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2020-11-27

【アメフト】新QBパランデック快走 ノジマ相模原、IBM撃破し2勝1敗で今季終える

【ノジマ相模原 vs IBM】第3クオーター、ノジマ相模原のQBパランデックが97ヤードを走ってTD。伊藤OC(中央左)会心のプレーコールが奏功した=2020年11月23日、撮影:小座野容斉

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アメリカンフットボールのXリーグ「X1スーパー」第3節の11月23日、富士通スタジアム川崎でノジマ相模原ライズとIBMビッグブルーが対戦、ノジマ相模原がIBMを破った。ノジマ相模原は2勝1敗でAブロック2位、IBMビッグブルーは3戦全敗でAブロック最下位となって今季を終えた。

ノジマ相模原ライズ○27-17●IBMビッグブルー
(2020年11月23日、富士通スタジアム川崎)


 ノジマ相模原が堅実なフットボールで勝ち切った。
 先制したのはIBM。第1クオーター10分、K佐藤太希が39ヤードのフィールドゴール(FG)を決めた。ノジマ相模原は第2クオーター2分に、新QBカート・パランデックのショベルパスをキャッチしたRB森本紘介が50ヤード以上を独走してタッチダウン(TD)、逆転した。ノジマは同5分にも笹尾健のFGで追加点を挙げた。IBMは、同8分にQBケビン・クラフトからTEジョン・スタントンにパス、スタントンが左サイドライン際を快走してTDを決めた。
 IBMは前半終了間際にも、レッドゾーンまで攻め込んだが、残り1秒からのフェイクFGは失敗。10-10で後半へ折り返した。
 第3クオーター4分、ノジマ相模原は笹尾のFGで再びリードした。IBMは次のドライブでゴール前まで攻め込むが、ノジマ相模原のDBリー・ハイタワーがQBクラフトのパスをインターセプトした。ノジマ相模原は直後のオフェンスで、オプションから外に持ち出したQBパランデックが97ヤードを独走するTDでリードを広げた。
 IBMは、同8分にQBクラフトが投じたパスがいったんはインターセプトされかかったが、ディフェンス選手同士の衝突によって浮いたボールをWR白根滉がキャッチして、幸運なTDとなり、20-17と追いすがった。
 しかし、ノジマ相模原は、第4クオーター、QBパランデックからWR八木雄平への33ヤードパスでゴール前に迫ると、移籍のRBウィリアムス・デレク・アキラがTDで再びリードを10点差に。同10分には、IBMのFGトライをノジマ相模原DB渡辺健太がブロックして、勝利を決めた。
 ノジマ相模原は、ファーストダウン更新(14回と21回)、トータルオフェンス(335ヤードと445ヤード)でIBMを下回ったが、30ヤード以上ドライブしたオフェンスシリーズをすべて得点に結びつける試合運びが光った。

【ノジマ相模原 vs IBM】第2クオーター、ノジマ相模原RB森本が、ショベルパスを捕って50ヤード以上を走りTD=2020年11月23日、撮影:小座野容斉
【ノジマ相模原 vs IBM】第2クオーター、ノジマ相模原RB森本が、ショベルパスを捕って50ヤード以上を走りTD=2020年11月23日、撮影:小座野容斉


富士通戦の惨敗からチームを立て直す

 ノジマ相模原の新外国人QBパランデックの最大の能力は脚力を生かしたQBのランだ。第3クオーター、その能力がビッグプレーを生んだ。
 DBハイタワーのインターセプトで、失点を未然に防いだとはいえ、自陣ゴール前3ヤードのオフェンスだ。IBMにしてみれば、ディフェンスが3&アウトで止めれば、再び相手陣からのオフェンスが濃厚になる。1ヤードも取らせたくないというディフェンスの気持ちを逆手に取って、伊藤吾朗オフェンスコーディネーター(OC)はファーストプレーで勝負に出た。変形版リードオプションだ。
 RBの中央のダイブにディフェンスが引っかかれば、パランデックがウィークサイドである左の外を走るというシンプルなものだった。左側にいたWR八木が、反対側のストロングサイドへ向かってモーションしたのも効いた。
 前のめりの気持ちになっていたIBMのOLBは、RBに反応、すかさずパランデックはプラン通りに左の外を走った。40ヤード4秒4台という希代の快足にIBMの選手はまったく追いつけず。大喜びするノジマ相模原サイドライン前を走り抜けたパランデックの姿は、NFLの49ナース元QB、コリン・キャパニックを思い起こさせた。
 パランデックの入団は春の段階で決まっていたが、新型コロナの影響で来日は大幅に遅れた。米国でもジムなどが閉鎖となり、走る練習もウェートトレーニングも思うようにできなかったという。
 ノジマ相模原の城ケ瀧一朗ヘッドコーチ(HC)は「プレーブックは渡していたし、オンラインでミーティングをしていたので、頭の方で理解はしていたが、日本人レシーバーとのタイミングはなかなか合わなかった」という。「まじめな性格」というパランデックは、平日も練習したいと申し出て、都合の合う選手と共にパス練習を重ねた。
 ただ、ゲームの中では、無理にパスで勝負させるのではなく、その選手の武器を最大限に発揮させた、伊藤OCのプレーコールが光った。


【ノジマ相模原 vs IBM】圧巻の走りを見せた、ノジマ相模原のQBパランデック=2020年11月23日、撮影:小座野容斉
【ノジマ相模原 vs IBM】圧巻の走りを見せた、ノジマ相模原のQBパランデック=2020年11月23日、撮影:小座野容斉

