関学大と早大の対戦となった今年の甲子園ボウル。選手個々の力に大きな差はないと思われたが、関学大の完勝ともいえる結果になった。勝敗を分けたのは何か。関西アメリカンフットボール・コーチズアソシエーション(KAFCA)の茨木克治代表が、頂点を目指したゲームを分析する。

 早 大 7 0 7 6 = 20
 関学大 10 17 7 3 = 37

上の写真=QBサック、インターセプトと大暴れした関学大ディフェンスラインの三笠大輔 撮影:佐藤 誠

フットボールは準備のスポーツ

 第3クォーターには、早大が3回の攻撃でも追いつけないほど点差が開いたため、接戦を望んでいた人たちの期待に応えられなかったかもしれない。しかし、随所に両チームのカラーが見られた。

 フットボールは、準備のスポーツである。60分の間に、自分たちの得意なことができるよう準備し、相手に得意なことをさせない対策を用意する。その結果、想定を超えたビッグプレーが生まれる。

 試合の流れを大きく変えることになった。関学大のディフェンスライン/ラインバッカー板敷勁至のパントブロックですら偶然ではなく、必然だった。

 早大のキックオフで始まったゲームは、立ち上がり、ともに最初のシリーズ、テンポのいい攻撃でタッチダウンをあげた。ここまでは攻撃優位に見えたが、点の取り合いにならないのがフットボールである。

 7-7の同点から、2度エンドゾーンに迫りながら、早大の好守にタッチダウンを阻まれた関学大だったが、第2に入ると、攻守とも関学大らしい平常心のフットボールを実行した。このことが勝敗に大きく影響したと考えている。

勝敗を分けた両チームのラン

 関学大には松井理己、小田快人、阿部拓朗という歴代最高ともいえるレシーバーが3人揃っていた。しかし、どんなにいいレシーバーがいても、パスでスーパープレーを見せたいというのは、関学大の本音ではないはずだ。

 エースランニングバックの山口祐介を故障で欠いているとはいえ、オフェンスコーディネーターの大村和輝アシスタントヘッドコーチは、ランである程度コントロールして、つなぎに3人のレシーバーにパスを投げ分けるというプランをもっていただろう。それが関学大の勝利へのストーリーだった。攻・守ランゲームを支配したいのは、全チームの理想である。

 ランでゲームをコントロールする、それができたのが関学大で、それができなかったのが早大。それが勝敗の差となった。

 早大には元山伊織という絶対的エースランナーと片岡遼也という2人の優秀なRBがいる。片岡は本調子ではなかったようだが、元山が小気味よく走り回ることができなかったのは誤算だった。彼自身の持ち味である1対1をパワーとスピードではねのけてからのロングランを見せることができていれば、戦況は変わっていただろう。

 0-7とリードを許した直後の早大の最初のシリーズで元山がタッチダウンをしたが、あのようなプレーを1試合通じて継続して出すというのが、今季の早大のフットボールだった。しかし、残念ながらそのような場面がそれ以降、ほとんど見られなかった。

 彼は、高校時代からランニングバックとしてチームを牽引していたが、早大4年間で更なる成長を遂げたことに驚いている。

 点差が開いてからの第4Qは、早大のオフェンスではない。キャッチアップするためにパスを多投した。このような展開は、彼らも不本意だったと思う。

見事だった早大のゴールラインディフェンス

 関学大は、関西のリーグ戦や甲子園ボウル出場を決めたウエスタンジャパンボウルで、苦しい試合をしてきた。京大、関大、立命館大のディフェンスが、関学大のオフェンスをコントロールする場面が何度も見られた。早大は、それらの試合を参考にするのではないかと思っていた。しかし、関西の試合を参考にした部分は見受けられなかった。

 とはいえ、前半のゴール前ディフェンスは立派だった。3人のディフェンスラインと、ラインバッカーの中村匠の動きが素晴らしかった。関学が、あんな止め方をされるんやと、思うほど完璧な止め方をしていた。7-7になったあとのゴールラインディフェンスでは、関学のオフェンスラインが、前にステップを踏めていなかった。

 タッチダウンになってもいいシーンを2回にわたってフィールドゴールで抑えたあとの、パントブロックでゲームが大きく動いた。あのパントブロックは大きかった。関学大をほっとさせるあのプレーのあと、いいフィールドポジションからタッチダウンを奪って、関学大は自分たちのフットボールを取り戻した。

