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2021-02-12

【連載 名力士ライバル列伝】武蔵丸-貴ノ浪前編 貴ノ浪にとって武蔵丸戦は、「いつでも特別な対戦」だった

互いに大関31場所目を迎えた平成11年春場所。勝てば念願の横綱に大きく近づく千秋楽相星決戦、勝負は武蔵丸の圧勝に終わったが、綱を狙う二人は輝きに満ちていた

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強烈な突き押し、右四つでの寄りを武器に、曙に続く二人目の外国出身横綱に昇進した武蔵丸。
懐の深さで抜群の素質を生かした「規格外」の相撲で、二子山全盛期の名大関として名を馳せた貴ノ浪。58回の幕内直接対戦で大ブーム期の土俵を盛り上げた二人のライバルの軌跡を追う。
※平成28~30年発行『名力士風雲録』連載「ライバル列伝」を一部編集。
毎週金曜日に公開します。

番付は変われどいつでも特別な対戦
 
対戦回数58。平成28(2016)年春場所9日目、琴奨菊―稀勢の里が59回目の対戦を迎えるまで、武蔵丸―貴ノ浪戦は史上最多の対戦カードだった。

年齢も、入幕も、大関昇進も同じ両者の幕内初対決は、新入幕の平成3年九州場所12日目。3敗で並ぶ両者の激突は、武蔵丸が長身の貴ノ浪を吊り出して制した。突き押し主体の武蔵丸に吊り出された屈辱に、貴ノ浪は武蔵丸を強く意識するようになる。

新入幕から3場所連続して顔が合い、その後貴ノ浪の番付が上下した関係で1年ほど空いたが、平成5年春場所からは、貴ノ浪が途中休場した11年秋場所まで連続39場所の対戦があった。二人が皆勤した場所で合わなかったのは、貴ノ浪が前頭二ケタに下がった13年九州場所だけで、14年春場所には、北の富士―清國の52を抜いてトップに立ち、最終的にまで伸ばした。

「武蔵丸は自分の中で一番強いと認めている存在。毎場所、武蔵丸とやりたくて頑張っているようなもの」

貴ノ浪にとって武蔵丸戦は、「いつでも特別な対戦」だった。

明暗分けた浪速の大関相星決戦

平成6年初場所後、二人は同時に大関に昇進する。大関同士の初戦では貴ノ浪の押し出しに軍配が挙がったものの、翌夏場所から平成7年秋場所までは9連敗。肝機能障害を患い低迷の時期だった。

捲土重来を期した貴ノ浪は、平成7年九州場所、がっぷり左四つから上手投げで一矢報いると、8年九州場所からは8連勝と反撃。過去の連敗の悔しさを晴らすため、負けた相撲を徹底的にビデオで研究、クセや弱点もすべて頭にたたき込み、武蔵丸の右を封じる作戦を編み出したのだ。

カモにされた武蔵丸もまた「打倒貴ノ浪」に燃えた。互いが先に横綱に昇進するのを阻むかのように、毎場所火花を散らした。

しかし、平成11年春場所、大きな転換点を迎える。3横綱1大関不在の“荒れる春”に、大関の責務を果たした二人は、千秋楽に相星で激突。優勝を懸けた大一番は、武蔵丸の圧勝だった。敗れた貴ノ浪は、

「この借りは来場所だけじゃなく、ずっと返していく」

とこれ以上ない屈辱に吠えたが、翌夏場所、武蔵丸は連覇を果たし、横綱に昇進。負けじと次の綱の座を狙った貴ノ浪だったが、同年九州場所で負け越すと大関を陥落、1場所で復帰したが再び陥落すると、二度と戻ることはなかった。だが平幕に落ちても、武蔵丸への意地だけは変わらなかった。(続く)

『名力士風雲録』第13号武蔵丸・貴ノ浪掲載

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