2020年の関東大学アメリカンフットボール1部TOP8全日程が終了してから1週間後の12月6日、早稲田大学ビッグベアーズ、東京大学ウォリアーズ、立教大学ラッシャーズ、中央大学ラクーンズの各校からコーチが参加して、「反省会」が開かれた。元早大RB/ストレングスコーチ、元ノジマ相模原ライズRBコーチの中村多聞さんの声掛けに、各校コーチの有志が集まった。
期せずして、順位が5位の早大、6位の東大、7位の立教大、8位の中央大と、下位4校の顔ぶれとなったため、今シーズンの反省や、普段コーチをしている中で思っていることなどを、チームの枠組みを超えてざっくばらんに語り合うトークとなった。数回に分けて掲載する。(東京・六本木のゴリゴリバーガータップルームで)
早大、東大、立教大、中央大各校のコーチと中村多聞さん=東京・六本木のゴリゴリバーガータップルームで、撮影:小座野容斉出席者(敬称略)
<早大>關正治、八木研作、櫻井大祐
<東大>加藤翔平、新澤庸介、有馬真人
<立教大>奥村宏仁
<中央大>畠山宗久、岡本光司、大塚傑大
司会:中村多聞
タックルで倒れないRB 走力を仕込まれたWR・・・日大多聞:ではまず、甲子園ボウル出場を決めた日大の強さについて皆さんの意見を聞きたいと思います。特にオフェンスの部分について、まずは、ブロックが違うため、対戦がなかった立教と早稲田のコーチからお願いします。その後で、実際に対戦した、中央大と東大の皆さんにお願いします。
櫻井:早大で今季ディフェンスコーディネーターだった櫻井です。見た限りですが、日大は、どのボールキャリアーもタックルで倒すのが難しいと感じました。ディフェンス選手が良いポジショニングを取れたとしても、タックルで倒せないので、コーディネーションの部分、ゲームプランの部分で止められるか止められないかというところで、コントロールできないことが多くなる。なので(仮に戦ったとしたら)ゲームメークが難しくなるだろうなというのが、今季の日大の印象です。
タックルの技術は、実際に練習しないと、上手くならない技術なので、今季のコロナ禍(で練習量が少なかった)ということを考えると止めるのは非常に難しいなという感じでした。
【日大 vs 中大】第3クオーター、日大RB川上がTD、中大を再び突き放す=2020年11月1日、撮影:小座野容斉
多聞:はい、では立教大学。
奥村:立教大学のディフェンスコーディネーターをしております奥村です。3年前、甲子園で優勝した時の日大の強さは引き継いでいるなと思います。ただ、あの3年前ほどの脅威があるかといったら、違う気もします。
多聞:では、実際に戦ったチームに聞いてみましょう。東大はどうですか。東大は日大に何点取られましたか。
有馬:東大のディフェンスコーディネーター、有馬です。ウチは30点取られました。日大はミスをしないですね。去年(BIG8で)は、結構、ドライブの中でどこかでミスをしていたのではないかと思います。反則だったり。それが今季はなくて、もちろんターンオーバーとかまったくないし。パスカバーとかで引っかけようとしても、QBの林(大希)君は引っかかってくれない。本当にミスがないので、どこでオフェンスを切ったらいいのかがわからない。それでズルズル進まれてスコアされる。そういう感じでしたね。
多聞:では中央大学はどうでしょうか。
岡本:中央大学で昨年はオフェンスコーディネーター、今季はRBコーチをしている岡本です。中央も日大には31点取られましたが、RBコーチとしての目線で見ると。
【日大 vs 中大】第1クオーター、日大RB秋元が先制のTD=2020年11月1日、撮影:小座野容斉多聞:日大のRBは、3人も4人も上手くなったよね
岡本:フィジカルはちゃんと鍛え上げられているなと思ったのですが、一方でちょっと粗いなという印象も。どういうことかというと、そこまでち密にプレーをしなくても成立するという前提が、ランオフェンスには多分あるのではないかと思います。細かいことよりも、フィジカルを鍛えて、「これを、思い切りやれよ」という教え方をされているのではないかなと。一方でレシーバーは細かいところまできちんと詰めているな、気合を入れられているなという印象がありました。さらにレシーバーに、RBクラスの走力が仕込まれていると思います。
そのレシーバーに、林君からタッチボールのショートパスがきちんとつながるから。橋詰さんのオフェンスですから、昔の立命館とほぼ同じ感じですよね。宜本潤平(現富士通WR兼日大WRコーチ)がキャッチしたらあとは走ってくれるだろうと。
林君は突出した部分はないけれど堅実に成立させています。レシーバーは凄くしっかりしているなという印象です。
多聞:そこはフェニックスやからね
奥村:ディフェンスラインはやっていて、日大のOLに「やられた感」はあるの?
