上写真左=王者・竹迫の入場と、左は藤原トレーナー
上写真右=リングインした加藤と、左が齋藤会長

 昨日2日、東京・後楽園ホールで行われた『第40回チャンピオンカーニバル』日本ミドル級タイトルマッチ10回戦は、圧倒的不利を予想された挑戦者・加藤収二(28歳=中野サイトウ)が好スタートを切ってリード。国内屈指のハードパンチャー、王者・竹迫司登(27歳=ワールドスポーツ)がペースを奪われながらも猛追。96対94(竹迫)、96対94(加藤)、95対95と三者三様のドローとなった。
 もちろん、両選手の奮闘ぶりは評価するのだが、彼らを準備段階から支え、試合中も冷静に導いたセコンドの存在にスポット。試合をするにあたって、絶対に欠かせないセコンドの役割とは──を考えたい。

プラスにもマイナスにも作用する、セコンドの重要性

 試合中のセコンドのやり取りを観察するのは、“仕事”を抜きにしても個人的興味から好きで、これは大昔のファン時代からの癖である。

 だから、選手が焦ってるのに、セコンドのほうがもっとテンパってたりすると「おいおい……」となるし、セコンドは焦りまくってるのに、選手のほうが冷静だったりすると、これは「選手の能力にセコンドがついていけてないな」と判断してしまう。

 1分のインターバル。単純に休憩タイム、ではない。これも紛れもなく、“試合中”なのである。1対1の戦いが途切れる時間だが、だからこそ、その使い方はとてつもなく大切になってくる。出血した選手にどんな処置をしているのか、もしくは拭くだけで何もしないのか。同様に、腫れた選手に対し、きちんとした処置をしてるのか、もしくはしていないのか。止血に慣れているか、明らかに勉強していないのか。腫れ始めから、腫れ止め器具を使って“予防”しているのか。腫れ止め器具を持たず、オールドスタイルの“濡れたタオル”で対処しているのか。
 また、選手の“格”によって、それを使い分けているセコンドもいる。長いラウンドだから処置する、とか、4回戦だから「どうせすぐ終わるから」処置しない、とか。それはそれで、選手に対する愛情があるかないかが明らかになる瞬間だ。

 日ごろからきちんと止血の勉強をしているカットマンがいれば、それこそ出血はピタリと止められるし、腫れて目が塞がることも同様。何もしなければ、出血TKO負けもあるし、目が塞がってのTKO負けもある。傷口が広がってから処置したり、腫れが酷くなってから動き出したのでは遅い。早め早めの対処が必要で、判断力、決断力も重要になってくるのだ。

 セコンドは3人。これはルールで決められている。チーフセコンドは中に入って、選手にアドバイスを送る。両サイドに立つ者は、ひとりが傷の処置、もうひとりはマウスピースを洗浄したり、選手が含んで出す水を受けるなど。セコンドアウトでイスを片付ける役目もある。

昨日の青コーナーのセコンド。チーフが中に入り、基本的にアドバイスを送る。両サイドマンは、水を飲ませたり、ケガの処置をしたり、それぞれの役割をたった1分でこなす

 ありがちなのは、チーフだけでなく、両サイドからもアドバイスが送られて、しかも全員がまったく違うことを言うパターン。意思統一がまったくできておらず、セコンドが勝手に思い思いを口にするだけ。選手がどれを聞いていいのかわからず、さらに大混乱をきたしてしまう。
 あるいは、セコンドに入っていない者が、もっとも選手を知り尽くしているはずのチーフの助言を覆してしまうこともある。

 いずれにしても、3人プラスαの役割分担が、目立たないけれど重要になってくる。これがきちんとできているセコンド、ジム、チームは強い。
 選手も心強い。安心して相手にのみ集中できる。だが、それが正反対のところは、選手の足を引っ張るだけ。結果として選手に黒星がついてしまうが、セコンドが足を引っ張って負けてしまう「セコンド負け」も、表面にこそ出てこないが、数多く存在するのだ。

冷静さを保ち続けた両陣営

 昨日、後楽園ホールで行われた日本ミドル級タイトルマッチ。プロデビュー以来、10戦10勝10KO。いま、国内でもっとも強打を注目されている選手が、チャンピオンの竹迫司登(ワールドスポーツ)だ。
 けれども、“倒し屋”としての期待の高まりに縛られたのか、ここ数戦の竹迫は浮足立っていた。藤原俊志トレーナーも、もちろんそれに気づき、竹迫の“打ち気”を沈める対策を練ってきていたという。
 しかし、ハマりこんだ。挑戦者・加藤収二(中野サイトウ)の柔らかいボクシングに。一見、ドッシリ感を欠く加藤のスタイルは心許ないが、サウスポースタイルから繰り出す右ジャブ、左ストレートとも力を抜いているからこそモーションを消すため、相手からは読みづらい。強打を打つことに憑りつかれ、力をこめてフルパワーで放つ竹迫とは対照的だ。

チャンピオン竹迫のセコンド風景。これはまだ、ラウンド序盤。竹迫にもまだ余裕がうかがえる

 加藤が“弱”を多く出して竹迫を捉えれば、竹迫はさらに強打を打ち返そうという気持ちを強める。そして加藤のテクニックにかわされる。空回りしてスタミナを消費し、さらに軽打も積み重なれば、ダメージも蓄積する。加藤はそこで、“弱”に加えて“強”も織り交ぜる。5ラウンド終了後のオープンスコアでも、48対47が二者、49対46が一者で加藤がリード。前二者は意外に接近しているが、ペース争いや展開を考えれば、ジャッジ1名の採点が、試合を的確に表現していた。