【ノジマ相模原 vs IBM】第3クオーター、ノジマ相模原LB田中がパスインターセプトしかけたところで、味方のディフェンス選手と衝突する=2020年11月23日
【ノジマ相模原 vs IBM】第3クオーター、ノジマ相模原LB田中がパスインターセプトしかけたところで、味方のディフェンス選手と衝突する=2020年11月23日

 無理な勝負をせず、できることを確実にやり切るという点ではディフェンスも同様だった。
 前任の加藤慶ディフェンスコーディネーター(DC)時代、ノジマ相模原は、パスラッシュとブリッツを組み合わせた変幻自在のパス守備だった。決まった時は、トップクラスの米国人QBも抑え込んだが、ミスや微妙なタイミングのズレなどで破綻することも度々だった。新任の畑喜一郎DCは、ブリッツの構えこそ見せたものの、パスラッシュは基本的にDL4人に任せ、パスカバーを手厚くするベーシックなディフェンスに徹した。
 フィールド中央ではパスは通されるが、エンドゾーン近くになるとディフェンス選手の密度が上がり、必然的にパスは決まりにくくなる。IBMのQBクラフトは、まんまとその罠に引っかかった。ハイタワーのインターセプトもその結果だった。

 城ヶ滝HCは、試合後「すごく嬉しいし、ほっとしています。感情的に『やった!』というよりは、『良かったな』という感じです。選手たちを褒めてやりたい」と語った。実感のこもった言葉だった。
 須永恭通HCや加藤DC、中村多聞RBコーチなど主な首脳陣が退任。エースQBだったジミー・ロックレイも移籍した。さらに新型コロナウィルス感染症の影響で選手補強や練習も、ままならなかった。
 「コーチ経験ゼロ。選手引退後、フットボールから完全に離れていました」というルーキーHCには試練のシーズン。
 初戦の富士通戦では、試合開始から7分足らずで4TDを奪われるなど一方的な展開で、3-48という屈辱的な大敗を喫した。
 城ケ瀧HCは富士通戦の惨敗を「凄くわかりやすい結果だった」と振り返る。
 「日ごろの練習がもろに出た。土日しか練習できないのに、土曜日の初っ端、集まった時の選手たちの意欲がなかった。土曜の朝一で覇気がない状況がずっと続いていた」という。それが「いざ試合になっても、第1クオーター、初っ端からの28失点につながっていった」という。確かに、この日は土曜日だった。
 「土曜日、初っ端から勝負するぞ、という気持ち。それをまず、大敗明けの最初の練習から、徹底させた。コーチ陣、主要メンバー、他の選手たちにどんどんそれが浸透していった」という。 大敗に危機感を持った選手たちが「日本一という目標にふさわしいチームなのか」と自律的に様々なことに対して動き出したことも大きかったという。パランデックのチーム合流も期せずして同じタイミングだった。
 ノジマ相模原にとって、富士通戦の第1クオーターは、先も見えないような土砂降りの大雨だった。しかし、その後はしっかり地固めをして、来季に希望を残してシーズンを終えた。わずかな期間で、フットボールが急にうまくなるわけもない。ただ、今できることをしっかりとやる、地に足の着いたフットボールをやり切ること。それがノジマ相模原が、今季得た最大の財産だった。

【ノジマ相模原 vs IBM】ノジマ相模原の城ケ瀧HC(中央左)と畑DC(中央右)=2020年11月23日、撮影:小座野容斉
【ノジマ相模原 vs IBM】ノジマ相模原の城ケ瀧HC(中央左)と畑DC(中央右)=2020年11月23日、撮影:小座野容斉

【ノジマ相模原 vs IBM】第3クオーター、ノジマ相模原のDBハイタワーがIBMのQBクラフトのTDを狙ったパスをインターセプト=2020年11月23日、撮影:小座野容斉【ノジマ相模原 vs IBM】第3クオーター、ノジマ相模原のDBハイタワーがIBMのQBクラフトのTDを狙ったパスをインターセプト=2020年11月23日、撮影:小座野容斉

【ノジマ相模原 vs IBM】第3クオーター、ディフェンス選手同士の衝突によって浮いたボールをIBMのWR白根滉がキャッチして、幸運なTD=2020年11月23日、撮影:小座野容斉【ノジマ相模原 vs IBM】第3クオーター、ディフェンス選手同士の衝突によって浮いたボールをIBMのWR白根滉がキャッチして、幸運なTD=2020年11月23日、撮影:小座野容斉

【ノジマ相模原 vs IBM】第1クオーター、IBMのTE松岡が、パスを捕って34ヤードをゲイン。フィールド中央ではIBMのパスはよく決まった=2020年11月23日、撮影:小座野容斉
【ノジマ相模原 vs IBM】第1クオーター、IBMのTE松岡が、パスを捕って34ヤードをゲイン。フィールド中央ではIBMのパスはよく決まった=2020年11月23日、撮影:小座野容斉


【ノジマ相模原 vs IBM】初戦に大敗の後、2連勝でシーズンを終え、スタンドのファンにあいさつするノジマ相模原の笠井主将=2020年11月23日、撮影:小座野容斉

【ノジマ相模原 vs IBM】初戦に大敗の後、2連勝でシーズンを終え、スタンドのファンにあいさつするノジマ相模原の笠井主将=2020年11月23日、撮影:小座野容斉






【写真・文/小座野容斉】

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