大塚:中央大OLコーチの大塚です。サイズのところで言ったら、日大とは、ある程度できたかなというのはあります。まあ、日大が本当に強い時の「これはどうしようもないな」という感じはなかったのですが。まあやっぱり、今季のフェニックスのスキルポジションは関東の学生の中では抜けているので
奥村:QB目線で知りたいのですが、林君はゾーンを見てやっていて、(ディフェンスが)BOXに人数を入れてきた時に、直ぐに外にピッとパスを投げるじゃないですか。Xリーグだと、皆ある程度は出来るけれど、学生レベルだとなかなかできないと思うのですが。
多聞:加藤さんはできるでしょう。
加藤:元LIXILのQB加藤です。引退して、今季から東大のオフェンスコーディネーターをしています。
林君は、1年生で甲子園ボウルに出ていた時よりも、そういう細かいテクニックの部分では上手になっていると思います。ただ、凄く上手くなったというよりは、1年生の時に既にある程度できていたけれども、ある意味大雑把というか、思い切りやっていて、それがかえって上手くはまっていたところがある。
今年の林君は、そういう大きいプレーは見せていないけれども、クイックリリースであったり、プレスナップリードであったり、細かい部分がより精度が高まっていると思います。ディフェンスからするとミスしないQBで、バックフィールドに人材がいる分、上手く周りを生かすクオーターバッキングというのは成長しているなと思います。
第4クオーター、日大WR林裕嗣にQB林大希(右後方)からのパスが決まる=2020年11月1日、撮影:小座野容斉奥村:日大は、オフェンスがプレーを重ねてもミスをしない。それは、林君がいることで本当にミスが少ないので。Xリーグだったら(ディフェンスも厳しいので)どこかで崩れるのでしょうけれど。
關:早大で今は新人担当コーチの關です。日大が本当に強かった時代というのは、オフェンスが縦のストレッチをすごく使っていたと思う。ロングパスを決めながら。
多聞:日大が強かった時ってQB須永(中央大ヘッドコーチ)の時でしょ。
關:いえいえ。決してそんな昔じゃなくても。ロングパスが、はまるという、日大の怖さが、今は消えている。でもその代わり、ランがガーンと出るのですが。ひょっとして林の肩の調子が悪いのではないか、ロングパスが投げられないのではないかという疑念が、私にはある。
多聞:あれはリーグ戦用のオフェンスだから、ロングパスをやらないのではないですか。僕はRBコーチを2チームでやっていましたが、ランを重視しないチームで、ロングパスばかりで。本当に最もRBコーチを必要としない、2チームでやっていました。(笑)
奥村:ちょっといいですか。
多聞:おっ、立教はこの間の中央戦で、試合の最後にドライブされて残り何秒かで中央大学にやられたけれど、その後ギューンと行ってFG決めて逆転で勝った。そういう凄い試合をしたから、パッシングゲームについてちょっと言いたいんやね。
奥村:僕の個人的感覚なのですが、立教に来る前はオービック・シーガルズにいて、去年から学生チームに来てディフェンスコーディネーターやって。ちょっとまだXリーグの感覚が残っているせいなのか。こんなにディフェンスで、ラン守備隊形が多いのかなと。スカウティングしながらも、自分の感覚の中ではちょっとこういうのはなかったので。シーガルズ時代に戦っていたのは富士通であり、ノジマ相模原ライズであり、LIXILであり、というのからすると。
それになんとか合わせながらやってきて。シーズン最後の中央さんだけは、やっぱりパスが多いなと思っていました。須永さんがオフェンスコーディネーター兼任なので、「これはライズのオフェンスが来るな」と率直に思っていました。
シーズンの(中央大の)試合を見ていても「ああ、まさに須永さんオフェンスやな」と。コロナ関係なしに、上位へ行くためには(昨年TOP8で3位だった)中央戦が大事だと思ったので、須永さんが就任した時から対策を練っていました。
でも、試合には勝ったのですが、ディフェンスはやられました。
岡本:東大も、同じことを考えたと。須永さんのオフェンスを研究するためにライズの試合のビデオを見たと森(清之ヘッドコーチ)さんが言ってましたね。
奥村:桜美林も同じです。桜美林はトミーさん(富永一オフェンスコーディネーター、前LIXILヘッドコーチ)が入って、オフェンスが変わってきたので。
(続く)