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2021-04-30

【陸上】「魂の走り」と「クレバーな判断」で――伊藤達彦(Honda)が挑む東京五輪代表

相澤に続き東京五輪10000m代表入りを狙う伊藤 写真/中野英聡(陸上競技マガジン)

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5月3日、静岡県・小笠山総合運動公園静岡スタジアム(エコパ)で行われる東京五輪代表選考会の第105回日本選手権10000m。男子の注目選手は、伊藤達彦(Honda)だ。

 昨年12月に行われた前回大会では最後に相澤晃(旭化成)に競り負け2位に終わったものの、それまでの日本記録を上回る27分25秒73。今回のエントリー選手のなかでただひとり、東京五輪参加標準記録(27分28秒00)を上回っており、今、代表の座に最も近い存在である。今大会で3位以内に入れば内定となる(内定条件は下記参照)。

「最後は相澤君に負けましたが、ハイペースで進んだレースでも後半に勝負ができたことは自信になりました。今回は最後までもっと余裕を残せるような走りをするつもりです」

 12月のレースは激闘と呼ぶにふさわしかった。日本記録を上回るハイペースで終盤まで進み、残り2000mを前にして相澤との一騎打ちに。大学時代からハーフマラソン、駅伝でしのぎを削ってきた両者は、そこからさらにペースを上げ、抜きつ抜かれつの争いを繰り広げた。最後は相澤に軍配が上がったが、それは魂をぶつけ合うような走りだった。

「相澤君の後ろについてラスト勝負まで持ち込むという考えはありませんでした。実際、自分が前に出れば引き離せると思っていましたので」

 ただ激闘の代償も大きかった。その後、調子を落とし、1月1日の全日本実業団駅伝で疲労骨折を発症。年明けは走れない時期が続いた。復帰戦は4月10日の金栗記念5000m。だがここで目標タイム通りの13分45秒12で走り、以後もいいイメージを持って準備を進めてきている。

「楽観視はしていませんが、休んでいた間に取り組んできた体幹強化が走りに出せています。標準記録を突破していて精神的なゆとりはありますので、攻めの走りだけでなく、考えたレース運びをして確実に上位に入って欲しいと思っています」とHondaの小川智監督も期待を寄せる。

 前回大会、相澤、伊藤と並び前日本記録を上回り3位となった田村和希(住友電工)がケガによる欠場。前回大会4位の河合代二(トーエネック)ら好選手もそろっているが、伊藤にとっては自分自身との戦いの要素が強くなる。

「やはり優勝を狙いたいと思っています」

 まず求められるのは確実に3位以内に入ることだが、勝って決めたいというのが伊藤の本心だ。魂の走りに今回はクレバーな判断も加え、日の丸を取りにいく。

◆今大会における男子10000m日本代表内定条件
今大会で3位入賞以上の成績を収め、今大会終了時点までに東京五輪参加標準記録(参加標準)を突破した競技者が即内定となる。現時点で、男子10000mの東京五輪日本代表には相澤晃(旭化成)が内定済みで残り最大2枠。今大会のエントリー選手で参加標準を突破しているのは伊藤達彦(Honda)のみのため、伊藤がタイムに関係なく優勝、もしくは2位となれば即内定となる。今大会で2名以上の選手が新たに参加標準を突破した場合は、今大会の順位が選考の優先項目となる。


Profile◎いとう・たつひこ/1998年3月23日、静岡県生まれ。浜松北部中―浜松商高(静岡)-東京国際大―Honda。170cm・52kg。高校時代は全国トップレベルの選手ではなかったが、大学入学後にステップアップ。4年時の箱根駅伝では各校のエースが集う2区で区間2位に入り、東京国際大史上最高順位となる総合5位に大きく貢献した。2020年4月にHonda入社後も成長を続けている。自己ベストは5000m13分33秒97、10000m27分25秒37(日本歴代2位)、ハーフマラソン1時間01分52。

文/加藤康博

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