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2020-12-05

【NFL】コロナがもたらしたレギュラーシーズン第12週のイレギュラー過ぎる出来事

水曜日開催となったスティーラーズ対レイブンズ戦で「本当は仕事をしていなければいけないのに」と書いたボードをかざすファン=2020年12月2日、photo by Getty Images

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米プロフットボールNFLの第12週は、11月26日・木曜日のサンクスギビングデーゲームに始まり、12月2日・水曜日のピッツバーグ・スティーラーズ対ボルティモア・レイブンズ戦で終わった。全米で蔓延する新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のために、イレギュラーな出来事だらけで、ファンの記憶やリーグの歴史にも残る1週間となった。

3回延期、レイブンズ戦は水曜日に強行 史上初の「全曜日で開催」に

【スティーラーズ vs レイブンズ】ジャクソンに代わってQBとして先発したRG3がRBエドワーズにハンドオフ=photo by Getty Images

【スティーラーズ vs レイブンズ】ジャクソンに代わってQBとして先発したRG3がRBエドワーズにハンドオフ=photo by Getty Images


イレギュラーな出来事の始まりは、レイブンズチーム内のCOVID-19 クラスターだった。既報した通り、昨年のリーグMVP、QBラマー・ジャクソンも陽性と判定されたレイブンズは、主力選手が次々にCOVID-19リザーブリスト入り。当初は11月26日に予定されていたスティーラーズ戦は、29日・日曜日⇒12月1日・火曜日⇒12月2日・水曜日と、3度にわたって変更された。

12月2日のゲームでは、レイブンズは20人以上の選手が陽性となり出場できなかった。その中には、QBジャクソンら昨年プロボウラー7選手、今季の先発9選手も含まれていた。それだけでなく、練習場やウェートルームなど球団の設備は閉鎖されたためにぶっつけ本番での試合となった。レイブンズは試合当日にピッツバーグに移動したが、当日まで試合がキャンセルになる可能性が強くあった。


圧倒的不利を予想されたレイブンズだが、試合では14-19と健闘した。

しかし、ジャクソンに替わってQBとして先発したロバート・グリフィン3世(RG3)は、ハムストリング(大腿部の裏側)を負傷して途中からサイドラインに下がった。RG3は「今までキャリアの中で、ハムストリングを負傷したことなどなかった」として、練習不足、準備不足は明らかで、試合をやるべきではなかったとリーグを暗に批判した。

スティーラーズでも、OLマーキース・パウンシー、DLスティーブン・トゥイット、RBジェームズ・コナーら主力選手がCOVID-19リザーブリスト入りとなっていた。スティーラーズのマイク・トムリンヘッドコーチ(HC)も「(カレッジの)ジュニアバーシティーゲーム(新人戦)のようだった」と、地区内最強のライバルとの試合が、本来の姿から遠かったことを皮肉った。

スティーラーズは開幕から無敗の11連勝となったが、この試合で主力OLBのバド・デュプリーが右ひざの前十字靭帯断裂の重傷を負い、今季はもう出られないことが確定。今後に暗雲が漂うことになった。

NFLのレギュラーシーズンゲームが、水曜日に開催されたのは、過去、2012年の開幕戦、9月5日のジャイアンツ対カウボーイズ戦だけだ。大統領選挙の年で、民主党の現職バラク・オバマ大統領の指名受諾演説が木曜日に予定されたためにこれを避けて水曜日となった。第2週以降の試合が水曜日に開催されたことは史上初めてだった。

今季は、第15週の12月19日・土曜日にデンバー・ブロンコス対バッファロー・ビルズ、グリンベイ・パッカーズ対カロライナ・パンサーズの2試合が、第16週の12月25日・金曜日にミネソタ・バイキングス対ニューオリンズ・セインツ戦が組まれている。COVID-19の影響で、第5週のテネシー・タイタンズ対ビルズ戦が10月13日・火曜日に行われており、史上初めて、同一シーズンのすべての曜日で公式戦が行われた年となりそうだ。

QB4人が全員出場できず、WRが急造QBを務め惨敗 ブロンコス
【ブロンコス vs セインツ】急造QBとして先発したブロンコスのWRヒントン。大学時代にQBとしてプレーした経験があった=photo by Getty Images

【ブロンコス vs セインツ】急造QBとして先発したブロンコスのWRヒントン。大学時代にQBプレー経験があったが、ゲームでは役に立たなかった=photo by Getty Images

