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2020-12-13

中谷正義、大逆転。ラスベガスで難敵をTKO

強烈な右パンチをベルデホに叩きつける中谷

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12日(日本時間13日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのMGMグランド特設会場で行われたWBOインターコンチネンタル・ライト級王座決定戦10回戦で、WBO14位の中谷正義(帝拳)が同12位のフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)を9ラウンド1分45秒TKOに下した。プロ人生初のダウンを2度も喫する崖っぷちから、2度倒し返しての大逆転。人生を変えるKOだった。

トップ戦線突入を渇望するふたりの対決

 いま最も熱い世界ライト級のトップ戦線参入をかけた注目の一戦。そのスポットを切実に欲するふたりの対戦である。

 プエルトリコの“ディアマンテ(ダイヤモンド)”ベルデホは、次期スターと嘱望された2016年夏にバイク事故、世界初挑戦を目前に不覚の初黒星を喫するなど、停滞を経てやっと軌道に戻ってきた。そして中谷は、OPBF東洋太平洋王座を11度防衛しながらチャンスを待ち続け、ついに昨年5月、ニューヨークでIBF次期挑戦者決定戦に臨んだ。いまや統一世界王者となったテオフィモ・ロペス(アメリカ)を相手に、眼か底骨折を負いながらのフルラウンド。若きKOアーティストを苦しめた。今回は、引退、移籍を経て1年5ヵ月ぶりの再起戦で世界戦線入りしようというビッグチャレンジである。ブランクの間もトレーニングは続けていたという中谷は、ファイトウィーク中、「ロペス戦で、海外では強く打たなければ勝てないことを学んだ」「5回でKOする」と、強い決意をアピール。そしてリングの上で、その言葉をみごとに証明してみせるのだ。

粘り強くペースを巻き取った中谷

 厳しい戦いだった。ベルデホが最初から積極的に出る。その参謀は、日本に縁が深いキューバ人、イスマエル・サラス・トレーナー。中谷にとってはアマ時代からの盟友、井岡一翔(現Ambition)の師でもある。そんな名匠と築いた戦略は、プエルトリカンにより自信を与えていたのだろう、5センチ長身の日本人に対し、左のロングで仕掛けていく。そして初回半ば、ワンツーで中谷のアゴをとらえ、痛烈なダウンを奪ってみせた。

 いきなりビハインドを負った中谷だが、ラウンドのおわりには立て直した。2ラウンドにはジャブでプレスをかけ、カウンターの左ボディを打ち、いささかも恐れずチャンスを狙いに行く。4ラウンドには右の相打ちでヒザが折れ、この日2度目のカウントを聞かされた。が、中谷の闘志は折れず、粘り強く立ち向かううちに流れを引き寄せる。7ラウンド、右ストレートをクリーンヒット。激しい打ち合いに持ち込むと、8ラウンドにもワンツーでベルデホを痛めつける。そして9ラウンド。“突き”のような左ジャブでプエルトリカンを吹っ飛ばし、ノックダウン。ロープ際で崩れ落ち、苦笑いを浮かべながら立ち上がったベルデホにダメージは明らかだった。中谷は右一発でライバルを再びフロアに落とし、レフェリーストップ。死闘にピリオドを打った。

引退からの復帰初戦。あまりに劇的な逆転勝ちだった

「テオフィモ・ロペスと再び戦い、KOを狙いたい」

 勝利者インタビューで、ピンチをいかに乗り越えたかを聞かれ、「ロペスともう一度戦いたい、その思い」と中谷は語った。「もう一度やれたら、今度は今日みたいにKOを狙っていきたい。それがアメリカで勝つ方法。これが自分のスタイルです」とも。ロペス戦での初黒星、引退から沈黙を破り、鮮烈な復活を遂げた中谷は、これで20戦19勝(13KO)1敗。笑顔で勝者を称えたベルデホは、29戦27勝(17KO)2敗。

