コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2016年6月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。

文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)

第4回「ウオーミングアップはただ筋を温めればいいの?」

湿熱式加温を用いた
筋温上昇での運動パフォーマンス

 第3回では、筋肉を温めたほうがハイパワー系および神経系のパフォーマンスは高くなるということを紹介しました(第3回「ウオーミングアップはどれくらいすればいい?」https://www.bbm-japan.com/_ct/17251658)。

 では、筋温をただ高めれば良いのでしょうか? 極端な話、お風呂に入って筋肉を温めれば、ジョギングなどをしなくてもいいのではないかという疑問がわきます。

 そこで、今回は筋肉の温め方の違いが運動パフォーマンスにどう影響するかについての実験を紹介します。

 熱いお湯に浸してある湿熱式のホットパックを使って、太ももの前側・後ろ側・ふくらはぎの筋温を温めた後に、神経系(立位でのステッピング)とハイパワー(垂直跳び)の測定をしました。

図A ホットパックで温めた場合のハイパワーの変化

画像1: (永井ら2012)

(永井ら2012)

 図Aを見てください。この図は左から筋温を36℃にした場合、37℃にした場合、38℃にした場合における立位でのステッピング回数を示したものになります。
 結果は、筋温を36℃よりも37℃、38℃にしたほうが明らかにステッピング回数は多くなりました。

図B ホットパックで温めた場合の立位ステッピングテストの変化

画像2: (永井ら2012)

(永井ら2012)

 次に、図Bを見てください。こちらはハイパワー(垂直跳び)の結果になります。見方は図Aと同様です。
 結果は、筋温を36℃よりも、38℃にしたほうが明らかにハイパワー系パフォーマンスは高くなりました。
 つまり、ジョギングのような体を動かすウオーミングアップ以外の方法で筋温を温めても、神経系パフォーマンスおよびハイパワー系パフォーマンスは共に高くなることになります。

筋温上昇は受動的・能動的、
どちらがいいの?

 こうした結果を見ると、ジョギングなどのウオーミングアップは必要ないのでは? と思ってしまいます。
 そこで、ホットパックのように受動的に筋温を高めた場合と、ジョギングのように能動的に筋温を高めた場合で違いがあるのかを調べてみました。

図C  神経系〜ジョギングウオーミングアップ VS. ホットパックウオーミングアップ〜

画像3: (永井ら2012)

(永井ら2012)

 図Cは、受動的に筋温を高めた場合と能動的に筋温を高めた場合での立位ステッピング回数の結果になります。ホットパックとジョギングそれぞれで36℃に筋温を高めた場合、同じく37℃に筋温を高めた場合、38℃に筋温を高めた場合で比較したもので、青がジョギング、赤がホットパックを示しています。
 結果はホットパックよりもジョギングのほうが、36℃・37℃・38℃のすべてにおいて明らかに立位ステッピング回数が多くなっています。

図D  パワー〜ジョギングウオーミングアップ VS. ホットパックウオーミングアップ〜

画像4: (永井ら2012)

(永井ら2012)

 図Dを見てください。こちらは垂直跳びの結果になり、グラフの見方は図Cと同様です。
 結果はホットパックよりもジョギングのほうが36℃・37℃・38℃のすべてにおいて明らかに高い値を示しています。

 つまり、ホットパックのように受動的に筋温を向上させることで神経系およびハイパワー系パフォーマンスは向上するものの、ジョギングのように能動的に筋温を高めたほうが運動パフォーマンスは高くなるという結果になりました。
 これは、ただ筋温を温めるのではなく、能動的に筋を動かすことによる神経系へのウオーミングアップも必要であることを示すものであり、やはりウオーミングアップは体を動かしながら筋温を高めて、その後に競技に関連した専門的ウオーミングアップに移行していくことが必要であると考えられます。

 この結果を踏まえると、冬場は寒いのでホットパックなどで温めてから、その後にジョギングなどの体を動かすウオーミングアップをすることも一案だと考えられます。
 また、ケガをしていて長く走ることができない選手については、下肢への負担を少なくするためにホットパックなど受動的なウオーミングアップのみで対応するというのも一つの方法ではないでしょうか。

能動的に体を動かすことが
神経系ウオーミングアップにもつながる

 今回はウオーミングアップとして、受動的に筋温を上昇させた場合と能動的に筋温を上昇させた場合での運動パフォーマンスの違いについて紹介しました。
 結論は受動的に筋温をただ温めれば良いわけではなく、能動的に体を動かすことが筋温を上昇させるだけでなく、神経系ウオーミングアップにもつながるということになりました。

 ちなみに、この実験は10月ごろに行われています。従って、この結果が暑熱環境および寒冷環境でも同様かというと、おそらく変わってくるものだと考えられます。

 以上を踏まえて、ウオーミングアップ実施にあたって、どのように筋温を温めるべきかを考えるきっかけにしていただけると幸いです。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー

文責◎ベースボール・クリニック編集部

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