子供のケガ、保護者とのトラブル……。
チーム活動をしていると、さまざまな問題が起こったりする。
プレー面以外のことで悩まされた経験を持つ指導者は少なくないだろう。
しかし、何かが起こったときの対処を誤ってしまうと、
大問題に発展して取り返しのつかないことにもなりかねない。
ここでは、ある問題に対するリスクマネジメントの方法を専門家に聞く。
1回目は「子供のケンカ」、2回目は「遠征先の事故」というテーマを扱ったが、
最終回となる3回目は「試合会場での盗難」の対処法を紹介する。

(出典:『サッカークリニック』2018年9月号)

取材・構成/直江光信
写真/BBM
イラスト/丸口洋平

【QUESTION】
試合会場で盗難事件が発生してしまったら、
どうすればいいでしょうか?

犯人探しに利点なし
「第三者機関」に任せる

 万が一、練習場や試合会場で盗難が起こったときは、まず警察に届けるべきです。無闇に自分たち(クラブ)だけで解決しようとしても、いいことはありません。例えば、「手袋がなくなった」程度であれば「みんなで探そう」でもいいかもしれませんが、明らかに盗難が疑われるような場合は、速やかに警察に連絡するほうがいいでしょう。

 こうしたケース(盗難)で最も問題になるのはお金の紛失だと思います。ただし、身内で犯人探しをしたところで誰も幸せにはならないでしょう。指導者が「全員、バッグの中身を出しなさい!」と言ってチェックしたとしたら、その時点でチーム内にギスギスした雰囲気が生まれてしまいます。その上、お互いの信頼関係が崩れていくでしょう。

 もし、そこで誰かのバッグからお金が出てきたら、どうなるでしょうか? おそらく、当該選手はもうチームにいられなくなるでしょう。仮にその子が本当に盗んだのなら仕方がないかもしれませんが、その子が盗んでなかった場合は最悪です。お金にはいちいち名前を書いたりはしませんから、そのお金が誰のものなのかを証明するのは非常に困難です。

 そして、その子が一度疑いをかけられたら、疑いを晴らすのも簡単ではありません。そうしたことを踏まえても、「第三者機関」として誰にとっても公平に対応してくれる警察に任せるのが最善の方法だと思います。

 逆に考えれば、クラブ側や指導者が、そうした盗難にまで責任を負う必要はないとも言えます。もちろん、練習場や試合会場など、たくさんの人が行き来する場所に無造作に荷物を置かせたりするのは問題ですが、きちんと管理している状況で起こった盗難については、指導者(クラブ)が無理に首を突っ込むべきではありません。

 例えば、1カ所に全員の荷物をまとめ、「荷物当番」として大人が1人ついていれば、盗難などはそう簡単には起こりません。クラブ側にできる最良のリスクマネジメントは、管理体制をきちんと整えておくことであるとも言えます。そこで「私たちは人が足りないからできません」という言い訳は通用しません。

 スタッフが張りついて管理するのが難しい場合は、保護者に順番で荷物当番をしてもらうような取り決めをしておくといいでしょう。盗難事故が起こる危険性は大幅に減少するはずですし、仮に起こったとしても、クラブ側の責任の問われ方はまったく違ってきます。まずは「誰かに盗まれたりしないような環境をつくること」が、クラブとして最も大切なことだと思います。

 盗難に対する対応は誰にとっても難しく、嫌なものです。指導者やクラブ・スタッフが「物を盗んだ人は手を挙げなさい」と言ったところで、手を挙げる子供はまずいないでしょう。「盗難が起こらない環境をいかにつくるか?」を考えるほうがずっと簡単です。

 もし、それでも盗難が起こった場合、仮にクラブ側が荷物を管理する人間を置いていなかったら責任を問われるでしょうか? 結論から言えば、「責任を問われないとは言えない」と思います。もちろん、最も悪いのは物を盗んだ犯人ですし、管理者(荷物当番)を置いていなかったとしてもクラブ側が負う責任の度合いは少ないでしょう。しかし、だからと言って「まったく責任がない」とは言い切れないのです。

