コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2016年5月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。

文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)

第3回「ウオーミングアップはどれくらいすればいい?」

一般的ウオーミングアップで必要なこと

 日々のコンディショニングとして重要なウオーミングアップについて、あらためて考えてみましょう。

 まずウオーミングアップとは、筋肉の温度(筋温)を適正なところまで上げる、柔軟性を高める、神経系を高める、耐乳酸性を上げることを目的とした「一般的ウオーミングアップ」と、各競技動作への導入(野球であればキャッチボールやトスバッティング)である「専門的ウオーミングアップ」に分けられます。

 今回は、一般的ウオーミングアップについて着目した内容を紹介します。

 さて、一般的ウオーミングアップについてよく聞かれるのは、「どれぐらいやったらいいのか?」ということです。
 それに対するキーワードの1つが「筋温」になります。筋温とハイパフォーマンス(ジャンプや投げるなど一瞬に大きなパワーを出す能力)との間には深い関係性があります。

画像: 一般的ウオーミングアップで必要なこと

 図Aを見てください。縦軸がハイパワーパフォーマンス、横軸が筋肉の温度模式図を示しています。筋温が高くなるとハイパワーパフォーマンスも高くなっています。
 つまり、筋温をコントロールすることがパフォーマンス発揮には重要な要素であり、その筋温を高めることがウオーミングアップとなります。

 しかし、図Aでは、ある一定の温度を越えると逆にハイパワーパフォーマンスが低下しています。
 では、何度以上筋温が上がるとパフォーマンスが低下するのでしょうか? これは研究によって示されている限りだと、40℃前後だと考えられています。この温度は熱中症になるような危険な状態だと言えるので、パフォーマンス発揮どころではないのは当然かもしれません。

筋音を温めた場合でパフォーマンスは変わる?

「筋温が変わると本当にパフォーマンスは変わるのか」について実験した結果を紹介します。筋肉を温める方法はジョギングとし、筋温測定場所は太ももとしました。なお、ハイパワー測定項目はスクワットジャンプでのパワーを計測しています。

画像1: 筋音を温めた場合でパフォーマンスは変わる?

 図Bを見てください。筋温上昇によりハイパワーの値は高くなり、筋温が安静時から38℃上昇したときが最もハイパワー能力を発揮しやすいことが分かります。

 同じようにパフォーマンスに影響し、ウオーミングアップによって高められるものとして、神経系の活動があります。そこで、筋温の上昇が神経系の活動に影響するのかについて実験した結果を紹介します。

画像2: 筋音を温めた場合でパフォーマンスは変わる?

 図Cを見てください。神経系活動測定は立位でのステッピングテスト(5秒間にどれだけ足が速く動くか)を採用しています。結果は、36℃に上昇したよりも38℃に上昇したほうが有意にステッピングテストの結果が良くなっています。つまり、ちょっと筋温を温めるよりもしっかり筋温を上昇させたほうが神経系の活性化が図れるということになります。

筋温を38℃上げるために必要な時間は?

 やはり筋温が高いほうがハイパワーおよび神経系パフォーマンスの結果が良いことになり、38℃に上昇させた場合が最もパフォーマンスが高いということが分かりました。
 しかし、体温であれば体温計等ですぐに計測できますが、残念ながら筋温は簡単に計測することはできません。

 では、どのように筋温が上昇したと考えるのか。これについては、前記の実験の際に38℃上昇した時間を計測した結果が、1つの参考になると思います。

画像: 筋温を38℃上げるために必要な時間は?

 図Dを見てください。筋温が36℃になるには約3分30秒、37℃になるには約7分、そして38℃になるには約16分かかりました。これが1つの目安となると考えられます。
 ただし、図でも示してあるように、個人差があります。36℃および37℃に上昇させる際のバラツキは約1分、38℃に上昇させる際には約5分のバラツキがあります。

 以上を踏まえると筋温を38℃上に昇させるためには10~20分ぐらいの一般的ウオーミングアップ時間が必要ではないかと考えられます。

 なお、考慮しなければならないことが季節です。夏であれば筋温は上昇しやすいですし、冬であれば筋温上昇に時間がかかります。
 今回紹介した実験を実施した季節は秋で、気温は約20℃でした。従って、夏や冬はこの結果を踏まえて調整することが必要となります。

まとめ

 筋温の上昇は野球のようなハイパワーな要素が求められる競技にとっては重要です。ただし、季節によって体の反応は異なる可能性があること、さらに着用している衣服についても変わってくると考えられます。

 現場でこの結果を活用するのであれば、さまざまな状況を踏まえてアレンジしていただければと思います。一つ言えるのは、1年を通して同じウオーミングアップを行うことは理想的ではないということです。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー

文責◎ベースボール・クリニック編集部

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