レイブンズのクラスター以上に、注目を集めたのがブロンコスだ。現地11月26日プラクティススクワッド(PS=練習生)まで含めた4人のQB全員が、COVID-19リザーブリスト入りしてしまったのだ。4名中、COVID-19の陽性判定を受けたのはバックアップだったジェフ・ドリスケル1人だけ。現在のスターター、ドリュー・ロック、バックアップのブレット・リピン、そしてコロナ用に増枠されたPSのブレイク・ボートルズの3人は濃厚接触の疑いだった。

ブロンコスによると、4人は、現地11月24日・火曜日に球団の施設内で一室に集まってフィルムスタディをしていたという。全員が20代のユニットの、真面目さが仇となった形だ。

濃厚接触の疑いだけなら検査で陰性が5日間続けば試合に出られるが、判明した時点で日曜日の試合まで3日しかなかった。FAで新たにQBを獲得したとしても、5日間の隔離が必要となるのは同じだ。ブロンコスは、QB無しで29日・日曜日のセインツ戦を戦うことが決定してしまったのだ。

セインツは、QBドリュー・ブリーズを負傷で欠いたものの、この試合前まで7連勝中と好調で、ベストのメンバーで戦っても勝てるかどうかわからない強敵だった。

レイブンズのようにクラスターで、陽性判定の選手が続出するという事態になれば、NFLが試合延期も考えたかもしれない。しかし、ブロンコスの選手で陽性となったのはドリスケル1人だけだった。

試合当日の朝、ブロンコスはPSからWRケンダル・ヒントンを昇格させ、QBとすることを決めた。1997年2月生まれ、23歳のヒントンは11月4日にPSとして契約したばかり。NFLでプレーするのはもちろん初めてだった。

ただし、米の一部メディアで伝えられたヒントンの経歴の中で、「この2年間でタックルされたことは1度もない」というのは、話を面白くするための虚偽情報だ。公式サイトの日本語版、NFL Japanは、このウソを、そのまま確認せずに掲載している。

ヒントンはウェークフォレスト大で4シーズン控えQBをした経験があり、1504ヤード、8TD、7INTというスタッツを残した。最終学年の2019年はWRに転向して、73キャッチ、1001ヤード、4TDという実績もあった。今年4月にWRとしてルーキーFAでブロンコスに入団、開幕前の9月5日にカットされるまで夏季キャンプなどにも参加していた。今回PS契約するまでのブランクは2カ月のため、米メディアが伝えた「セールスの仕事をしていた」という経歴も、疑わしかった。

いずれにせよ、29日にヒントンがプレーすることを求められたのは、QBで、これらの実績は、ほぼ何の役にも立たなかった。

ブロンコスにとって、不運としか言いようがないセインツ戦は、3-31と完敗で終わった。ヒントンのパス成績は1/9、成功率11.1%、13ヤード、2インターセプトと散々だった。対するセインツも、ブリーズの代わりのQBが、スペシャルプレーで名を馳せたテイサム・ヒルだったこともあり、ラン中心のオフェンスに終始したためにパスは78ヤードだった。両チーム合わせてパス91ヤードはあまり目にしたことが無いスタッツだった。

試合後、ヒントンは再びPSに落とされた。11月30日・月曜日、ブロンコスはドリスケル以外の3人のQBをCOVID-19リザーブからロースターに復帰させた。

【ブロンコス vs セインツ】TDを決めるセインツのQBヒル=photo by Getty Images
【ブロンコス vs セインツ】TDを決めるセインツのQBヒル=photo by Getty Images

本拠地でフットボールが禁止 アリゾナを暫定根拠地に 49ナース

サンフランシスコ・49ナースに起きたことも、前代未聞だった。本拠地での試合開催が不可能になったのだ。

現地11月28日、49ナースの本拠地リーバイススタジアムがあるカリフォルニア州サンタクララ郡が、プロ、カレッジ、ユーススポーツを問わず郡内でのすべてのコンタクトスポーツの禁止を発表した。また、150マイル以上離れた地域から郡を訪れる場合も2週間の隔離を義務付けていた。期限は週明けからの3週間、COVID-19対策だった。

49ナースは、12月7日にマンデーナイトゲームのビルズ戦、12月13日にワシントンフットボールチームと、リーバイススタジアムで対戦する予定だったが、本拠地での試合が不可能になった。

49ナースのカイル・シャナハンHCは、この発表があった土曜日の午後、チームと共にロサンゼルスへ向かう飛行機の中にいた。日曜日のラムズ戦に備えての移動だった。シャナハンは、郡当局からの事前の注意がなかったことに不満を持った。選手やコーチ・スタッフたち、その家族は、SNSに溢れる関連情報に戸惑ったという。

