31日、東京・大田区総合体育館で行われたWBOアジアパシフィック・バンタム級タイトルマッチ12回戦は、挑戦者で元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(25歳=Ambition)が、王者ストロング小林佑樹(29歳=六島)を8回45秒KOで下し、王座を獲得するとともに、WBO、IBFランキングに入ることも確実とした。攻める覚悟はできていた 前回の自分を払拭する。比嘉の決意がはっきりと表れたスタートだった。
開始ゴングが鳴るやいなや小林を急襲し、左右を上下に4連打。比嘉を比嘉たらしめる野性を感じさせなかった前戦(10月、対堤聖也=角海老宝石)との違いをいきなり見せつけた。
これが2度目の防衛戦となる小林は、タフネスと粘り強さに定評のある選手。ビルドアップしているとはいえ、2階級下からきた比嘉は、やはり小さく見えた。小林は比嘉の攻撃をやりすごすと、大きなフレームを生かして、グイグイと圧力をかける。比嘉はこれを受け止めず、引きながらフェイントをまじえてのカウンターで迎え撃つ。ガードの上も敢えて叩き、上下左右に散りばめていった。
しかし小林は怯まない。ゆったりとしたテンポでにじり寄り、やはりゆるやかな連打。これを強打で止めようと、比嘉が力んだシーンも見られたが、この日の彼は冷静で、その後はいなし時と攻め時をしっかりと自身でコントロールしていた。
あのローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に憧れて習得した、ボディブローから上へのアッパーカットという左のコンビネーション。いまやすっかり比嘉の代名詞となったこの連打を随所に披露。そればかりか、下から上への左4連打など、躍動感あふれる攻撃も。骨盤を利かせるからこそ打てるブロー。しかし、堤戦では見せなかった得意の攻撃に、会場はざわめいた。
野性と理性がかみ合う必死に立ち上がろうとした小林だが、崩れ落ちた 2回にすでに見せていた、小林の死角からインサイドにえぐり込ませる右アッパーがキーになることは想像できた。丹念にサイドボディを攻め、アウトサイドからガードを叩き、中をこじ開けさせる。5回、この必殺のブローをダブルで見舞う。1発目でアゴをかち上げ、2発目でアゴの先端をやや横から捉える。それまで粘り強く戦ってきた小林も、たまらずドッとキャンバスに落ちて横転し、立ち上がれなかった。
コーナーポストによじ登って喜びを爆発させた比嘉は、「小林選手は打ち合ってくれるタイプなのでこういう結果になりました」と謙遜したが、KOアーティストらしい、しっかりとした道程を描いての倒し方だった。
最大の武器である攻撃力を生かした。おそらく小林は、しのいで後半勝負を狙ったのだろう。“強打を多く打たせて体力を削り、コツコツと当てて心のスタミナも削る”。そういう意図を見透かして、心をコントロールする場面もあった。野性と理性がうまく噛み合いつつある、比嘉の新たな姿を見た思いだ。
強くなりたい。ただその一心アスリートの心構えを語った比嘉 WBA10位、WBC15位の比嘉が、WBO14位、IBF9位の小林を倒したことで、主要4団体のバンタム級ランキングに入ることは必至。「この階級は強い人がいっぱいいるので、新たなスタートをできるよう、(野木丈司)トレーナーと頑張りたい」。
そして、「前回は、ボクシングに集中できていなかったが、今回は集中できた。どのスポーツもそうだけど、競技だけに集中しないと上へは行けない」と、アスリートの心構えを取り戻した。
1度頂点を極めた選手がふたたび山を登るには、心の作り方が難しい。生活が激変する。周囲の対応も変わる。いま世界チャンピオンでなくとも、同等の環境が与えられることも多くなる。
ただひたすらに強くなりたい。その想いがあるかどうか。言葉ではなく、パフォーマンスで比嘉は示した。
比嘉の戦績は19戦17勝(17KO)1敗1分。小林の戦績は25戦16勝(9KO)9敗。