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2021-07-25

【Tokyo2020 ボクシング】展望:女子フライ級 並木月海の黄金色の道は、決して夢物語ではない

並木(左)の飛翔感あふれる動きは多いな栄光を予感させる

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 もし、日本が金メダルにまで届くとしたら、この選手にもっとも期待したくなる。並木月海(自衛隊)のボクシングは、それほどに魅力がある。ライバルは多い。才能あふれる技巧派もいれば、経験豊かなベテランも。それでも、月に棲むウサギのように軽快に舞い飛ぶ小柄なファイターの可能性を信じたくなる。

女子フライ級(51キロ級)

シード選手
1 ブセナズ・チャキロウル(トルコ)
2 常園(中国)
3 黄シャオウェン(台湾)
4 イングリト・バレンシア(コロンビア)

日本代表
並木月海(自衛隊)

 そのボクシングはとても能動的である。身長153センチのサウスポーは前後へ、左右へと大きく動き続ける。そして、機を見て果敢に飛び込むと、左右の大きなパンチを狙っていく。インサイドからショートパンチで小突きまくることもある。ただ、果敢はいいが、体ごと飛び込む戦法がプッシングにとられることはないか。大きく描くサークリングがエスケープと勘違いされはしまいか。そんなよけいな心配をしてしまうのは、ひとえに期待の大きさゆえである。その俊敏さ、ステップの軽々とした足取り、パンチを当てる感覚は世界のトプレベルにあると信じている。プロボクサー転向を表明している無敵のキックボクサー、那須川天心とは昔、空手で競い合った幼馴染。そんな話題性も伴って、五輪の成績次第ではスター誕生の予感もあるのだ。

 だから、金メダル獲得をと言っても、簡単なことではない。長い歴史を持つ我が国のアマチュアボクシング界が、手にできたのはたった2つに過ぎない。並木の場合も、その周辺はライバルだらけだ。
アジアのライバル、常園(チャン・ユアン)は少女時代から世界のトップとして戦ってきた
アジアのライバル、常園(チャン・ユアン)は少女時代から世界のトップとして戦ってきた

 身近なアジア圏からはアジア予選決勝で敗れている常園(チャン・ユアン)。並木と同じく元気のいいボクシングで迫ってくる。そして、黄シャオウェンは長身から軽快にパンチをつなげる。スピードやパワーに欠けるが、センスは高い。
チャキロウルは巧みなカウンターパンチでヨーロッパ予選を制した
チャキロウルは巧みなカウンターパンチでヨーロッパ予選を制した

 ヨーロッパ勢も脅威だ。とりわけ、ブセナズ・チャキロウルはサウスポーで細かい技術にも秀でる。対戦者をおびき寄せて打ち込むカウンターの妙味は目を引く。チャーリー・デービソン(イギリス)も左構え。長身の攻撃型で、27歳にして三児の母親でもある。二十代前半は出産と育児のためにリングから離れたが、少女時代からの長いキャリアを持っている。
インドの英雄メアリー・コムは2018年、8年ぶりに世界選手権を制している
インドの英雄メアリー・コムは2018年、8年ぶりに世界選手権を制している

 ただ、並木も当然、まずは目先の戦いから考えているはずだ。銅メダル以上をかけた戦いにたどり着くのは3試合目。そこで勝たなければいけないのはサウスポーのパワーパンチャー、イングリト・バレンシアか、それともたぶん、メアリー・コム(インド)。コムも2度の出産を経て、38歳にして戦いの火を抑えることができない。世界選手権6度優勝、ロンドン五輪銅メダル獲得の経験は侮れない。昨年、その半生が映画化されるなどインドのヒーローで、そのプライドも掲げての9年ぶり五輪登場だ。まずはここから切り崩したい。そのあとの準決勝で待っているのが常園、もしくはアメリカのベテラン、バージニア・フクス。そのあたりが最初の山になる。

文◎宮崎正博 写真◎ゲッティ イメージズ、善理俊哉 Photos by Getty Images, Shunya Seri

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