 あのシーンのパントブロックは狙っていたと思う。その前のパントラッシュのときにブロックできるという感覚をつかんでいたはずだ。

画像: パスをカットする早稲田主将ディフェンスラインの斉川 撮影:佐藤 誠

パスをカットする早稲田主将ディフェンスラインの斉川 撮影:佐藤 誠

キッキングで準備力を見せた関学大

 キッキングは関学大が素晴らしかった。特にキックオフカバー。カバーチームの選手が一生懸命走っているからだが、リターナーのブレナン翼にあえて蹴っても、20~25ヤードで止めていた。これは立派だった。

 普通は、エースレシーバーのブレナンに蹴らないように準備する。しかし、滞空時間の長いキックを蹴って、カバーチームが全速力で走り、ノーリターンでストップする考えだったようだ。このあたりは関学大の準備力。早大の一番の持ち味をどう崩すかと考えたときに、あえてブレナン勝負でつぶしにいった。

 個人的なブレナンの能力はすごい。片手のキャッチも素晴らしかった。ミッドフィールドでのブレナンへのパスは成功率が高い。しかし、背中が狭くなったら(ゴールラインが迫った状況では)、関学大のディフェンスバックが対応できていた。

 早大としては、そういう状況で元山のランがほしい。そうすればもう少し、タッチダウンの確率が高くなる。終盤のように点差が開いたらそんなのは必要ないが、立ち上がりでも、元山や片岡のランが出れば、レッドゾーンでも、ブレナンや遠藤へのパス成功率も高くなる。

 しかし、終盤のようにパスを主体にせざるを得なくて、ブレナンで張られたら、関学のディフェンスバックの能力が対応できる。25番横澤は勝負を楽しんでいるようだった。点差の余裕もあったのだろう。それでもブレナン、遠藤健史、クォーターバックの柴崎哲平のホットラインの精度は高い。特に遠藤へのタッチダウンパスはよかった。

レシーバーが目立たない関学は強い

 後半、先に7点をとられたら、関学大ものびのびできなかったはず。後半に先に点をとったのもよかった。じりじりと点差を広げられると、早大の守備は集中力が切れる。終盤はスタミナが切れていたようでもあった。

 それが原因の、関学大ランニングバックの三宅昴輝や渡邉大に、けっこう長いランが出だした。その上、クォーターバックの奥野や光藤のランに振り回されるから余計に疲れる。

 スタッツは早大のオフェンスはパスで311ヤードに対して、ランがわずかに74ヤード。ゲームプランとは逆だったのではないだろうか。

画像: 甲子園ボウル敢闘選手の早大QB柴崎哲平 撮影:佐藤 誠

甲子園ボウル敢闘選手の早大QB柴崎哲平 撮影:佐藤 誠

 一方、関学大はランが50回で287ヤード。これができればエリアコントロールも、タイムコントロールも楽にできる。リスクのあるプレーコールをする回数が少なかったということだ。

 あの才能ある3人のレシーバーが目立たない関学大は強い。レシーバー陣が目立って、すごいなあ、という時の試合は、危ない試合ばかり。ランで287ヤードはゲームを完全にコントロールしていたことを示している。逆に早大は、パスで獲得した311ヤードは、何もうれしくないだろう。

チャック・ミルズ杯 関学大QB奥野の才能

年間最優秀選手賞、チャック・ミルズ杯を獲得した奥野は、走って投げられる。落ち着いていてクール。熱くならないタイプの選手である。

 聞いた話だが、彼に相手チームを想定したスカウトチームのクォーターバックを任せるとレギュラーチームが止められないそうだ。それで奥野の評価が部内で高まった。それくらい彼の動きには得体のしれないところがある。

 スカウトチームのQBは、アドリブがきかないといけない。彼もチェスナットリーグ(ジュニアフットボール)出身。ちなみに、昨年のチャック・ミルズ杯の日大のクォーターバック、林大希もチェスナットで小学生のときからフットボールを始めている。

画像: 年間最優秀選手(チャック・ミルズ杯)と甲子園ボウル最優秀選手の関学大QB奥野耕世 撮影:佐藤 誠

年間最優秀選手(チャック・ミルズ杯)と甲子園ボウル最優秀選手の関学大QB奥野耕世 撮影:佐藤 誠 

 奥野のよさはうまさに尽きる。判断が早く、動き回れる。立命館大を想定するとオフェンスラインがもたないという状況は容易に想定できる。そのようなシーンでは、4回生の西野航輝より2回生の奥野のほうがなんとかするだろうという可能性がある。

 レイトヒットの反則のとき、奥野はヘルメットを叩いてアピールしていたが、少し生意気な感じがした。いいフットボール選手には、ある種のいやらしさ、ずるがしこさは必要だ。奥野からはそんなフットボーラーの才能を感じた。まだ2回生、日大の林とともに、学生フットボール界を牽引していってほしい。

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