ニューイングランド・ペイトリオッツに加わるQBキャム・ニュートン。2015年にはMVPに輝きスーパーボウルにも出場、ビル・ベリチックヘッドコーチ(HC)から「モバイルQBのNo.1」とまで評価された一方で、今オフはペイトリオッツ以外、どのチームでも積極的に獲得する動きを見せなかった。毀誉褒貶が相半ばする31歳のQBの問題点とは何か。【小座野容斉】

この記事の前編

どう転んでも損はないペイトリオッツ

 今回のペイトリオッツの選択は概ね好意的にとらえられてはいるものの、米のメディアの中には冷めた意見も多い。
NFL.comのイアン・ラポポート氏によると、契約は1年で、条件を達成できれば750万ドルとなるが、ベースサラリーは105万ドルで、その中で支払いが保証されているのはわずか55万ドル。さらに1ゲームごとにロースターボーナス70万ドルが設定されている。
 ニュートンにとって、昨シーズンは2015年のスーパーボウル進出後に結んだ4年1億3百万ドルの大型契約最終年で、2試合の出場にとどまったにもかかわらず、1670万ドルを得ていた。今回の契約は、衝撃的な落ち込みとなるが、ニュートン自身は「これは敬意の問題だ」と意に介していない。
 そして、ニュートンを1年でリリースした場合、2022年ドラフトで3巡指名権が与えられるという話もあり、純粋な戦力補強というよりは、「ビル・ベリチックはそれを狙っている。ニュートンが活躍するようなら、それはそれで構わないし、どう転んでもペイトリオッツの損にはならない」という見方がある。契約がペイトリオッツにとってlow risk, high reward とされる所以でもある。
 

右肩の回復度合いは

 ニュートンへの不安の第1に挙げられるのは健康面だ。ここ数年ニュートンはあちこちを負傷し手術をしている。昨シーズンは左足の中足部を損傷し、手術した。第3週からIR入りして残りのシーズンを全休した。ただ、この負傷はそれほど深刻なものではなかったようだ。ニュートンが、自身のyoutube公式チャンネルにアップしている動画では、バスケットボールで激しい動きをするシーンもあり、順調な回復をしているように見える。
 むしろ懸念されるのは2017年以来、複数回手術している右肩だ。2017年当時のニュースを見ると、ニュートンが負傷したのはローテーター・カフ(回旋筋腱板)だという。 この負傷は、ボールを投げる能力に影響することがある。かってニューヨーク・ジェッツでエースQBとして活躍したチャド・ペニントンは、繰り返しこの部位を痛め、手術をしたが、パス能力が思うように回復せずに引退に至った。ニュートンも一時期、ロングパスが投げられなくなったと米メディアが伝えたことがある。そのため2019年1月には右肩の再手術をした。昨シーズンは出場2試合でインジュアリーリザーブ入りしたために、回復の度合いは測れていない。
 問題はパス能力にとどまらない。ピッツバーグ・スティーラーズのベン・ロスリスバーガーも数年前に、この部位を負傷したが、原因はボールを投げる動作ではなく、ヒットされて肩から地面に落ちたことだった。ニュートンは、100プレー以上走ったシーズンが過去7回もあるが、これもリスクとなる。5月で31歳になったニュートンが、走力の部分で20代を上回ることはもうない。健康面で見ても、頻繁に走るのはリスクが高くなる。

