない部分があります。
 われわれは、野球を選んでくれた選手たちの「代走でもいい、守備だけでもいいからフィールドに立ちたい」との思いに応えてあげたい。肉体的にも技術的にも長い将来にわたって成長が見込める小・中学生の年代ですからなおさらです。

「野球は試合に出て覚える」はポニーリーグの考え方の根底です。人数が12人そろえば、1チームを編成して大会にエントリーできるので、どんなにチームの人数が多くても全員がユニフォームを着てベンチ入りすることができるのです。
 また、試合では独自のルールとして「リエントリー制度」を採用しています。これは先発出場した9人は選手交代で一度、ベンチに退いても再び試合に出られる制度です。

 野球は社会に通用する人間の教育に貢献できるスポーツです。野球の練習、試合を通して「社会に役立つ未来の人材を育成する」ことはポニーリーグの指導理念の冒頭にも述べられています。
 一生懸命、野球に取り組んでもプロ野球選手になれるのはひと握り。ほとんどの選手がいつか野球をプレーすることとは離れた場所で社会の一員となります。

 私たちは野球をプレーする中で「試合に出るために」「試合に勝つために」「1点を取るために」「1点を守るために」と、目的を達成するために自分の力を高め、役割を全うし、時には味方のミスをカバーし、味方にミスをカバーしてもらう経験を積んでいきます。
 野球にはポジションや打順があり、そのつながりの中で役割を考えることも行っています。自分の強みと弱みといった内的要因を、味方との競争や相手との対戦という外的要因と照らし合わせて変化させることに努めたり、それを生かして対処しようとする。言わばSWOT分析(※)を自然と身につけているようなもので、社会生活に必ず役立つものです。

 それを経験から学ぶためにも、たくさん試合の場数を踏んでほしいという思いがあります。練習の球拾いをする、試合ではスタンドで味方を応援する、それも大事な役割かもしれませんが、この年代の子どもたちに、そこに自分の価値を見いださせようとすることは酷だと思います。

 大会への登録方式やリエントリー制度は子どもたちを全員、試合に出すことができる非常に工夫されたルールです。
 私も野球の固定観念にとらわれている部分があり、ポニーリーグに接して初めて、目を見開かされた感じがしました。「野球は試合に出て覚える」のですが、試合に出ることで野球から学べることも、とてつもなく大きいのです。

※SWOT分析
 組織などが全体評価を行うための分析手法。内的要因である強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)、外的要因である機会(Opportunities)と脅威(Threats)から評価する。

画像: 2018年3月からポニーリーグの理事長を務める広沢克実氏(写真◎ベースボール・クリニック)

2018年3月からポニーリーグの理事長を務める広沢克実氏(写真◎ベースボール・クリニック)

主役は少年たちである

 アメリカに本部を置くポニーリーグは中学生を単一とするのではなく、2年ごとにカテゴリを分けている。これは試合出場機会を増やすとともに、年長選手と年少選手の体格、体力の格差を考慮し、年少選手の負担を減じる方策だ。また、現行の「1試合最大7イニング、連続する2試合において最大10イニングまで」の投球回制限を来年以降、投球数で制限するルールに改定予定。リーグの仕組みで子どもの健康を守っていく。

 ポニーリーグはアメリカが発端となって世界的に広まった組織です。そのため、年代のカテゴリ分けも本部に倣っています。中学生を単体とするチームでは3年生と1年生が一緒にプレーすることになります。
 この年代の2学年では体力的な差が非常に大きい。ポニーリーグの仕組みでは、上の年代に合わせようとすることで、下の年代の子どもたちに無理を強いることがないのは好ましい点です。

 また、投手の現行の回数規定から、アメリカ本部からの通達により、来年からは球数を制限する方向で話が進んでいます。試合方式がリーグ戦で、負けたら終わりではありませんので、複数の投手が必要です。それぞれに機会を与えつつも、故障につながる過度な投球数を抑えていきます。
 当然、好投手が一人いても勝てないことが起こり得るわけですが、そもそもポニーリーグは「手段と目的を混同してはならない」との指導理念の中に勝敗を争うことは手段であり目的ではないとうたっています。

 日本からアジアパシフィック、そこからアメリカで行われる世界大会へと広く道が通じているのはポニーリーグの大きな魅力です。私はこの3月に理事長に就任し、6月から7月にかけてアジアパシフィックゾーンの予選を視察する機会がありました。国際的な組織で、この年代から海外の野球に触れる機会があることは非常に意味があると思います。

 私の目には韓国や台湾との攻撃への考え方の違いが印象的に映りました。日本はバントや進塁打など、自分がアウトになっても走者を進める“犠牲心”が随所に見られるのですが、韓国、台湾の選手は状況にかかわらず自分のスイングを貫いていました。
 野球の攻撃では最終的な目的は点を取ることですが、そのために個人ができる最大の貢献はアウトにならないことです。実際、その姿勢を貫いている台湾には今回、歯も立たず敗れました。

 今回、目にした戦いでは台湾、韓国の強さが日本を大きく上回っているようでした。それがトップ代表になると日本が上回れるようになるのは、中学以降の野球を取り巻く環境の国による違いが影響している気がしています。
 高校野球が広く行われている日本は、意思さえあれば野球を続けることができます。しかし、台湾、韓国は高校で野球を継続できるのは競技レベルの高さなど、一定の条件を満たさなければならず、限られた人間のみです。やはり、競技力を支えるのは裾野の大きさです。
 
 野球人口が減っている現実の中、普及の重要性を痛感する機会でもありました。ちなみに、このようなポニーリーグの国際大会の遠征費には3万5000円の本人負担の上限があり、超過分は協会が負担しています。

 選手が思い切って野球に取り組める環境をポニーリーグは協会、指導者とともにつくり上げていきます。暴力排斥、コンプライアンス遵守は監督会でも確認し、徹底している事項です。
「ポニーの主役は少年たちである」を指導理念に掲げ、選手たちが練習、試合をする姿を後方から見守る姿勢で指導にあたります。

 選手が花開くのはまだ先の年代です。そのために、私たちは勝利至上主義とは異なる立ち位置で、少年たちの成長の機会をつくっていきます。

《PLOFILE》
ひろさわ・かつみ/1962年4月10日生まれ。茨城県出身。小山高-明治大。大学時代は3年春秋のシーズンで首位打者に輝いたほかベストナインを3度受賞。84年ロサンゼルス五輪日本代表として金メダルを獲得。85年ドラフト1位でヤクルトに入団。95~99年は巨人、2000~03年は阪神でプレーした。現役18年間の通算成績は1893試合出場、6311打数1736安打、打率.275、306本塁打、985打点。打点王2回ほかタイトル多数。

文◎ベースボール・クリニック

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