28歳のときに監督としてブンデスリーガにデビュー。残留を目指していたようなクラブを躍進させ、UEFAチャンピオンズリーグ出場も果たしてみせたのがユリアン・ナーゲルスマンだ。31歳の若き指揮官のチーム掌握術に迫った。インタビューの後編をお送りする(前編はこちら<https://www.bbm-japan.com/_ct/17274605>)。

出典:『サッカークリニック』2019年4月号

上の写真=2019-20シーズンから率いるRBライプツィヒでの采配にも注目が集まりそうなユリアン・ナーゲルスマン

(取材・構成/アンドリュー・ハスラム 翻訳/山中忍 写真/gettyimages)

褒美

──18-19シーズンには自身の目標としていたチャンピオンズリーグ出場も果たしました。感想を聞かせてください。

ナーゲスルマン(以下、N) グループステージの組分け抽選会から楽しませてもらった。「ホッフェンハイムを率いていつか出場したい」と願っていた私に限らず、誰もが興奮しながら見守るものが抽選会だろうし、抽選だけでも十分にスリルがあった(笑)。17-18シーズンはプレー・オフで敗退し、今回は初めての本大会出場だっただけになおさらだ。チームのスタッフも含めた大人数で抽選会の模様をクラブハウスのテレビで見ながら一喜一憂し、抽選直後にはスタッフと「いつ、どの試合を偵察に行こうか」と作戦会議を始めた。実に厳しい戦いが続いたが、マンチェスター・シティと同じグループになり、イングランド王者と戦えたのはクラブにとって、そして私にとってとてもいい経験だったと思う(リヨンとシャフタル・ドネツクも同組。0勝3分け3敗でグループステージ敗退)。

──チャンピオンズリーグに向けた準備はシーズン前から行なったのですか?

N UEFAヨーロッパリーグや17-18シーズンのプレー・オフ経験が役に立ったと言える。例えばプレシーズンから、週末にリーグ戦、週中にチャンピオンズリーグを戦うことを想定し、特定のポイントに特化した練習や負荷のより高い練習を行なう日を設けるようにした。同時に、セッション中にプレーを止め、利用すべきスペースを確認するといった戦術的なレベルアップにも取り組んだ。そうして開幕前から、週中に行なわれるヨーロッパのトップレベルの試合、そしてそのスケジュールに慣れるようにしていた。そのリズムを意識しつつ、国内リーグの日程上、高負荷なフィジカル・トレーニングを行なえない日にはビデオ・ルームで対戦相手の映像を見ながら対戦相手のイメージを選手の頭にインプットすることにも努めた。こうした取り組みはチャンピオンズリーグ対策として役立っただけでなく、選手のパフォーマンス向上にもつながったと思う。

──チャンピオンズリーグに限らず、大事な試合に向けての準備方法を教えてください。

N 強豪との試合では通常、ホッフェンハイムは『アンダー・ドッグ』(勝ち目が薄い格下)として見られる。しかし、それは屈辱でもなんでもない。余計なプレッシャーを背負い込むことなく、サッカーが与えてくれる喜びや興奮を思う存分に味わえる。そして、それらをフィールド上で表現することに集中すればいいからだ。もちろん、勝ち目が薄い試合であっても勝利を目指して戦うことが大前提になるし、厳しい展開が予想される試合であっても自分たちのスタイルで勝負を挑むようにしている。それが結果的には成功への最善の道でもあるからだ。

 また、チャンピオンズリーグを含めた大事な試合は、すべての選手がプレーしたいと思うものだ。しかし、望んでいるすべての選手が手にできるような機会ではないのだから、「貴重な機会を得ている」という意識を持って選手にはプレーしてもらいたい。

──そういう意味では、新たなチャレンジを通じて選手たちは精神的にも成長したと言えそうです。

N ブンデスリーガとチャンピオンズリーグに対してすべての選手が集中し、戦い抜いてくれたと感じている。チャンピオンズリーグに出場したことによって試合数が増え、負担が増したのは事実だ。しかし、ヨーロッパ、いや世界でも最高峰と言えるチャンピオンズリーグでのプレーは重荷などではなく、17-18シーズンの戦いに対する「褒美」なのだ。この点を強調して選手たちに伝えてモチベーション維持に努めてきた。

──20代にして監督としてブンデスリーガで大きなインパクトを残し、「革新的な監督」とも言われています。自分でもそう思いますか?

N 私は、サッカーというスポーツ自体がクリエイティブであることを監督に要求すると考えている。例えば、同じチームでの指導を続けていれば、選手たちが退屈に感じたり、慢心したりすることがないようにトレーニング・メニューを工夫しなければならない。

 またチームのキーマンや複数の主力選手を失ってしまった場合には、彼らの穴を埋めるための代役候補をスカウトする段階からイマジネーションや発想の転換が求められる。なぜならば、他チームの異なるシステム、異なるポジションでプレーしている選手が、監督が理想とするチームを構築する際に役立った、あるいは新戦力を必要としているポジションに最適だった、という新たな発見を手にすることがあり、そのためには発想の転換が求められるからだ。そのとき、それまでは気にもしていなかった選手の意外なストロング・ポイントを発見することもあるだろう。その時点ではトップクラスとは認識されていない選手であっても、ブンデスリーガでプレーさせて磨きをかけたら光るという秘めたる可能性も見逃してはいけない。中には、スター選手にはならないが、チームの一員として結果を出す上で貢献できる選手になり、チームを支えられる選手がいるかもしれない。

 もちろん、より直接的に、試合の勝敗を左右するシステムや戦術に関する創造性と柔軟性も持ち合わせなければならない。ホッフェンハイムでは、そうした姿勢を持って指導し、実際に成果を残してきた。こうした姿勢は今後も持ち続けなければいけないだろう。

プロフィール

画像: プロフィール

ユリアン・ナーゲルスマン(Julian Nagelsmann)/ 1987年7月23日生まれ、ドイツ出身。プロを目指してサッカーをプレーしていたが、20歳のとき、2007-08シーズン途中に現役から退いた。その後、指導者の道へ進み、アウクスブルクや1860ミュンヘンなどの育成部門で働き、10-11シーズンよりホッフェンハイムの育成部門へ移った。16年2月11日よりホッフェンハイムのトップチームを率いる(ブンデスリーガの史上最年少監督)。就任シーズンにチームを残留に導くと、翌シーズンから4位、3位と大きく躍進させ、18-19シーズンにはクラブ史上初となるチャンピオンズリーグ出場を果たした。19-20シーズンからはRBライプツィヒの監督に就任することが発表されている

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