 また、こうした部分までしっかり管理していれば、保護者にとっても「このクラブはここまでやってくれている」という安心材料にもなります。クラブ経営の観点で言えば、そうした姿勢を見せる意味は小さくありません。

 その分、人を雇うとなれば人件費がかかるので会費を上げなければならないかもしれませんが、保護者の多くが「そこまでやるから、この金額になるのは仕方ない」と納得さえできれば、お金を出すと思います。むしろ、「会費が安いのだから、そこまで責任を追及しないでほしい」とクラブ側が言っても、納得してくれない保護者のほうが多いでしょう。安全を担保するためにはお金がかかることを伝え、「しっかりとした管理体制が子供たちのためになる」と理解させることができれば、保護者は納得してくれるはずです。

 一方、「高額なお金を現場に持って来ない」などといったことは、普段から子供たちに伝えて、認識させておくべきです。日々の練習での帰りにおにぎりやパンやジュースなどを買うにしても、数百円もあれば十分に足ります。

 また、特に小さな子供は買ってもらったばかりのゲーム機なども練習場に持って来たがったりしますが、それらは練習には必要ないので注意すべきです。「サッカーをしに来るのだから、サッカーで使う道具だけを持って来よう」といったことを子供たちに浸透させるのも、クラブとしての大切なリスクマネジメントの一つと言えます。

事故を起こさない努力は
クラブの義務である

 不運にも盗難が起こってしまった場合、クラブ側はきちんとした道筋で対応していくしかないでしょう。

 繰り返しになりますが、大事な物がどうしても見つからなければ、内部でどうにかしようとせず、警察に届けるようにしてください。例えば、試合会場に乗って行った自転車が盗まれたとなったら、多くの方が警察に届けることを考えると思います。それと同じことです。「公的な機関に話を通す」というのは、クラブや指導者の負担を減らす意味でもいいリスクマネジメントになります。

 先程、「自分たちで犯人探しをすべきではない」と書きました。その一方で、盗難が起こったときにクラブとして真剣に取り扱わないのも大きな問題です。物がなくなって困っている子供に対し、「本当か? 自分でなくしたんじゃないか?」と言ってその子の責任にしたり、適当に済ませたりしようとしたら、子供や保護者はクラブに対していい印象を持たないでしょう。しかし実際、このような適当な対応をしているケースが多いように感じているのです。そのときはたまたま適当な対応で済んだかもしれませんが、適当な対応をずっと続けていたら、クラブへの信頼感はどんどん落ちていくことでしょう。

 むしろ、「保護者が交代で荷物当番をする」というルールをつくったほうが、保護者にすれば面倒ではあっても、安心できると思います。

 例えば、大きな袋型のネットをクラブで購入したりし、ネットの中に荷物を入れてカギを閉め、近くで大人が見ているようにするなど、考えればできるようなことはいくらでもあります。逆に言えば、余計なものを持って来させず、荷物当番の大人をつけるようにすれば、クラブ側でできる防止策としては十分と言えます。

 なお、公園など、日常的に不特定多数の人が行き来する環境で練習するチームの場合は、活動環境をクラブとしてしっかり把握しておくことが大切です。状況を認識していなければ、適切な対策をとることもできないからです。盗難に限らず、事故が起こらないように極力、努力していくのがクラブとしての義務なのです。

【ANSWER】
警察にすぐに届けましょう。
クラブとして「盗難対策」をしておくことも大切です

画像: 【ANSWER】 警察にすぐに届けましょう。 クラブとして「盗難対策」をしておくことも大切です

<回答者プロフィール>
谷塚哲(やつか・てつ)/ 1972年、埼玉県出身。武南高校、順天堂大学を卒業。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を修了。行政書士。プロスポーツから地域スポーツまで幅広く、法律の側面からスポーツ団体をサポートしている。また、東洋大学法学部企業法学科スポーツビジネス法コースの教員として、スポーツと法律の関係性の授業を行ない、スポーツビジネス法、スポーツマネジメント、スポーツ組織論など、スポーツを法律的観点から研究している

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