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2020-12-18

【箱根駅伝の一番星】東洋大学の巻き返しのカギを握る苦労人、蝦夷森章太は「本番で安定した力を出せる選手」

競技生活を通して苦難を乗り越えてきた蝦夷森。前回7区区間6位以上の走りでチームに貢献するつもりだ 写真/井出秀人

陸マガの箱根駅伝カウントダウン企画「箱根駅伝の一番星」は出場20校の注目選手を紹介。今回、巻き返しを図る前回10位の東洋大のカギを握るのは3年生の蝦夷森章太だ。今季は主力として頼れる存在に成長し、前回の成績(7区区間6位)を大きく上回る走りを見せてくれるはずだ。

支えてくれた人たちのために

 総合力で3位以内を目指す東洋大。酒井俊幸監督はキーマンに「全員」を挙げたが、なかでもムードメーカーとして盛り立てているのが3年生の蝦夷森章太だ。

 10月11日の競技会では、5000mで13分57秒99と自己記録を更新し、11月1日の全日本大学駅伝に向けてアピールした。しかし、翌日の練習で捻挫。愛知県出身の蝦夷森は、地元で行われる全日本に懸ける思いが強かったが、断念せざるを得なかった。

「順調にきていただけに、メンタル的にやられました」

 目標を失い、一時は練習に身が入らなかったという。しかし、酒井監督から「箱根では往路を走るくらいになってほしい。ケガを早く治さないといけない」と励まされ、気を引き締めた。

 仲間にも助けられた。走れなかった期間は、同学年の清水寛大マネジャーが献身的にマッサージをしてくれた。いつも通りのコミュニケーションを心がけてくれたことが、何よりうれしかったのだ。

 酒井監督やスタッフ、チームメイトの温かさに背中を押され、練習を再開。蝦夷森にとって今季唯一の大舞台である箱根駅伝で、支えてくれたすべての人への恩返しを誓う。

苦難を乗り越えてきた強さを箱根路で

 今春には新型コロナウィルスの感染拡大を受け、東洋大は部員全員が自宅待機という形で実家に帰り、自主練習を続けた。その間はオンラインで、学年ミーティングに加え、学年の垣根を越えた少人数のグループミーティングを実施。「主将の大森龍之介さん(4年)を中心に良いチームになってきましたし、自分たち3年生も横のつながりが深まりました」と蝦夷森が話すように、これまで以上に結束力が高まった。

 蝦夷森は愛知学院愛知高3年時の東海高校総体で、フィニッシュ直前で転倒して7位となり、あと一歩のところでインターハイ進出を逃した。東洋大は1、2、4年生のいずれもインターハイの5000mで決勝に進んだ選手がいるが、3年生には5000mに出場した選手すらいない。人数が少なく、高校の実績でも他の学年に劣っていた世代が地道に力をつけ、現在ではチームの屋台骨に。1年時から学年主任を務める蝦夷森も、故障で苦しんだ時期を乗り越えて這い上がってきた。

「今回は往路で勝負したい気持ちはあります。でも、復路にも主要区間がある。全日本で下級生が前半区間をしっかり走ってくれたので、箱根でも“後半に上級生がいるから安心できる、復路に蝦夷森がいるから大丈夫だ”と思ってもらえるような強さを備え、自信を持って臨みたいです」

 前回は7区で区間6位だったが、今回は勝負どころで快走が期待される。酒井監督は蝦夷森について、「本番で安定した力を出せる選手。どの区間でも走れる適応能力がある」と評しており、新戦力と絡めて起用区間を見極めるという。東洋大は前回10位で、初優勝した2009年から11年続いた3位以内が途切れた。

 伝統として受け継がれてきた “鉄紺”魂でいざ巻き返しへ、蝦夷森が切り札になるはずだ。
 
えぞもり・しょうた◎1999年9月18日、愛知県生まれ。168cm・56㎏、A型。古知野中→愛知学院愛知高(愛知)。自己ベストは5000m13分57秒99(2020年)、10000m29分46秒16(2018年)、ハーフ1時間03分56秒(2019年)。高校時代にインターハイの出場はないが、全国高校駅伝には高校1年時(2015年)に出場し5区区間9位、高校3年時には全国高校選抜大会10000m16位。前回の箱根では7区区間6位。蝦夷森にとっての箱根駅伝とは「夢の舞台」(箱根駅伝2021完全ガイドアンケートより)。

陸上競技マガジン 1月号

箱根駅伝2021完全ガイド(陸上競技マガジン1月号増刊)

文/石井安里

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