49ナースは突然の情報に不安を感じながらアウェーゲームでラムズに23-20と競り勝った。負ければプレーオフ出場が困難になる大事な試合だった。

シャナハンHCは、ラムズ戦の後に「誰もが、フットボールに本当に深くコミットしている。だから、一番大きな問題は我々は皆、家族を残してきているということだ」と話した。

「我々は、皆、どこにでもいる普通の人間だ。だから(クリスマスのある)12月まるまる、家族と離れ離れになるなんて本当に大きな問題なんだ。我が家に帰れないのであれば、安心して過ごせる場所が必要だ。その次に、練習場。そして試合をできるスタジアムだ」

49ナースは、12月1日、ビルズ戦、ワシントン戦の2試合をアリゾナ・カーディナルスの本拠地、グレンデール市のステートファームスタジアムで開催すると発表した。カーディナルスとは、日程がバッティングしていなかった。チームは水曜日、アリゾナに移動した。

49ナースは「カーディナルスのオーガニゼーション、ステートファームスタジアム、NFLの関係者は、試合の移転に伴う多くのロジスティックの問題を解決するために、協力的で親身になってくれた」と謝意を表明した。

地区内ライバルの窮状に手を差し伸べたことについて、カーディナルスのクリフ・キングスベリーHCは「サンフランは、明らかに困難な状況だ。我々が、彼らを受け入れることができ、彼らがこれらの施設を使用し、彼らのシーズンを継続していくことができるのはうれしいことだ。要するに、この事態は、2020年そのもの。私は、すべてが彼らにとってうまくいったことを喜んでいる 」と語った。

スポーツ専門局ESPNによると、49ナースは、代替本拠地として、ダラスカウボーイズのAT&Tスタジアム、ロサンゼルス・チャージャーズが2016年まで本拠地としていたSDCCUスタジアム(旧クアルコムスタジアム)も検討していたという。

サンタクララ郡の制限は12月21日午前5時まで。その間、49ナースは「我が家」に帰ることはない。12月20日にはカウボーイズとアウェーで対戦するが、その試合後に、郡の制限が延長された場合は、新たな拠点を探すことになる。

常勝チームから招いたトップが機能せず、解雇  ライオンズ

ライオンズを解雇されたマット・パトリシアHC=photo by Getty Images
ライオンズを解雇されたマット・パトリシアHC=photo by Getty Images


このニュースだけはCOVID-19と直接の関係はない。デトロイト・ライオンズは現地11月28日、マット・パトリシアヘッドコーチ(HC)とボブ・クインゼネラルマネジャー(GM)を解任した。26日のサンクスギビングデーゲームでヒューストン・テキサンズに敗れた後の決定だった。

パトリシアはニューイングランド・ペイトリオッツのディフェンスコーディネーター(DC)から、ライオンズのHCに招かれ、今季が3年目、通算成績は13勝29敗1分で、プレーオフ出場はなかった。ライオンズは今季4勝7敗だが、第7週終了時には3勝3敗だった。その後5試合で1勝4敗、NFC北地区最下位に落ち込んでいた。

1974年9月生まれのパトリシアは46歳。1999年から本格的にコーチとしての活動を始め、2004年にペイトリオッツに加入。以後ビル・ベリチックHCの下で研鑽を積んだ。2012年にDCに昇格し、2017年までの6シーズンでスーパーボウルに4回出場、3回優勝という手腕を替われ、ライオンズHCとなった。

同時に解雇されたボブ・クインGMもペイトリオッツ人脈だ。2000年に球団スタッフとしてペイトリオッツに加入したクインは、直ぐにスカウト職となり、16シーズンに渡りペイトリオッツのスカウトとして活動。2012年から4シーズンはプロスカウト部長も務めた。ペイトリオッツはベリチックHCが事実上GMも兼任しているので、クインは実務担当のトップとして手腕を発揮していた。ライオンズのGMにはパトリシアより1年早く、2016年に就任していた。

ライオンズはNFLで5番目に古い1929年の創設だが、スーパーボウル出場が一度もない。パトリシアの前任HC、ジム・コールドウェルは、4シーズンで勝ち越し3回、2回のプレーオフ出場ではワイルドカードで敗退したことが、解雇の理由の一つだった。

2000年代の最初の10年は、シーズン二桁敗戦が続いたライオンズだが、2013年からは5シーズンで43勝37敗。チーム力が向上したので、レギュラーシーズンだけではなく、ポストシーズンを勝ち抜くリーダーとして、常勝チームからトップ級のコーチ・GMを招いたつもりだったが、その目算が完全に崩れていた。

ライオンズの後任HCはオフェンスコーディネーターだったダレル・ビーベルが務める。

【アメリカンフットボール・マガジン編集部】

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