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2021-03-20

【第93回センバツ出場校の指導法】健大高崎 Part3 思い切りの良いスイングを獲得するための段階的指導

森川倫太郎の迫力あるスイング

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 健大高崎で、新3年生に下級生のころから打撃指導を行ってきた赤堀佳敬コーチによる段階的指導を紹介する。


赤堀佳敬〈健大高崎高コーチ〉
あかほり・よしのり/1993年4月1日生まれ。静岡県出身。伊豆中央高-中京大。磐田南高副部長、盛岡大付高副部長を経て、2019年より健大高崎高コーチを務める。保健体育科教論。

 新3年生とは入学時から昨年の甲子園交流試合が終わるまで、バッティングを中心とした取り組みを一緒に行ってきました。基本的には盛岡大付(岩手)のコーチ時代に関口清治監督に教わったことがベースです。ルーツをたどれば現在、明秀日立(茨城)を指導する金澤成奉監督の理論に基づいて指導しています。

「飛距離を伸ばす」「強い打球を打つ」というチームで掲げる打撃の目的のためには三振を恐れず力強いスイングをすることが前提となります。そのため、1年生時の試合では結果にはこだわりつつも、スイングの技術的なポイントを押さえた上で、自分のタイミングでフルスイングすることを優先順位のトップ事項としていました。もちろん、三振もフライアウトもOK です。

 また、その中では全球打ちにいくことを求めました。投手に同調しながらも打者主動で仕掛ける感覚を持ち、すべての球を打ちにいきながらボール球を見逃します。球速140キロとすれば、投手のリリースから捕手に到達するまでの時間は0.4秒程度であり、打者の振り出しからインパクトまでは速くて0.2秒ほどと言われます。コンマ数秒の勝負で、3割成功すれば評価される打撃において、タイミングは非常に重要ですから、打席では1球たりとも疎かにはできないと考えています。

「低めを振らない」ことも打撃で大事にしているテーマです。全球打ちにいくことを指示しているので、ほとんどの選手がバットが止まらずそのまま手を出してしまいますが、ただそれは失敗ではなく、できるようになるために絶対に必要な過程です。このとき、低めを見逃し三振することはOKとし、低めにバットが止まるようになったことを成長ととらえるようにします。そうした線引きをするのは、低めを振ったことも、見逃したこともとがめていると、選手は手詰まりになってしまうからです。そうして2年生になるころには、打ちにいく中で低めのボールに対してはバットが止まるようになってきました。


理想とするバッティングをするために必要なタイミング、割れ、スイング軌道、ラインの入り方、インパクトの位置、目付け、低めへの対応などを確認するための近距離バッティング。バッティングピッチャーとキャッチャーの役割も重要になる

 このような姿勢を身につけるために、練習では投本間を10~12メートルに設定した「近距離バッティング」を主に用います。その中で低めへの対応力を上げるた
め、バッティングピッチャーはストレートと低めの変化球を50:50で配球するようにします。バッティングピッチャーは打者を本気で抑えにいき、打者はその球をフルスイングでとらえにいく中で低めの球にはバットを止める。それが打者の成長につながります。

 近距離からの速球にフルスイングで対応するためには、インパクトを体の中に置くほうが投球を長く見ることができますし、そのポイントで打つためにタイミングをしっかりと取って、早い段階でバットを投球のラインに入れることが必要になります。近距離バッティングは、チームで掲げる打撃を獲得するために欠かせないメニューです。

 このとき、バッティングピッチャーも漠然と投げるのではなく、バッターのタイミングや“間”の取り方を感じることが自分のバッティングにつながりますし、キャッチャーはバッターが見逃したときにバットが投球のラインにしっかり入っていたかどうかやタイミングについてチェック項目を設けて打者にフィードバックするようにします。打者の育成にはバッティングピッチャーやキャッチャーの役割もカギを握ります。

 そして、近距離から投じられる速い球に対応するにあたっては目付けも大切になります。重要なのは低めのストレートの軌道に目付けをして、そこの軌道から下にくるボールや同じ軌道でもスピード差のあるボールに対してバットを止める感覚を養うことです。それと同時に、高めのボールに対しては確実に反応して手を出せるようにしていきます。低めの変化球に手が止まるようになると、カウントが有利になります。そうした中で浮いてきた球は確実にとらえていくことが好投手攻略のポイントです。

 カウントはつくられるのではなく、自分たちでつくるものだという認識で、そうした打席での姿勢に加えて、ランナーとの共同作業やベンチワークで、自分たちで攻めやすいカウントをつくっていく。昨秋も高めの失投を見逃さなかったことが勝利の一因だったと感じています。好投手になるほど失投は少なくなりますが、それをミスショットしていては勝機を手にできません。そのため、普段のスイングから高めを意識して振るようにしています。


     打撃基礎トレーニング2    
メディシンボールトレーニング[軸&割れ]
 メディシンボールを両手で保持し、補助者にフリーフットを支えられながら、軸を保ちつつ割れをつくり出すトレーニング。 軸脚を強く踏み込みながらフリーフットは空中を強くけることで軸を立たせることができる。上体はトップをつくるように下半身とは逆方向にひねる。体重を補助者に預けることなく、軸をしっかり保って行い、下半身と上半身の距離を大きくすることがポイント。

 技術的な面で補足すると、バッティングでは「割れ」をつくることが重要です。弓道で例えるなら弓を左右均等に引き分けた後の「会」の状態で、ステップ足が狙いを定めた押し手、グリップが引き手です。この距離を十分に取るようにします。それは体の中でとらえるインパクトまでの距離を確保するためです。そうすることで、低めに変化する球にバットが止まりやすくもなります。そのため、速い球に対応しようとするほど、トップはなるべく深く取る意識が必要です。また、それによってスイングの加速距離が延びる分、泳がされても芯でとらえれば飛距離が出ます。 

 さらにインパクトに向けてヘッドが走る感覚を得るために「バットのしなり」を利かせたスイングを目指します。バットをしなるように振るには、基本的には手首(橈骨茎状突起=前腕の親指側の骨の手首部の付け根)を支点とした「てこの原理」を用いて、インパクトからフォローにかけてグリップエンドが自分のヘソを向くように振り抜きます。このときに手首が早く返り過ぎて振り幅が小さくならないようにすることが大事になります。

 また、並進運動からステップにかけては、ステップ脚の股関節を内旋から外旋するように使います。内旋しながら並進することによって、割れの状態を確実につくるとともに、外旋してステップすることでバットを振るスペースを確保するわけです。ステップ脚を内旋したままステップを着くと、振るスペースが窮屈になって、逆に開きが早くなります。

 ただ、こうした技術も矯正はするけど強制はしない。選手がどのような指導を受けてきたか、スカウティングに行く中で、中学時代の指導者に話を聞き、理解した上で選手とかかわるようにしています。一人ひとりの可能性をつぶさないように、さらに将来性豊かな選手になってもらいたいので、中学までに取り組んできたことを頭ごなしに否定することはしません。その上で、本校で打撃の基本と考えていることを理解し、それまでに培ってきたものとミックスさせて、新しい自分の形をつくり出してもらいたいと思って指導にあたっています。

Part1はこちらから
Part2はこちらから

【ベースボールクリニック2021年3月号掲載】

写真◎BBM

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