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2020-11-24

【私の“奇跡の一枚” 連載94】故人80年来の夢が実現! 多士済々「相撲記者」の仲間入りを果たした大相撲信者

大横綱千代の富士を囲み、勝負後の談話を取材する報道陣。左が水野グラフNHK大相撲特集編集長。きちっと背広とネクタイを着用。歴代の横綱から信頼を集め、いい相談役にもなっていた水野氏の姿が垣間見える

長い人生には、誰にもエポックメーキングな瞬間があり、それはたいてい鮮やかな一シーンとなって人々の脳裏に刻まれている。相撲ファンにも必ず、自分の人生に大きな感動と勇気を与えてくれた飛び切りの「一枚」というものがある――。本企画では、写真や絵、書に限らず雑誌の表紙、ポスターに至るまで、各界の幅広い層の方々に、自身の心の支え、転機となった相撲にまつわる奇跡的な「一枚」をご披露いただく。
※月刊『相撲』に連載中の「私の“奇跡の一枚”」を一部編集。平成24年3月号掲載の第2回から、毎週火曜日に公開します。

力塚と相撲記者碑

令和元年秋場所7日目の9月14日、私は特別な感懐を持って、回向院の力士碑の前に立ち尽くしておりました。大きな碑のその横に太刀持ち、露払いのように建てられた相撲記者碑に、5年前(平成26年7月14日)に大腸癌のため83歳で亡くなった私の主人の名が、凛とした字で刻まれていたからでございます。

主人は水野尚文と言い、根っからの相撲ファンで、NHKに入局してからもその熱はやむことなく、いくつかの著書などものし、『好角家代表』の異名をいただいていたようです。

しかし昭和50年代に入ると、名アナウンサーだった河原武雄様が編集長となって立ち上げた相撲雑誌『別冊グラフNHK大相撲特集』(のちの『別冊NHKウィークリー・ステラ大相撲特集』に志願して移る形となり、大相撲報道を職業とするまでになってしまいました。

体も小さく、一見物腰も柔らかいので、ひと様にはまさかと思われるかもしれませんが、編集部を停年後も家で実況を見ているときでも、私が話しかけると、「ちょっと黙ってて!」と制してテレビを見続けるような厳しい面があった人でもありました。ですから、家族のものには、皆様のご想像とは逆に、家で相撲の話をしてくれることはほとんどありませんでした。

とはいえ相撲雑誌や研究書、ビデオは言うに及ばず、土産物、相撲関係者の揮毫ほか記念の品まできっちりコレクション! 相撲資料の保存のためだけで部屋が満杯どころか、あふれてしまう始末でした。

お酒もたばこもやらず、まさに相撲一筋に魅了された人生で、本場所の取材ばかりでなく朝早くから各部屋の稽古場巡りも欠かさぬ、マメな人でした。

何よりも相撲愛を全う

そんな主人にご理解を示してくださった人の中には、「NHKでの出世を棒に振ってまで大相撲に打ち込んだ変わり者」とまで言つてくださる方もございました。その分、何かと頼りにしていただいていたらしく、本人もいざというときには、持てる限りの知識をふり絞って誠実にお答えしていたようです。そんな一面を、八角理事長や出来山親方(元関脇出羽の花)、芝田山親方(元横綱大乃国)から評価していただいたことが、今回の、雑誌畑からは初めての名誉ある相撲記者碑への刻銘につながったのでしょうか。主人の80年を超える相撲愛を評価してくださり、大先輩名物記者の皆様と同じ憧れの「相撲記者」の列に加えていただきましたこと、本人になり代わりまして(あの世で喜びの涙を流しているはずでございます)、皆々様に厚く御礼申し上げる次第でございます。皆さま、本当にありがとうございました。

語り部=水野弥生(元雑誌NHK『大相撲中継』編集長・水野尚文 妻)

月刊『相撲』令和元年10月号掲載


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