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2021-09-26

【ボクシング】アンソニー・ジョシュアが陥落。ヘビー級ボクシングに激震

ウシク(右)のハイテンポなアウトボクシングが光る。ジョシュアは最後まで後手を踏み続けた

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 WBAスーパー・IBF・WBOと世界ヘビー級のベルトが3つもかかったタイトルマッチ12回戦が、25日(日本時間26日)、イギリス・ロンドンのトッテナム・ホットスパースタジアムで行われ、挑戦者の元クルーザー級統一王者オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)が不利の予想を覆し、チャンピオンのアンソニー・ジョシュア(イギリス)を3-0判定で下した。ジョシュアはアンディ・ルイス(アメリカ)から獲り返した王座の2度目の防衛に失敗している。また、WBCチャンピオン、タイソン・フューリーとのイギリス人同士によるヘビー級4団体統一戦の構想も当面はなくなった。

 “素晴らしい”、いや、“偉大な”とさらに彩色した評価を届けてもいいと思う。ウシクの見事なパフォーマンスだった。90.7キロがリミットのクルーザー級から体重無制限のヘビー級に転向して3年。34歳にして100.4キロの立派な体を作り上げた。パンデミックのさなか、試合開催が実現するかどうかもわからないなか、1月からキャンプに入り、戦いの準備を整えてきた成果を存分に発揮した。ジョシュアへの応援一色に染められた満員6万6637観客の前で、鍛え上げた体力、スタミナ、そして自慢のテクニックとスピードで、9年前の五輪チャンピオン同士の対決を、ほぼ思いどおりにコントロールしていく(ロンドン大会でジョシュアがスーパーヘビー級、ウシクはヘビー級でそれぞれ優勝)。今回との戦いを目前にしても、10月にデオンテイ・ワイルダー(アメリカ)との決着戦を控えるフューリーとの統一戦ばかりが世間は盛り上がったが、ファンの期待感が台なしになったとしても、この日のウシクの出来が失望感を薄めてくれたと思う。

 戦前の予想が3対1でジョシュア有利となったのは仕方ない。フルスケールのヘビー級であるジョシュアとの身長で7センチ(ジョシュアは198センチ)、体重で8キロ以上の体格差はいくら鍛錬を重ねても埋めきれるはずもない。しかも、3団体統一チャンピオンはスピーディーな攻防に切れ味鋭いパンチもある上質のボクサーパンチャーだ。

 しかし、ウシクは立ち上がりから主導権を奪い取る。やや待ちの姿勢でスタートを切ったチャンピオンに、速いサイドのステップに乗せたサウスポースタンスにさらに上体の動きで変化を加え、スキを見てはシャープな左ストレートで切り込んだ。3ラウンドにはその左でジョシュアの足もとを揺らし、快調にポイントをピックアップしていった。

 4ラウンド、ジョシュアも遅まきながら圧力を強めていくが、鋭く反応するチャレンジャー相手になかなか波に乗れなかった。さらに、うまく当てようという意識が強すぎたのか、やや後ろ体重のままでパンチを繰り出して、いつものスムーズなワンツー、コンビネーションとパンチはつながっていかなかった。右ストレートを2発、3発とヒットした6ラウンド、右ショートストレート、アッパーカットをボディに打ち込んだ8ラウンド以外は、中盤から右のジャブ、フックで攻撃の幅を広げ始めたウクライナ人が得点差を押し広げていった。

 ジョシュアの右目が腫れ、ウシクが右眉の付け根から出血する激しい10ラウンドを越えると、流れはさらに挑戦者へと大きく傾く。ジョシュアには疲れの色が見えた。ウシクは速いテンポの攻防をキープしたままだ。11ラウンド、鋭い上下攻撃を浴びて反応がさらに鈍ったジョシュアは、12ラウンドも厳しい展開が続く。ことにラスト20秒を切ったあたりから、ウシクの長いコンビネーションブローに追い立てられ、ロープを背にあわやダウンというピンチも招いた。

まさしく感無量。10キロ、体重を上げても、ウシクの緻密さは失われなかった
疲労困憊の敗者はなかなかコーナー椅子を立ち上がれない
疲労困憊の敗者はなかなかコーナー椅子を立ち上がれない

 試合終了後もダメージと疲労にあえぐジョシュアはコーナーに座り込んだまま、肩で息をし続ける。苦しげなその表情が、勝負の結末を表していた。判定は117対112、115対113、116対112で3ジャッジともウシクの勝ちとしていた。勝利のコールの後、新たな2階級制覇王者はリング中央にひざまず、胸で十字を2度切った。

「(ジョシュアの)パンチは強かったが、スペシャルではなかった。作戦どおりに戦えた。最初は倒そうと思っていたんだが、セコンドから“自分の仕事をしろ”と言われて、 作戦を思い出すことができたんだ」

 と語ったウシクは19戦全勝(13KO)。ジョシュアは26戦24勝(22KO)2敗。上質な試合内容に、直後から再戦の話が持ち上がっている。
WBOクルーザー級戦ではオコリーがKO勝ちであっさりと初防衛に成功した
WBOクルーザー級戦ではオコリーがKO勝ちであっさりと初防衛に成功した

 セミファイナルで行われたWBO世界クルーザー級タイトルマッチ12回戦は、チャンピオンのローレンス・オコリー(イギリス)が挑戦者ディラン・プラソビッチ(ポーランド)を3回1分57秒KOで破り、初防衛に成功している。

 オコリーが16戦全勝13KO、プラソビッチも15戦全勝12KOと不敗同士の対戦だったが、実力差は歴然だった。2ラウンドに右をテンプルに当ててダウンを奪っているオコリーが、逃げる挑戦者を追いかけて打ち込んだ左ボディブローでフィニッシュした。

 また、カネロ・アルバレス(メキシコ)に完敗を喫した前WBAスーパー世界スーパーミドル級チャンピオン、カラム・スミス(イギリス)のライトヘビー級転向第1戦となる10回戦は、スミスがレニン・カスティーヨ(ドミニカ共和国)に2回KO勝ちを収めた。右の一撃、どっと倒れたカスティーヨの両足がけいれんしているのを見て、レフェリーが即座に試合を止めた。

文◎宮崎正博(DAZN観戦) 写真◎ゲッティ イメージズ Photos by Getty Images

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