スタイル変更に対応できるか

 そこで浮かぶ第2の懸念は、スタイルの変化に対応できるかだ。ペイトリオッツの攻撃コーディネーター、ジョシュ・マクダニエルズは、過去にデンバー・ブロンコスでQBティム・ティーボウを指導した経験もある。プレーコールを作り替えて、ニュートンの身体能力を生かしたオフェンスは十分に構築可能だろう。しかし、中長期的にニュートンが先発QBとして生き残っていくためには、よりパスにシフトしたオフェンスとなっていかざるを得ない。
 30歳を過ぎてのスタイルの変更ということで、想起するのがフィラデルフィア・イーグルスなどで活躍したランドール・カニングハムと、アトランタ・ファルコンズで先発QBだったマイケル・ヴィックだ。
 1990年に1シーズンのQBラン942ヤードという、当時のNFL記録を打ち立てたカニングハムは、32歳だった1995年を限りにいったん引退。1年のブランクを経て1997年にミネソタ・バイキングスで復帰した。35歳となった1998年には、パス3704ヤード、34タッチダウン(TD)、10インターセプト(INT)でレーティング106.0を記録。バイキングスも、レギュラーシーズンで15勝1敗の成績を残した。この時カニングハムのランは32回で132ヤード、イーグルス時代とはプレースタイルを大きく変えていた。
 カニングハムを上回るラン能力を持っていたヴィックは、ファルコンズ時代の2006年にはNFLのQBとして初めてランで1000ヤードを突破(1039ヤード)したが、闘犬問題で有罪となり収監、2シーズンフットボールができなかった。2009年にイーグルスで競技復帰し、2010年には出場は12ゲームながらパス3018ヤード21TD6INTと、モデルチェンジに成功した。このシーズン、ヴィックは30歳で初めてパス3000ヤード越え、成功率60%超え、レーティング100超えを経験した。ランでも596ヤードを記録したものの、直ぐに走り出す以前のスタイルは影を潜めた。ヴィックは翌年もパス3303ヤードを記録した。
 シアトル・シーホークスのラッセル・ウィルソン、ダラス・カウボーイズのダック・プレスコット、ヒューストン・テキサンズのデショーン・ワトソンは、カレッジ時代は程度の差はあれ、ニュートンと同タイプのスプレッドオプションQBだった。3人はNFL入り後、徐々に走る回数を減らして、パサーへの脱却を図っている。ウィルソンやプレスコットは、ほぼモデルチェンジに成功しているし、ワトソンもその途上にあるといってよいだろう。

画像: 31歳になったニュートンは、スタイルを変えることができるか=photo by Getty Images

31歳になったニュートンは、スタイルを変えることができるか=photo by Getty Images

フィジカルを誇る姿にギャップ

 前述したように、ニュートンは公式youtubeでトレーニングの模様を積極的に公開してきた。確かに体は引き締まり、グッドコンディションのようだ。ただ、パンサーズが最終的にニュートンと別れる決断をしたのは、負傷への不安を別にすれば、フィジカルの衰えが最大の理由ではない。ニュートンに興味を持ったチームが、仮にペイトリオッツ以外にあったとしても、そのチームが、ニュートンのさらなる身体能力強化を求めたとも思わない。
 にもかかわらず、フィジカルの強さをアピールする姿に、ギャップを感じざるを得ない。
 NFLの各チームが30歳を過ぎた先発QBに求めるのは、ハードな肉体鍛錬ではなく、リーダーシップの向上と、プレーリードの進化ではないか。そのために、試合のビデオを繰り返し見て、ディフェンスを分析し、プレーブックの理解に努める。そういった努力を、ニュートンが長い時間を割いて真摯に行っているか、疑問に思われているのではないか。
 NFLのQBは自軍がディフェンスの時は、基本的にフィールドを見ていない。スポッター席と無線で連絡を取り合い、プリントアウトされたプレーの図面を見て、相手ディフェンスを分析する。仮にそういった作業が終わったとしても、じっと下を向いて、次のオフェンスに向けて精神集中を図る。
 20代のニュートンは違った。プレーの分析や打ち合わせはそこそこで、すぐにフィールドに目を向け、時には自軍ディフェンスを応援し激励した。ニュートンなりのリーダーシップだったのだろうが、それはQBの役割ではないし、ペイトリオッツでは求められない。
 ベリチックにしろ、マクダニエルズにしろ、プレー理解や実行の面で、選手に求めるスタンダードは極めて高い。そこをクリアできるかどうか。ニュートンの自由奔放なパーソナリティーをチームが許容するのとは、別の問題であり、ベリチックはHCとして、その部分では妥協はしないだろう。

己の能力に強い自負を持つニュートンは、今オフ、自分に起きたことでプライドを傷つけられた。その感情を隠さずにSNSなどで発信してきた。気持ちは理解できる。ただ、ニュートンが人々のリスペクトを再び得られるかどうか、それは彼自身が変わることができるかどうかにかかっている。

画像: ペイトリオッツのベリチックHC(右)とマクダニエルズ攻撃コーディネーター=photo by Getty Images

ペイトリオッツのベリチックHC(右)とマクダニエルズ攻撃コーディネーター=photo by Getty Images

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