 この秋、現役最強のひとりと言われた世界3階級制覇者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を判定で破り、実質の世界4団体統一王者となったロペスを筆頭に、WBC正規王者デビン・ヘイニー(アメリカ)、同暫定王座を争うライアン・ガルシア(アメリカ)、ルーク・キャンベル(イギリス)、WBA正規王者ジャーボンテ・デービス(アメリカ)ら、タレントひしめく世界のライト級戦線に、2021年、日本の中谷がいかに絡んでいくか、注目である。 

自在の技巧でサウスポー対決に楽勝したスティーブンソン(左)

大器スティーブンソンは完封勝ち

 この日のメインには、アメリカの次代を担うと期待される元WBO世界フェザー級チャンピオン、シャクール・スティーブンソンが登場。2階級制覇を目指し、現在WBOスーパーフェザー級1位にランクされるスティーブンソンは、元ホープのトカ・カーン・クレイリー(アメリカ)との10回戦をフルマーク(ジャッジ3者とも100対90)の判定で制した。

 5歳年上の元国内トップアマ、クレイリーとのサウスポー対決で、リオ五輪バンタム級銀メダリストのスティーブンソンは、ジャブの交換からフェイントを入れたコンビネーションで圧倒。あくまで危険は冒さず、勝利を確保した。同じトップランク社にスーパーフェザー級のターゲットがいる。WBO王者ジャメル・ヘリング(アメリカ)、ヘリングに挑戦予定の世界2階級制覇者カール・フランプトン(イギリス)、WBC王者ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)らだ。「まずはWBOのベルト。フランプトンとヘリングの勝者と戦う。それから、ベルチェルト」、そう2021年のプランを語ったスティーブンソンの戦績は15戦全勝8KO。クレイリーは32戦28勝(19KO)3敗1無効試合。

五輪2連覇のラミレス(左)がプロ6勝目をマーク


16連続ワンラウンドKO勝ちを決めたベルランガ

ベルランガは16連続ワンラウンドKO勝ち

 前座には、五輪2連覇のキューバ人、ロベイシー・ラミレスのプロ7戦目が組まれ、ブランドン・バルデス(コロンビア)を6回2分49秒TKOで退けた。バルデスの攻めを楽々とかわしながら細かいヒットを重ねていったサウスポーは、強い左アッパーでレフェリーストップを呼び込んだ。スティーブンソンのオリンピック金メダルの夢をリオで阻んだ宿敵は、コロナ禍があっても今年5戦をこなし、急ピッチでプロキャリアを積んでいる。戦績はこれで7戦6勝4KO1敗。

 日本の帝拳ジムと契約する軽量級のホープ、ジェシー・ロドリゲス(アメリカ)は、サウル・フアレス(メキシコ)を左アッパーで倒し、2回2分5秒KO勝ち。日本で寺地拳四朗(BMB)のWBCライトフライ級王座に挑戦し判定まで粘ったベテランに初KO負けを味わわせた。安定したスタンスからの小気味よい攻めが魅力の20歳。今回の勝利で5連続KO、戦績を13勝(9KO)に伸ばしている。フアレスは40戦25勝(13KO)13敗2分。

 また、オール初回KO勝ちで話題の強打者、エドガー・ベルランガ(アメリカ)は、ユリセス・シエラ(アメリカ)に初回2分40秒TKO勝ち。ジャブで圧力をかけた後、右4連発で最初のダウンを奪うと、さらに2度カウントを聞かせてストップした。「どの試合もフルラウンド戦う準備をしている」というものの今回も3分を要さず終わらせて、戦績は16戦全KOに。「もっと長く戦いたい。強い相手を求めている。2021年はビッグイヤーになる」という23歳のプエルトリコ系アメリカ人は現在、WBAスーパーミドル級6位、WBO8位につけている。 初KO負けだったシエラは19戦15勝(9KO)2敗2分。

文◎宮田有理子 写真◎ゲッティ イメージズ

ボクシング・マガジン 1月号

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