6月下旬、選手の移籍がひと段落した感のあった米プロフットボールNFLで大きな動きがあった。既報の通り、今年3月にカロライナ・パンサーズから放出されたQBキャム・ニュートンが、ニューイングランド・ペイトリオッツに入団することが決まったのだ。【小座野容斉】

ダルトン、ブリセット…ほかにもあった選択肢

 エースQBトム・ブレイディがFAでタンパベイ・バッカニアーズへ移籍していたペイトリオッツ。ブレイディはスーパーボウルで6回の優勝を果たし、GOAT(史上最高)と表現されるQBで、パスの名手であり、ゲームマネジメントでは、引退したペイトン・マニングや、ニューオリンズ・セインツのドリュー・ブリーズをもしのぐ存在だ。

 一方で、ニュートンは、巨体と卓越した運動能力を武器に、自由奔放なプレーで、ディフェンスを凌駕してきた。QBとしては、あまりに対照的な2人が同じチームのオフェンスというバトンを引き継ぐ。ペイトリオッツでは、事実上のGMも兼任する名将ビル・ベリチックヘッドコーチ(HC)は、なぜニュートンを選んだのか。

 早いタイミングで正確なパスを投げ込むスタイル、ミスが少なく堅実で経験豊富なQBという点では、今オフ、ペイトリオッツの選択肢は他にもあった。シンシナティ・ベンガルズを構想外になったQBアンディ・ダルトン(現ダラス・カウボーイズ)だ。ベンガルズは、昨シーズン2勝14敗とNFLで最下位の勝敗となり、ダルトンは「スケープゴート」となって構想外となった。カウボーイズへの加入は5月上旬で、ペイトリオッツが考慮する時間的余裕はあったはずだ。

 ダルトンは、ニュートンとプロ入り同期で、年齢は1歳半上だが、大きな負傷はない。9シーズンで133試合に先発、パス3000ヤード以上が8シーズン、4000ヤード以上が2シーズン、プロボウル出場3回と、実績の上ではニュートンと甲乙つけがたい。

 また、オフェンスの継続性を大事にするのであれば、インディアナポリス・コルツのQBジャコビー・ブリセットという手もあった。27歳のブリセットは2016年シーズンをペイトリオッツで3番手として過ごし、2試合に先発。2017年も、開幕直前までペイトリオッツでプレーした後、コルツにトレードされた。2017年と2019年のシーズンに計30試合に先発し、17年は3098ヤード、19年も2942ヤードのパスを投げ、計31タッチダウン(TD)で13インターセプト(INT)と堅実な成績を残した。

 ブリセットのペイトリオッツ在籍は1シーズンだが、サマーキャンプを2回経験しており、ペイトリオッツのオフェンスをよく知っている。コルツは今オフ、QBフィリップ・リバースをロサンゼルス・チャージャーズから獲得しており、2番手以下となるブリセットを呼び戻すことはそう困難ではなかったはずだ。

 多少年齢が上で、健康面での不安は残るが、ジョー・フラッコという選択肢も考えられなかったわけではない。スーパーボウル勝利経験もあるフラッコは、今春デンバー・ブロンコスからニューヨーク・ジェッツに移籍し、QBサム・ダーノルドの控えを務める。ペイトリオッツが昨年ドラフト4巡で指名したジャレット・ステイダムを育成する前提で、同じようにバックアップとするのであれば、経験豊富なフラッコは、手堅いチョイスとなった。

 彼らを選ばずに、ニュートンを選んだ理由とは何か。

QBジャクソンをチェックしていたベリチック

 ベリチックHCは「一緒に戦うのが好ましい選手よりも、敵に回したら嫌な選手」を選んだように思える。

 筆者自身は、このニュースを聞いた時、あまり驚きがなかった。いろいろな伏線があったからだ。
その一つは、2018年のドラフト時、米メディアが興味深いニュースを伝えていたことだ。

 ペイトリオッツは、現ボルティモア・レイブンズのQBラマー・ジャクソンを、ドラフト前に2度にわたって、個人的なワークアウトをしたという。ニュートンと同じようなプレースタイルのジャクソンは、やはりニュートンと同様にハイズマントロフィー(カレッジ年間最優秀選手)にも選ばれていたが、ドラフト前、NFL関係者や評論家からは「NFLではQBとして通用しないのでWRに転向すべきだ」という辛辣な意見も聞かれた。

 しかし、このワークアウトには、ベリチックHCだけでなくオフェンスコーディネーターのジョシュ・マクダニエルズも同席しており、ペイトリオッツはジャクソンをQBとして考慮していたという。

 ベリチックHCは1990年代に、クリーブランド・ブラウンズで、アラバマ大学のニック・セイバンHCと共に仕事をしており関係が深い。オフシーズンには頻繁に連絡を取り合っており、ベリチックHCはカレッジフットボールの戦術にも詳しいという。ニュートンやジャクソンのオフェンスの原型と言える、旧来のオプションにショットガン隊形からのパスを組み合わせた、今のカレッジでは主流のスタイルに偏見がないのだろう。

過去、ニュートンに苦杯

 そもそも、ペイトリオッツは、ニュートンには苦しめられた過去がある。レギュラーシーズンでは、2013年、2017年の2度対戦し、2度とも敗れている。特に2017年の第4週は、ニュートンにパスで316ヤード3TD、ランで44ヤード1TDを決められた。ファーストダウンも28回更新され、33失点。ペイトリオッツディフェンスの完敗だった。

 この試合の後、ベリチックHCは「モバイルQBについて話すのであれば。タックルするのが困難で、パスを投げられて、走ることができて、良い決断ができる選手の話ということになれば、私は、ニュートンをリストのトップにする」「他にも良い選手がいないとは言わないが、ここ2、3年でプレーした選手、あるいは今プレーしている選手の中では、間違いなく彼がトップだと思う」と話し、冗談も交えて「彼は公共の敵No.1だ」とまで表現した。

画像: ペイトリオッツのベリチックHC=photo by Getty Images

ペイトリオッツのベリチックHC=photo by Getty Images

 ちなみに、ペイトリオッツは、シアトル・シーホークスのラッセル・ウィルソンにもレギュラーシーズンでは2戦2敗。ブレイディが先発した公式戦でペイトリオッツが負け越しているのは、この2チームだけだ。

 2012年には、コリン・キャパニックが率いたサンフランシスコ49ナースに41失点で負けたことがあるし、昨シーズンは、レイブンズのジャクソンだけでなく、ヒューストン・テキサンズのQBデショーン・ワトソンにも煮え湯を飲まされた。ペイトリオッツの対ワトソンは2勝1敗だが、初対戦では33失点して3点差で辛勝している。

 ベリチックHCがこのタイプのQBを苦手にしているのは間違いなさそうだ。

 また、こんなデータもある。NFLのシーズンをまたいだ公式戦連勝記録のトップ3は、2008~09年のコルツの23連勝(QBはペイトン・マニング)、2006~08年のペイトリオッツの21連勝(QBはブレイディ)、そして2003~04年のペイトリオッツと、2014~2015年のパンサーズの18連勝(QBはニュートン)だ。

 チームを勝利に導く決定力を持つ、という点では、ニュートンは、最初に候補に挙げたダルトンとブリセットを上回る。ベリチックHCはこの点を重視したのではないだろうか。【続く】

この記事の後編

画像: 恵まれた才能で活躍してきたQBニュートンを、ペイトリオッツのベリチックHCは高く評価していた=photo by Getty Images

恵まれた才能で活躍してきたQBニュートンを、ペイトリオッツのベリチックHCは高く評価していた=photo by Getty Images

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