会場のボルテージが一気に最高潮に達するのが「選手入場」。彼ら彼女らは、その日のために用意したお気に入りのコスチュームに身を包み、ぽっかりと光に照らし出された決闘場へと、一歩また一歩とゆっくり進んでいく。
「闘争心をかきたてるため」という者もいれば、「逃げ出したくなる気持ちを抑えるため」という者もきっといるだろう。
 1対1の戦いの場に向かう背中を後押ししてくれる──。選手たちは、それぞれの感性をフル稼働して、ふさわしい入場曲を選んでいる。
 曲調も多彩、歌詞のある曲であれば、その歌詞に込められたメッセージも。選手のセンスがあふれ、戦士たちの心情をなおいっそう理解する上では、入場曲はわれわれ第三者にとっても欠かせないアイテムだ。

 入場曲に込められた想いを選手自身に語ってもらう。第2回は、あのワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に並ぶ12戦目で3階級制覇を果たした最速男、田中恒成(畑中)。今年映画が公開されて再評価されているQUEENのあの名曲だ。

『I Was Born To Love You』QUEEN
※元々は、ヴォーカルのフレディ・マーキュリーがソロ活動の中で1985年に発表したシングル。1991年にフレディが逝去した後、1995年にQUEENバージョンが発表された。

 父さん(斉さん)が、たぶんちょっと(クイーンを)好きだったんですよ。車の中ではカセットテープかMDで聴いていました。そのころ父さんは可児(岐阜県可児市)でうどん屋をやってたんで、
土曜日とかだけオレはお店に行くんですけど、その車中で聴いていて。
 あと、そのころやってた空手の試合って、月に1回とかじゃなく、毎週やってたときもあって、試合に向かう車の中で、クイーンか尾崎豊がかかってたんですよ。
 あ、だからオレ、尾崎豊もけっこう歌えるんですけど。

 クイーンの中でも、あの曲が好きで……。空手の試合のときに、好んであの曲をかけてたんですけど、あの曲を聴くと、緊張するんです。空手の試合は、インターハイのときとかよりも緊張してた。
小学生のときの空手、試合が怖くて……。
 だから、緊張するので、あの曲を入場曲にしたんです。あの曲を聴くと怖くなっちゃう。
試合モードにするとかじゃなく、緊張するためにあの曲にしたんです。

 オレ、緊張が悪いことだと思ってないんで。「緊張は本気の証だー!」って(笑)。
オレはいま、本気なんだよという(笑)。

 曲を聴く前からもちろん緊張してるんですけど、まあ、もう緊張しとるんで、“さらに緊張するために”とかじゃないですけど(笑)。

 試合ないときでも聴くと、ドキドキするのはありますね。最近はもう、試合重ねて、慣れっていうか、ああ、またいつものだなっていうのがありますけど、元々はバクバクしてた。

名曲にノッて、颯爽と登場する姿に、何度鳥肌が立ったことか……(2018年3月31日、ロニー・バルドナド=フィリピン=戦)

 あの曲を使いだしたのは3戦目からなんです。1、2戦は適当な曲(笑)、っていうか、毎回曲を変えようと思ってたんですよ。
 1戦目は洋楽で、ピットブルの『ドライビング・アラウンド』。ピットブルは有名ですけど、この曲はあんまし有名じゃないと思います。

中京高校3年の秋にプロデビュー。しかも相手は世界ランカーだった(2013年11月10日、対オスカー・レクナファ=インドネシア)

 2戦目は、違う曲を使おうかと思ってたんですが、結局、『ドライビング・アラウンド』をまた使いました。
 やっぱり入場曲はずっと一緒のほうがいいかなって、やっと気づいて……(笑)。でも、最初の予定どおり、毎回別の曲を使っていたにしても、『I Was Born To Love You』は大切な試合のときに使おうと決めてました。これ、大切な曲だなって思っていたから。

『I Was Born To Love You』を初めて使った3戦目。スモークが噴き出す中、リングに登場した
2014年7月20日、クリソン・オヤマオ(フィリピン)戦より。

画像: 同じく3戦目より。リングインした恒成の表情は、やっぱりかなり緊張してる!?

同じく3戦目より。リングインした恒成の表情は、やっぱりかなり緊張してる!?

 みんな曲の歌詞を自分に当てはめたり、思い入れがある曲を使うんですよね。で、使っているうちに、その選手っぽくなってきますしね。
 木村(翔=青木)選手の『Forever Young』(竹原ピストル)は、正直、入場曲っぽくないですけど、だけどカッコよかったですよね。盛り上がる曲じゃないけど盛り上がりますよね。
人が人だから。その人のカラーですよね。

画像: 田中恒成の入場では、膨大な幟(のぼり)も印象深い。大量の幟の森の中から現れる瞬間は、ある種神々しい(2017年9月13日・パランポン・CPフレッシュマート=タイ=戦より)

田中恒成の入場では、膨大な幟(のぼり)も印象深い。大量の幟の森の中から現れる瞬間は、ある種神々しい(2017年9月13日・パランポン・CPフレッシュマート=タイ=戦より)

 最近、映画『ボヘミアン・ラプソディ』観てきました。
『I Was Born To Love You』は劇中1回も流れない。バックミュージックみたいので流れるだけ(笑)。
 みんながあまりにも「スゴイ感動した」「泣ける」って言うもんだから、期待しすぎちゃったところもあります。
 たしかに良かったですけど。感動したし、おもしろいし、ちょっと思うこともあって、いろんな意味でいい映画でした。

 そうそう、オレ、あの曲、フルで歌えますよ。ホントはあんなん、歌える曲じゃないじゃないですか。でも、なんだかんだで歌う機会が多くなって……。
 あれ、のどの調子に左右されるんですよ。この前、お世話になっている記者さんたちとカラオケ大会をしたんですが、そのときは、司会進行をやってたんで、それでもう声が枯れちゃって……。
 最後に歌うときはもう、いちばん最初から何ひとつ声が出なくて、みんなからディスられまくりました(笑)。

取材_本間 暁 写真_ボクシング・マガジン

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