空前絶後、1つの部屋に1横綱3大関が同時期に並び立つ壮観を実現させた武蔵川部屋。
その武蔵川3大関と、横綱貴乃花、若乃花、大関貴ノ浪の「二子山上位陣」との対決を中心に、
20世紀末~21世紀初頭の土俵を沸かせた「二子山」vs.「武蔵川」の対決構造を浮かび上がらせたい。
※平成28~30年発行『名力士風雲録』連載「ライバル列伝」を一部編集。毎週金曜日に公開します。
出島―二子山上位陣新横綱、新大関へ兄弟弟子のアシスト兄弟子・武双山の発奮材料となったのが、平成11(2009)年名古屋場所で先に優勝と大関昇進を遂げる出島の存在だ。対二子山上位陣の戦績は通算25勝27敗と健闘しているが、それは特に貴ノ浪相手に19勝9敗と大きく勝ち越しているのが大きい(対貴乃花4勝13敗、若乃花2勝5敗)。
飛躍の契機をつかんだのも、この分が良い貴ノ浪との一戦だった。平成9年秋場所初日、モロ差しからガムシャラに前へ出て貴ノ浪に初勝利。これで勢いづくと、3日目には初めて経験する結びの一番で貴乃花を一直線に寄り倒した。「結びで取るだけでも夢だったのに……」と出島。9日目には曙も倒して2金星。殊勲・技能のダブル受賞で、ついに幕内上位の壁を打ち破ったのだ。
翌九州場所で負った左足首の大ケガを乗り越え、自慢の出足相撲に磨きをかけた出島は、平成10年名古屋場所でも若乃花と曙を倒して2金星。11年夏場所では、武蔵丸とともに優勝を争い、兄弟子を刺激して連覇と横綱昇進へアシストした。
そして、逆に出島が主役となったのが翌名古屋場所だった。初日の貴闘力戦から「出る出る出島」で二子山勢を吹き飛ばし、圧巻は9日目の貴乃花戦。「いつも以上の、最高の立ち合いができた」と、3秒足らずで押し倒す会心の勝利。横綱も「強かったなあ。(相手が)横綱みたいだよ。強かったとしか言いようがないよ」と、珍しく苦笑いしたほどだ。そんな弟弟子に今度は新横綱が“恩返し”をする番だ。千秋楽、武蔵丸は曙に勝って優勝決定戦のチャンスを作り、出島は見事、それを生かして初優勝と大関昇進を手中にしたのだった。
『名力士風雲録』第14号武双山・出島・雅山掲載