カナダのプロフットボールCFLは、米国の新興プロフットボールリーグXFLとの提携を、事実上取り止めることを決めた。現地7月7日に声明文を出し、「現時点ではいかなる正式な取り決めも求めない」ことで双方が合意したと発表した。
CFLは今季の実施が確定し、開幕は2カ月弱遅れたものの、7月10日からは9球団がキャンプインする状況。他リーグと提携への動機付けは薄れていた。
CFLが発表した声明は次の通り。
「我々とXFLとの協議では、コラボレーションとイノベーションの可能性を探り、前向きで建設的な話し合いを行った。
我々は、将来的には、一緒に仕事をするための新しい道筋を見つけることに前向きだが、私たちとXFLの関係者は、現時点ではいかなる正式な取り決めも求めないことで合意した。
私たちCFLは、8月5日から始まる2021年のレギュラーシーズンの準備に全力を注いでいる。このレギュラーシーズンは、12月12日にオンタリオ州ハミルトンで開催される第108回グレイカップで幕を閉じる。
私たちは今年、そしてリーグの明るい未来を楽しみにしている」
XFLも、同日、提携の取りやめと、2023年のリーグ再始動という予定を発表した。
XFLは声明で、
「CFLとの協議は、最終的にコラボレーションには至らなかったが、この取り組みは、国際的なスプリングフットボールのためにXFLを発展させるという私たちの信念とコミットメントを強化するものだった。2023年春のキックオフに皆さんとお会いできることを楽しみにしている」と、述べた。
=photo by Getty Images CFLとXFLは、今年3月10日に、新型コロナウィルス感染症のパンデミックからの競技再開を模索する中で、提携の可能性について本格的に協議すると発表していた。
両リーグは、昨年は共に新型コロナの影響を直接被った。CFLは、2020年シーズンを最終的に中止に追い込まれた。XFLは、事実上の新リーグとして、2020年2月にスタートしながら、5週まで試合を行ったところで中止した。XFLは破産手続きに入った後、人気プロレスラーで、ハリウッド俳優としても活動している「ザ・ロック」ことドウェイン・ジョンソンさんらを含む米の投資家グループに、昨年8月に1500万ドルで買収された。
XFLを買収した、「ザ・ロック」ことドウェイン・ジョンソンさん=photo by Getty Images 二つのリーグの提携へ向けた発表は、特にカナダで反響を呼んだ。具体的にはCFLがカナディアンフットボールをあきらめてXFLと統合し、同じアメフトのルールで戦う新リーグ発足に向かうのではないかという憶測だ。
CFLとXFLが合併して新たなリーグを作り、今年6月にスタートした欧州の新プロリーグEFLも加えると、全世界で横断的なプロフットボールのリーグができるという大胆な想像もあった。
ランディ・アンブロージーCFLコミッショナーは、こういった推測がカナダ国内のファンの懸念を生んでいることも踏まえ、協議は主に資金面でのもので、ルールやフィールドの大きさなどについては話し合っていないと表明していた。
【解説】「スプリングフットボール」を巡る世界的な構想は仕切り直し
ランディ・アンブロージーCFLコミッショナー=撮影:小座野容斉
NFL以外の海外プロリーグを巻き込んだ大きな動きになるのではないかという予想もあった、CFLとXFLの提携に向けた協議は、何も生み出さずに、いったん終止符を打つことになった。
こういった予想や憶測は、米国を中心に根強く存在する、スプリング(春季)フットボールリーグに対する期待感の裏返しと見てよい。
NFLやカレッジフットボールのオフシーズンである春から夏にフットボールを開催するという考えは、シーズンスポーツ制のアメリカでは、ある意味禁じ手ともいえる。しかし、最も高い人気を誇りながら、カレッジは3カ月半、NFLでも4カ月で公式戦を終えてしまうフットボールを、もっと他の季節に見たい人は多いはずだいう考えは、この数十年ずっと存在してきた。
スプリングリーグへの期待は、今から40年近く前に新興プロリーグのUSFL(United States Football League)が掘り起こした側面がある。USFLは、1983年に12チームでリーグ戦を開始、最盛期は18チームで、1985年まで3シーズン続いた。3月開幕、7月に優勝戦という日程は、NFLとは全くかぶっていなかった。観客動員やテレビ視聴率は、当初予想を上回ったという。
その後、当時のニュージャージー・ジェネラルズオーナーだった前大統領、ドナルド・トランプ氏が主導して、秋シーズン開催への移行を目指し、NFLを独占禁止法で提訴した。USFLは連邦最高裁で訴訟には勝ったが、NFLの賠償命令額はわずか1ドルだったため、USFLは崩壊する。トランプ氏の狙いは、訴訟で勝利して、NFLとの交渉に持ち込み、最終的にはUSFLのチームをNFLに吸収合併させることだったと言われている。
トランプ氏の強引な手法に引きずられて破綻したUSFLだが、経営分析の専門家の多くは、春シーズンのフットボールとして年々定着してきており、無謀な秋への移行を考えなければ、プロスポーツリーグとしてその後も存続し、成功する道筋を辿っていっただろうと予測していた。
一方の当事者だったNFLも、スプリングリーグ成功の可能性を感じていたようだ。1990年代に、欧州地域でのアメフト普及と、実質的なファームとしての側面も持たせた「ワールドリーグ・オブ・アメリカンフットボール(WLAF)」をスタートさせた。WLAFは3月開幕、6月に優勝戦という日程の典型的スプリングリーグだった。1998年からはNFLヨーロッパと改組され2007年まで存続する。
過去数年では、プロ育成リーグとしてスタートし、毎年何らかのリーグ戦を開催しているTSL(The Springfootball League )、2019年2月に開幕し、第8週まで試合を開催しながら経営破綻したAAF(Alliance of American Football)、そして、2020年のXFLと、スプリングフットボールに向けた動きが続いてきた。そして今年は、欧州で新しいプロリーグELFが6月に開幕している。
プロではないが、新型コロナの影響で、カレッジフットボールのFCS(チャンピオンシップ・サブディビジョン)も、昨秋のシーズンを、この春に延期して開催した。米国では、この数年は、何らかの形で、春にもフットボールが開催されているという状況だ。
CFLは、そういったスプリングフットボールの世界的な枠組みの中に取り込まれる可能性もあるとみられていた。昨年のシーズン中止によって、最大で8000万ドルに及ぶという巨額の損失となったCFLは、今季中止となった場合、リーグ存続自体を懸念されていたからだ。
しかし、CFLは、実質ラグビー競技だった時代も含めれば、NFLより長い歴史を持ち、王座決定戦グレイカップも、今年で108回と、スーパーボウルのほぼ倍の開催回数を誇っている。12人制、3ダウン制、大きく広いフィールドなど競技としての独自性に強い誇りを持って来た。
XFLとの提携は、新型コロナウィルス感染症の影響で、2年連続開催が不可能となる最悪の事態となった時の逃げ道というかオプションの一つに過ぎなかったのではないだろうか。
XFLは来季の再開を断念し、2023年の再始動を模索している。今後は、「USFL」の権利を入手して、リーグのバージョンアップをもくろんでいるTSLとの協調体制へ進む可能性もありそうだ。