レシーバー2人が最優秀選手と敢闘選手に選ばれた今年の甲子園ボウル。3万3000人の観衆を沸かせたのは、東西を代表するパス攻撃だった。逆転に次ぐ逆転となった熱戦のポイントを関西アメリカンフットボール・コーチズアソシエーションの茨木克治代表が解説する。 

上の写真:冷静にオフェンスを率い、的確なパスでスコアを重ねた両チームの司令塔(左が関学大の奥野、右が早大の柴崎) 写真:佐藤誠

ブレナンの超人的な能力と柴崎のクレバーさ

 20―14の関学大リードで前半を終えた。第3クォーターの立ち上がり、早大はパント隊形からのギャンブルに出た。早い段階で勝負にこだわったプレーから、勝ちにいくという強い意志をチーム全体で共有していると感じられた。早大は第4クォーターまでに全てを出し切った。ただ、それが最後まで続かなかった。

 両チームのシーズンの戦い方を見ていて、関学大有利は予想した。しかし、早大の周到な準備、勝ちたいという精神力などによって、逆転に次ぐ逆転という興奮する展開になっていった。

 第3Q、関学大ランニングバック(RB)前田公昭の42ヤードのタッチダウン(TD)ランで、27―14とリードを許した後の早大の逆転への戦いぶりは見事だった。ワイドレシーバー(WR)ブレナン翼の超人的なパスキャッチの能力と、そこに投げられるクォーターバック(QB)柴崎哲平のタッチとクレバーさ。伝家の宝刀で2本のTDを奪い28―27と逆転に成功した。オフェンスライン(OL)が、2人に十分な時間を与えることができていたのも大きかった。

画像: 6回のキャッチで129ヤード、3TDの活躍を見せたブレナン翼 写真:佐藤誠

6回のキャッチで129ヤード、3TDの活躍を見せたブレナン翼 写真:佐藤誠

画像: 柔らかいタッチで、レシーバーが取りやすいパスが持ち味の早大QB柴崎 写真:佐藤誠

柔らかいタッチで、レシーバーが取りやすいパスが持ち味の早大QB柴崎 写真:佐藤誠

 2人のD Bにカバーされながら、NF Lプレーヤーのようなスーパーキャッチを見せたブレナンも見事だったが、今しかないというタイミングで、ここしかないというコースに放った柴崎の能力の高さを称賛したい。

 しかし、次の関学大の攻撃を3&アウト(4回の攻撃で終わらせること)にした後、自分たちの攻撃もあっさりと3&アウトで終わった。ここで流れを引き寄せることができなかったことが早大にとっては悔やまれる。このシリーズで流れが関学大に傾いていった。

 リーグ戦は1Q12分だが、甲子園ボウルは15分。甲子園ボウルも12分であったら、早大はリードしたまま終えていたかもしれない。早大のディフェンスが関学大のRB三宅昂輝や前田のランに振られて対応が遅れたのは、能力の問題ではなく、疲労だったのではないか。前半は、タイトエンド(TE)をブロッカーに使った関学大のラン攻撃をよく止めていた。

奥野―阿部のホットラインは反復練習の賜物

 最優秀選手となった関学大WR阿部拓朗とQB奥野耕世のホットラインは、フォーメーション通りのものではなかったと思う。ポケットから外れてプレーが崩れたようになってから決めるパスが多かった。サイドライン際やディフェンスバックと競り勝ったり、中央で完全にフリーになったりして阿部がパスを受けるシーンが多かった。

 これらは関学大の大村和輝・攻撃コーディネーターが好んで使うプレーである。奥野は「投げ急いでパスを失敗したり、持ちすぎてQBサックだけはされるな」と言われていたと思う。相手守備のパスラッシュをかわすためにQBが動いて、時間を稼いでパスを決めるパターンは、立命館大対策として、関学大が年間を通してずっと取り組んでいることだろう。

画像: 早大DBを翻弄して何度もフリーでパスを受けた関学大WR阿部 写真:佐藤誠

早大DBを翻弄して何度もフリーでパスを受けた関学大WR阿部 写真:佐藤誠

画像: 早大ディフェンスのラッシュを巧みにかわした関学大QB奥野は、パスで212ヤードを獲得した 写真:佐藤誠

早大ディフェンスのラッシュを巧みにかわした関学大QB奥野は、パスで212ヤードを獲得した 写真:佐藤誠

 阿部がフリーになるのは必然である。鬼ごっこをすれば、逃げるほうが絶対に有利だからだ。阿部のルートは、決められたものではなく、状況に応じてある程度自由に動けるようにしている。それを奥野もわかっているからパスが決まる。反復練習の成果だと言える。

 関学大の奥野―阿部と早大の柴崎―ブレナン、2つのホットラインの質は大きく異なっていた。3万3000人の観衆に歓喜の叫びをもたらしたパス攻撃は、日本のカレッジフットボールの頂点を決めるゲームにふさわしいレベルだった。

早大の前向きの姿勢、関学大の王者の風格が好ゲームを生んだ

 早大はコイントスに勝って、キックオフを選んだ。周到に準備された関学大のファーストドライブを止める覚悟がなければできない選択だ。得点はされたがFGに抑えた。前半の終了間際、14―17と追い上げた後のキックオフでオンサイドキックを選択。失敗してFGを許すことになったが、前向きの姿勢がチームに諦めないというエネルギーを産み、第3Qの逆転につながった。

 早大に逆転されたあとの関学大の戦いぶりは、関西を代表するチームにふさわしいものだった。時間が十分にあったとはいえ、全く焦る雰囲気がなく、逆転するのが当然というような王者としての風格のようなものが感じられた。

 関学大は1月3日のライスボウルで富士通と対戦することになった。リラックスしてゲームに臨んで欲しい。ワイドユニットは試したいだろうと思う。富士通のディフェンスを相手に自分たちのパス攻撃がどれだけ通じるのか。Xリーグのトップチームをランで崩すのは正直、厳しいだろう。

 負傷にはだけは気をつけて、学生らしい思い切ったプレーを見せて欲しい。

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