2018年9月16日、ベルリンマラソンで、史上初2時間1分台に突入する世界記録、2時間1分39秒を打ち立て、歴史を大きく塗り替えたエリウド・キプチョゲが、11月上旬に来日し、一般ランナーや学生・実業団ランナーたちと交流した。
合同インタビューなどで発した言葉とともに、あらためて彼の強さの本質に迫りたい。
構成/クリール編集部 写真協力/NIKE
(上写真)世界記録更新時に履いたシューズのベースとなった「ナイキ ズームヴェイパーフライ 4% フライニット」を手にするキプチョゲ

“スタートラインに立つとき
『自分は最高だ』と
思えるように仕上げる”

画像: ベルリンマラソンのフィニッシュ直後、パトリック・サングコーチと歓喜の抱擁を交わす

ベルリンマラソンのフィニッシュ直後、パトリック・サングコーチと歓喜の抱擁を交わす

常に目的意識をもって

 神宮の杜の深い緑に、真新しいオレンジ色のシューズが鮮やかに映える。11月9日、ナイキ主催のイベントで、ベルリン後初来日となったキプチョゲとともに、神宮外苑をランニングする幸運な機会に恵まれた一般ランナーたち。その足元には、この日、日本で再発売された「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」があった。

 建設中の新国立競技場をバックに、走り終えたキプチョゲは参加者たちとハイタッチを交わす。わずか2カ月ほど前、その167㎝の体を驚異的な速さで推進させ、偉大なレコードを打ち立てたとは思えぬ、屈託のない笑顔だ。

「残り17㎞は独走でしたが、一人ぼっちだとはまったく思いませんでした。最後の1㎞まで、このペースをキープしなくては、ということだけを考えていました。30㎞を過ぎたところで、新記録をつくれるだろうと確信しました」

 継続的なトレーニング、情熱、そして自己管理。マラソンを走るために必要な要素について、キプチョゲはそう答える。その3要素を極限まで研ぎ澄ませ、「ブレイキング2」プロジェクト(17年5月)での2時間0分25秒で人類の可能性を示し、マラソンレース11戦10勝という勝負強さをみせ、そして今度は、2時間1分39秒という驚くべき世界記録と、偉大な足跡を残してきた。

「練習だけでなく、日々の生活をどう過ごすか。大事なのは毎週、毎日、毎時間、毎分、目的意識をもって常に準備をすることです。しっかりした準備をし、トレーニングができれば、自信をもってフィニッシュへ向かうことができます」

画像: 常に目的意識をもって
画像: 11月11日、東京・駒澤大学グラウンドで開催された「ナイキエリート ランニング キャンプ」にて、学生ランナーや実業団ランナーと交流。「日本人選手は努力を惜しまず、負けない精神力もある」とキプチョゲ

11月11日、東京・駒澤大学グラウンドで開催された「ナイキエリート ランニング キャンプ」にて、学生ランナーや実業団ランナーと交流。「日本人選手は努力を惜しまず、負けない精神力もある」とキプチョゲ

 誰もが興味をもつキプチョゲのトレーニング内容が垣間見られたのが、11月11日、駒澤大学グラウンドに集まった大学・実業団のランナーたちが、実際にキプチョゲが行う練習を体感した「ナイキエリート ランニング キャンプ」だった。

 彼が信頼を置くパトリック・サングコーチによれば、本格的にレースへの準備を始めるのは4カ月前。3カ月前からは最低6回のロング走(距離は40~42㎞)を行い、トラックを使ったインターバル走などのスピード練習(400m~2000mと長距離・短距離を交える)を週2回、さらにファルトレク(丘などの起伏のある場所を走る)を取り入れる。それらのポイント練習は連続させず、間の日は40~50%の軽い強度でのリカバリーランでつなぐ。最後のポイント練習はレースの7~8日前で、ベルリンのときは1200m×13本を1㎞3分18~21秒ペースで走ったという。