 青コーナー近くの記者席が、当方のテリトリー。両コーナーのやり取りを、ここまで交互に観察してきた。加藤のチーフを務める齋藤一人会長は、柔和な表情をたたえながら、「打ったら動こう。ロープに詰まらず回り込もう」と、一貫した指示を出していた。これは自分の耳が音声を拾える。会長、選手の表情も確認できる。実に落ち着いている。

齋藤会長は、タイトルマッチ初舞台ながら、どんな状況でも、柔和で落ち着いた態度を崩さなかった
写真_本間 暁

 しかし、赤コーナーは遠い。竹迫の表情は見える。ポーカーフェイスが彼の特性のひとつだが、ラウンド中の動きを見ても、明らかに焦っている。興奮している。藤原トレーナーは、背中しか見えない。でも、その背中はまったく焦りを浮かべていない。落ち着きはらっている。もちろん、怒鳴り声も聞こえてこない。

「竹迫の“倒したい欲”を捨てさせるのに苦労していました。でも、公開採点が流れを変えたんです。あの採点を聞いて、加藤君は絶対に6ラウンドに元気になるので、7ラウンドから、試合前に立てていたプランのコツコツボクシングを追求しよう、と。それをやらなきゃ、勝てないぞ!って」(藤原トレーナー)

竹迫の性格を知り尽くすからこそ、そのときそのときの感情を読み、状況に適したトーンでアドバイスを送る。しかし、藤原トレーナーにも一貫しているのは、あくまで“冷静”であること

 王者の疲労とダメージ(本人は無自覚かもしれないが)は記者席に伝わってきていた。強打もゲッソリとやせ細り、威力もキレも落ちてきていた。
 けれども7ラウンド、竹迫の連打は見違えるようにシャープさを取り戻した。接近して、上への連打を加藤に意識させておいて、ノールックの左ボディブローをグサリ。これを食って、加藤の動きはドタバタしだした。それまでの冷静さを失い、コントロールが利かなくなった。
 この試合の流れを変えた一撃。加藤がチャンピオンをつかみきれず、竹迫が土俵際で生き残ってみせたポイントだったように思う。

「後半は、『チャンピオン、チャンピオン!』って竹迫を初めてチャンピオンって呼んでました」と藤原トレーナーは明かす。これは奮い立たせる言葉、ある種の洗脳に近いかもしれない。竹迫は、中・長距離の戦いを捨て、体を執拗に密着させ、当たろうが当たるまいがかまわずに、細かい連打を重ね続けた。

「チャンピオンのプレスが強すぎて、それを防ぐことができなかった」と、加藤は後半を振り返る。顔面のカバー、腕とグローブのどこかに当てて、竹迫のパンチを殺すことには成功していたが、疲労も重なり、煽られ続ける。そのままズルズルと失速し、逆転KO負けを食らっても不思議ではなかった。けれども、齋藤会長もまったく冷静さを失わず、アドバイスを初志貫徹した。加藤は、前半ほどの冴えは失ったものの、反撃のブローをこんこんと当て返していた。

 中野サイトウジムは、これが初めてのタイトルマッチ。もちろん初挑戦の加藤もだが、会長はじめ、セコンド陣がプラス側で舞い上がっていてもおかしくなかった。そして、タイトル奪取が見えてきたところでの逆回転に、焦りまくったとしても不思議ではない。しかしきっと、この苦しくなる展開を想定したはず。それは強いチャンピオン竹迫を十分に承知していたから。
 とはいえ、当方は、それでも舞い上がって色を失う選手、セコンドを何べんも見てきている。加藤の気迫も素晴らしかったが、冷静さを失わなかったセコンドが、加藤の足を引っ張らず、背中を押し続けたのだ。

 そして、生き残った赤コーナー。傍から見れば“最充実期”にある竹迫なのに、アッと驚く意外な展開。選手とともに、セコンドもマイナス側に舞い上がってしまってもおかしくない。ともに沈んでいくパターンを、やはり何べんも目にしてきた。
 しかし、彼らは踏みとどまった。竹迫のここ数戦の“異変”にもちろん気づいており、課題に取り組ませ、この試合でも、「こうなることももちろん想定していました」と藤原トレーナーは言いきった。
 自身も南京都高校、日本大学とトップで活躍し、名城信男を世界に導き、大舞台での経験も豊富。頭脳派トレーナーとして知られる、若きエディ・タウンゼント賞トレーナーは、選手の心理をコントロールする名手でもある。
 また、加藤の右フックを食って、竹迫の左目周りは初回からうっすらと腫れていた。カットマンとして入っていた齋田竜也会長は、インターバルに入ると、早くも腫れ止め処置を施していた。この早いスタートを怠っていたら、あるいは目が塞がっていたかもしれない。これもまた、見過ごすことのできない“セコンドの力”だ。

 竹迫、加藤。肉体的にも精神的にも、練習量が膨大でなければ、昨日の試合は演じられない。そしてその日常を知り尽くしているからこそ、選手を信じ、感情を抑えることのできた両陣営。

 ともに悔しい引き分けだろうが、第三者からすれば、選手だけでなく、セコンドの戦いも見事なドローだった。

両選手、両陣営とも、即座に再戦を表明。今度はどんな戦いになるか── 写真_本間 暁

文_本間 暁 写真_小河原友信

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