写真上=ニエテス(右)と激しくパンチを交換する井岡
写真◎Getty Images

「高度なゲームをしているように楽しかったが、勝たないとなにも意味はありません」ーー。井岡一翔の言葉は真実である。ボクシングは勝ちと負けとで、手にできる世界はまったく違う。一度の敗北がその後の競技生活のすべてを白紙にしてしまうことさえある。それでも、大晦日、マカオのウィン・パレスホテルで行われたWBO世界スーパーフライ級王座決定戦12回戦は、その井岡自身にとっても有意義な戦いだった。

きわめて高度な技術戦

 軽量級きっての実力者同士が競い合った世界王座4階級制覇の先陣争い。ハイレベルな技巧が火花を散らし、深甚とした読みと気高い叡智が交錯する展開の変化に陶然とした。

 序盤の激しいペース争いを制したのは、36歳の老練ドニー・ニエテス(フィリピン)。カウンターの右ストレートから素早い返しの左フックで、深いクラウチングスタイルタイルから積極的に出てくる井岡をはじき返していく。

 ニエテスにとって一番に警戒すべきは井岡がジャブを口火に作ってくる距離だったが、十分に対策を練っていた。「左ジャブに合わせてこちらもジャブを打ち、すぐに右ストレートを打ち込んだ」。不用意な打ち合いから、井岡は危ないタイミングのパンチを何度も打ち込まれた。

 この展開では厳しいと悟った井岡は5回に戦法を一転させる。それまで直線的な攻めに重点を置いていたが、フットワークを使い始めた。バックステップしてからサイドに動いて、的を絞らせない一手だ。しかし、ニエテスは鋭敏にこれに反応する。井岡のアプローチに切れのいいパンチを合わせ、流れを明け渡さない。終盤、やや展開は緩んだが、井岡の追い上げをそのまま振り切って、規定のラウンドを戦い終えた。

 判定は1者が116対112で井岡の勝ちとしていたが、残る2者は118対110、116対112でニエテスを支持していた。

「燃えるものを心に感じる」と井岡

敗れてもなお「燃えるものを感じている」と井岡
写真◎ボクシング・マガジン

「今できることをやりきったつもりはあります。それでも勝てなかったのは、今日が僕の日ではなかったということです」

 最強のロマンを抱き、日本のリングを捨てた井岡だ。あとは自らの拳だけで道を切り拓くとも。この敗北に「もっと攻めておけばよかった」と後悔はあったとしても、大志が削り取られることはないと断言した。

「僕の目指した道はそれほどに難しいということです。心の中に燃えるものを感じています」
 どこまでも淡々と語る口調が、かえってその決意の深さを感じさせた。

 ニエテスは「イオカは強いボクサーだ。彼がうまく判断して戦法を変えていなかったら、私はノックアウトしていただろう」と語る。リマッチに関しては「その気持ちはある。ただ、その前にローマン・ゴンサレス(帝拳/ニカラグア)やファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、シーサケット・ソールンビサイ(タイ)と戦いたい」と語っている。

 また、井岡、ニエテスが参戦予定の軽量級最大のイベント『SUPER FLY』のプロモーター、トム・ロフラーが試合場を訪れ、3月予定の第4弾に両選手の招聘を示唆した。「両者ともに賞賛される戦いだった。点差はない。実際、イオカの勝ちだとする声も多く聞いている。リマッチもありえると思う」。

 結果こそ残せなかった井岡だが、この一戦でその行き先がいよいよ楽しみになったことは間違いない。

取材◎宮崎正博

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