「『スタートラインに立つとき〝自分は最高だ〟と思えるように仕上げよう』。それが、コーチから掛けられた言葉で印象に残るものです」

 とはいえ、特別なメニューを行っている印象はない。これらの調整法は、過去6年間、何も変えていないそうだ。シンプルなトレーニングを、シンプルに継続する。それができる情熱の源は、「マラソンが好き」という純粋な気持ちだという。そしてそれこそが、本番でのメンタルの強さ、勝負強さにもつながるのだ。

「『ブレイキング2』のときも、いつもと変わらないトレーニングでした。でも、ただ一つ違ったのはメンタルです。『2 時間を切ることができる』と考えて走ったことが大きな違いでした。リミットは、自分で設定してはいけないのです」

美しいレースをしたい

 継続的なトレーニングを行ううえでも、キプチョゲはリカバリーを重要視する。バランスのとれた食事を心がけ、夜9時にはベッドに入り、朝5時45分に起床するまで、約9時間とたっぷり睡眠をとる。

 そうしたリカバリーを促す意味でも重要なのが、いまランニング界を席巻するナイキの〝厚底シューズ〟だ。常識を覆す軽さと、前方への推進力だけではない。抜群の衝撃吸収性によりダメージを和らげることで、リカバリーを早め、次の練習やレースへ向けた準備にスムーズに移行でき、ライバルたちとの差を生む。そして、ベルリンでパートナーとなったのが、「ブレイキング2」に合わせて開発された厚底シューズの進化版、「ナイキズーム ヴェイパーフライ4% フライニット」をベースとしたシューズだ。

「速く走り続けるためにも、軽くて、快適で、衝撃をしっかり吸収してくれる。そして、リカバリーを促してくれる理想的なシューズです。世界記録を出せたのも、ナイキからのサポートがあってこそ。シューズの改良のためにテストを行い、毎日のようにナイキへ意見をフィードバックしてきました。そして、ナイキの改良のスピードも、ものすごく速いものでした」

画像: 一般ランナーとのランニングセッション後は、屈託のない笑顔で撮影にも気軽に応じていた

一般ランナーとのランニングセッション後は、屈託のない笑顔で撮影にも気軽に応じていた

 これからも、シューズの進化へ期待するのは「さらなる軽さと快適性、衝撃吸収性」だという。互いに、リミットはない。1時間台という未知なる領域へ進むためにも、キプチョゲとナイキの二人三脚は続く。

 そして、1年半後に迫る2020年東京オリンピックだ。この世界王者には、前回の1964年東京大会でのアベベ・ビキラ(エチオピア)に並ぶ、史上3人目となる五輪男子マラソン2連覇の偉業もかかる。

「東京オリンピックはもちろん、(目指すレースの)リストには載せています。猛暑でのレースといわれますが、誰もが同じ状況で走るのですから問題はありません。天気が良かろうが、悪かろうが、レースはレースです。いつも通り練習をして、準備をして臨むだけです」

 これまでと同じく、あくまで自然体の王者。さらに、どんなレースを見せたいかという質問への答えに誠実な人柄がにじむ。

「美しいレースをしたい。みんなが楽しんでくれるレースを。マラソンは、世界中の人たちに感動を与えることができるし、自分も感動を受けることができる競技ですから」

 勝つだけではなく、誰しもの心に残る走りを――。足元のスウッシュとともに、キプチョゲが真新しい国立競技場へと駆け込んでいく姿が、いまから待ち遠しい。

エリウド・キプチョゲ
世界記録への準備

◎マクロサイクルとして、おおよそ4月と10月にピークをもってくるように調整している。
◎「リカバリー」「準備」「レース前」「レース」と4つの期間に分けて練習。準備は本番4カ月前から。
◎レースへ向け、3カ月前から40~42㎞走を最低6回行う(ペースは1㎞/3分20秒程度)
◎ スピード練習は400m、1000m、1200m、1600m、2000mと、日により長・短距離をミ
ックスして行う(ペースは速いときで1㎞/2分40秒程度)
◎レースの7~8日前に最後のポイント練習。今回のベルリン前は1200m×13本(ペースは1
㎞/3分18~21秒)

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