写真_山口裕朗 Photo by Hiroaki Yamaguchi

 1月19日、東京・後楽園ホール。セミセミファイナルで行われたバンタム級8回戦で、日本同級ランカー対決に敗れた定常育郎(T&T)は、青コーナー側の扉を入ると、静寂の中、それまで抑え込んでいた感情を堪えきれずに突っ伏した。
 倉永丈雄代表兼トレーナーが、そっと右手を彼の背中に置く──。

 自身もかつてプロボクサーとしてリングに上がっていた写真家の山口さんは、「昔々、自分が敗れて涙したときのことがフラッシュバックして、反射的にレンズを向けていた」というが、これを公開すべきかどうか、惑ったのだという。
 が、「定常くんは、これで終わるボクサーではないと感じたので」世に送り出したのだった。

 定常育郎という、弱冠21歳の若者が、日々どれだけの想いをこめて、取り組んできたのか。そして、このふたりがどんな関係性を持つ間柄なのか。あらためて文字にしなくとも、この瞬間を切り取った1枚が、すべてを物語っている。動く映像や音声があっては、到底伝わらない、瞬間の1枚だからこその神秘がある。

 試合の4日前に書店に並んだ『ボクシング・マガジン2月号』「選手ファイル」で、定常を掲載した。試合間近の選手を取り上げるのは、ある種の冒険。編集側にとっては、めったにしないことである。だが、今回は「勝っても負けても関係ない」という判断の下、年明け早々に取材に向かった。記者は、定常が持つ“光”を感じ取っていたから。そして、90分間、彼のこれまでと考え方を聞き、2時間超のトレーニングを見つめて、それを確信した。

「さらにさらに“本物の強さ”を手に入れていく“ゾーン”に突入した」と、記事を結んだ。
その想いは、この敗戦を見てもなんら変わらない。いや、むしろいっそう深まった。

文_本間 暁

山口裕朗ウェブサイトhttp://foto-finito.com/

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