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2021-02-05

【連載 名力士ライバル列伝】ライバル 曙-若乃花後編

名勝負を繰り広げた横綱3代若乃花(左)と横綱曙

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巨体を生かした激しい突き押しを武器に、外国人初の横綱に昇進した曙。師匠でもある大関貴ノ花の息子として弟・貴乃花とともに注目を浴び、
天才的な相撲勘と技で史上初の兄弟横綱を実現させた若乃花。
平成前期の土俵を熱くさせ大ブームを生んだ花形、
2人の勝負は常に火花散る熱闘だった。
※平成28~30年発行『名力士風雲録』連載「ライバル列伝」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

空前の相撲人気を盛り上げた黄金の同期生

平成相撲ブーム期が「曙貴時代」とも呼ばれるとおり、曙の好敵手といえば貴乃花の名が真っ先に挙がるが、兄・若乃花も、弟に劣らぬ名勝負の数々を曙と繰り広げてきた。21勝―21勝という「曙貴」同様、「曙若」もまた18勝―17勝と、幕内戦績は拮抗。まさに“もう一つのライバルストーリー”と呼ぶにふさわしいものだ。

平成5(1993)年名古屋場所の優勝決定巴戦で兄弟を蹴散らしたように、曙の強烈な突き押しがハマれば勝負はあっけない。しかし、若乃花が右を差して食い下がる体勢になれば面白い。ときには足を飛ばして相手の動きを止めたり、心理的動揺を呼んだり。そこで、曙の相撲が雑になったスキを突き、攻め立てるのだ。いずれかが圧倒したのは、曙が4連勝した平成4年くらいで、あとは勝ったり負けたり。互いにパワーと技巧を尽くした白熱の土俵で、大相撲の魅力をファンに示してくれた。平成10年夏場所14日目の対戦も印象深い。曙に激しく突き込まれた若乃花が、土俵際、絶妙のタイミングで巨体をイナし、自身は左足一本、俵の上で一回転してこらえた。大逆転の突き落としで、5回目の優勝と横綱の地位を手繰り寄せた一番だ。

しかし、その後は互いに休場が増え、「曙若対決」もこの年限り。12年春場所に若乃花が先に引退したときには、「自分の引退相撲の土俵入りでは若貴兄弟に太刀持ち、露払いをお願いしたい」という夢を持っていた曙は、大きなショックを受けたという。情が入らぬよう、現役時代はほとんど口を利くこともなかった両者だが、昭和63(1988)年春の初土俵同士、互いに抱く思いは特別だったことはいうまでもない。曙は“エリート”の若貴兄弟の存在を意識し、兄弟はハワイ出身の原石の急成長に、負けじ魂をたぎらせる。この激しい火花が、熱い相撲ブームの中心核となった。

『名力士風雲録』第11号曙・3代若乃花掲載

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