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2021-08-07

【Tokyo2020 ボクシング】劇的大逆転。ソウザがヒズニャクをKOしてブラジルに金メダル

ヒズニャクに押し込まれながら、左フック一撃で逆転KOのソウザが勝利の雄叫び

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 東京五輪ボクシング競技(東京・両国国技館)は7日、4つのイベントで決勝が行われた。男子ミドル級では、絶対的な優勝候補だったオレクサンドル・ヒズニャク(ウクライナ)が一方的に攻め込みながら、3ラウンド、エベルト・ソウザ(ブラジル)の左フック一撃で沈む大波乱があった。

男子フライ級決勝 ガラル・ヤファイ(イギリス)【判定4-1】カルロ・パーラム(フィリピン)

 ヤファイが初回に奪ったダウンが流れを決めた。リオ五輪金メダルのシャホビディン・ゾイロフ、そして準決勝では日本の田中亮明(岐阜・中京学院大中京高教)を破って勢いに乗るパーラムの攻めを見きわめ、見事な左ストレート一撃で倒した。2ラウンドもヤファイが効果的なアッパーカットをヒットしてリード。追い込まれたパーラムは最終回、攻勢をかけたが、カウンター狙いからすぐさまエスケープするイギリス人をとらえられなかった。

 ヤファイは元WBA世界スーパーフライ級チャンピオンのカリド、前ヨーロッパ・スーパーバンタム級チャンピオン、ガマルの弟。次々にプロ入りする兄たちと違い、ただひとりアマチュアにとどまり、28歳にしてついに最高の栄冠にたどり着いた。
ヤファイ(右)が田中を破ったパーラムに打ち勝つ
ヤファイ(右)が田中を破ったパーラムに打ち勝つ

女子フライ級決勝 ストイカ・クラステバ(ブルガリア)【判定5-0】ブセナズ・チャキロウ(トルコ)

 ともにサウスポーのカウンターパンチャー。相手の攻めをどうやっておびき寄せるかがカギだった。第1シードのチャキロウルはさっそくロープ際まで下がって迎撃の機会をうかがった。クラステバはじっくりプレスをかけて追いつめるが、無駄な攻めはしない。じれたチャキロウルが左スイングを飛ばすと、左右のストレートを打ち込み、攻勢を印象づける。ジャッジ5者の判定は5-0でクラステバ。2ラウンド以降も効果的なカウンターを打てないチャキロウルを、クラステバは慎重にさばき続け、見事に5-0判定をつかみ取った。

 ヨーロッパ予選準決勝で0-5判定負けを喫してるチャキロウルとの頭脳戦を制したクラステバは35歳、30歳を超えて初めて世界選手権で銀メダルを獲得した遅咲きだ。準決勝では日本期待の並木月海(自衛隊)も破っている。上手に経験を重ねれば、それが大きな力になることを証明してくれた。

男子ミドル級決勝 エベルト・ソウザ(ブラジル)【KO3回1分29秒】オレクサンドル・ヒズニャク(ウクライナ)

 あまりに劇的だった。それまで試合を支配していたのは大本命の優勝候補ヒズニャク。それも圧倒的にである。アップライトスタイルで戦うソウザにすかずかと接近し、右クロスを中心にパンチの山を積み重ねる。2ラウンド、ソウザが距離をとろうとしても、左ジャブで追い、中間距離からの強烈な左右で圧倒した。

 ソウザは打つ手なしの状態。ポイントも大差でリード。それでもヒズニャクは3ラウンド、攻撃の手を緩めない。それが、まさかの大逆転につながろうとは誰も思わなかった。ソウザの左フックがカウンターとなって炸裂。ヒズニャクはもんどりうって倒れ込む。立ち上がったが、足もとが不安定と見て取ったレフェリーがそのまま、ソウザのノックアウト勝ちを宣した。

 ヒズニャクはこの判断に激しく抗議したが、判断は覆らない。歴史的な逆転KOでオリンピック・チャンピオンとなったソウザの歓喜の絶叫ばかりが、驚きが渦巻く場内に響きわたった。
得意のインファイトを封じられたスルメネリ(左)だが、中国の谷に競り勝った
得意のインファイトを封じられたスルメネリ(左)だが、中国の谷に競り勝った

女子ウェルター級 ブセナズ・スルメネリ(トルコ)【判定】谷紅(中国=グ・ホン)

 今大会、ずば抜けた安定感を見せて勝ち上がってきたスルメネリは決勝の場でさすがに緊張したか動きが硬く、谷の長いジャブに接近を阻まれる。2ラウンドにようやく攻勢を強めると、谷がしつこくホールドに出て、レフェリーが減点処分を取ると、これで流れが一変した。スルメネリの左フックからの連打に、またしても組みつきに行った谷にカウントが入る。3ラウンドは再び膠着状態になり、判定は3-0と僅差になったが、スルメネリの勝利は当然の結果だった。

 スルメネリの進撃を支えたインファイトの技術も見たかった。この選手には長くトップを走れるだけの能力が感じられる。

キューバがすでに3つの金メダルを獲得

注目のマコーマック(右)はイグレシアスの技巧を打ち崩せず
注目のマコーマック(右)はイグレシアスの技巧を打ち崩せず
ラッシャーのバチルガジエフ(右)がリーガンを押しきった
ラッシャーのバチルガジエフ(右)がリーガンを押しきった

3日・男子ウェルター級決勝 ロニエル・イグレシアス(キューバ)【判定5-0】パット・マコーマック(イギリス)


 前評判の高かったマコーマックは初回、今大会、最高の出来を見せたが、ジャッジは巧みな守りから左をのぞかせるイグレシアスにポイントを与える。これに焦ったか、2ラウンドにマコーマックは攻めて出る。が、イグレシアスの左パンチを浴びてダウン(判定はスリップ)。あとはイグレシアスが思うがままにコントロールしていった。イグレシアスは9年ぶりの金メダル奪還となった。

4日・男子ライトヘビー級決勝 アルレン・ロペス(キューバ)【判定4-1】ベンジャミン・ホイテーカー(イギリス)

 ミドル級からウェイトを上げたロペスがリオに続き五輪連覇を成し遂げた。ホイテイカーが191センチの長身から打ち下ろすパンチを、上体の動きで紙一重で避けるロペスは、サウスポーとオーソドックスの両方を使い分けて応戦。互いに目立ったクリーンヒットはなかったが、ロペスの試合運びが評価される形になった。

5日・男子フェザー級決勝 アルベルト・バチルガジエフ(ロシア)【判定3-2】デューク・リーガン(アメリカ)

 サウスポーの猛ラッシャー、バチルガジエフのプレッシャーに苦しんだリーガンは2ラウンドに右ストレートを軸に置き、好打を重ねる。ただ、3人のジャッジは、右パンチ以外に攻めのないリーガンの窮屈な対応を評価せず、勝負の行方は決まってしまった。

6日・男子ヘビー級決勝 フリオ・ラクルス(キューバ)【判定5-0】ムスリム・ガジマゴメドフ(ロシア)

 ラクルスは得意のアウトボクシングにまんまとガジマゴメドフを誘い込み、無難に五輪連覇を成し遂げた。初回、動きのかたいロシア人に、ラクルスは単発ながら鋭い左を繰り出す。続く2ラウンドもガジマゴメドフの荒い攻めをかわしていく。2ラウンド終了時に3人のジャッジが有利としているのを確認したラクルスは、3ラウンドもノーガードのままバックステップを踏むいつもの逃げ切り戦法で、そのまま勝利へと駆け込んだ。

文◎宮崎正博 写真◎ゲッティ イメージズ Photos by Gwetty Images

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