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2021-10-20

【ボクシング】平岡アンディが3度ダウン奪い11回TKOでダブル王者に。佐々木尽は奮闘も初黒星

左アッパーからの右フック。7回、平岡はこれで2度倒した

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 19日、東京・後楽園ホールで行われた日本&WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王座決定戦は、日本1位・WBO・AP2位の平岡アンディ(25歳=大橋)が、日本2位・WBO・AP3位の佐々木尽(20歳=八王子中屋)から3度ダウンを奪って11回1分58秒TKO勝ち。一気に2本のベルトを獲得した。なお、前日計量で体重超過した佐々木は、当日計量でJBC(日本ボクシングコミッション)ルールの規定体重(68.58kg)内の68.1kgでクリア。この日の試合はタイトルマッチとして認められた。

文_本間 暁 写真_菊田義久

「前日計量で規定体重の3%未満オーバーの場合、当日計量で規定体重の8%以上オーバーの場合は中止」というJBCルールによれば、スーパーライト級リミット(63.5kg)の3%オーバーは65.4kgで、佐々木は前日65.3kg。当日午後5時に行われた計量をクリアして開催は許可され、「平岡が勝てば王者、佐々木が勝てば空位のまま」という試合が始まった。

 前日のドタバタから、直前まで試合が行われるかどうか微妙な状況。その複雑さに加え、「周囲からの『油断するな』という声が、序盤のアンディに影響したのでは」と大橋秀行会長は振り返った。

 前半、サウスポースタイルから慎重にジャブ、左ストレートと突いていった平岡だが、ずんぐりとした体形のパワーヒッター佐々木は、ときに飛びかかるようにして左フックを振るい、何度も平岡をロープに押し込んでいった。

 平岡のコンパクトなコンビネーションは、佐々木のがっちりとした腕がしっかりとブロックする。対して単発の佐々木の豪快なスイングは、平岡のガードを押し込むような印象。さらに、“レフトフッカー”の印象が強い佐々木は、対アンディ用に磨いてきた右を上下に飛ばしていく。減量失敗による体調の悪さや精神的なマイナスは微塵も感じられなかった。

 平岡が得意のフットワークで右へ右へとターンしていき、佐々木のブローをかわしていく。距離をとって佐々木の突進を回避する。序盤はこの若き“破壊王”のプレッシャーに気圧されている印象。3回には、佐々木が予期せぬタイミングと角度から右フックをボディに叩きつけると、平岡はバランスを崩して右グローブをキャンバスに着いてしまう場面も(レフェリーはスリップと裁定)。佐々木は空振りも派手だが、圧力の凄まじさが目立ち、手数は多いがガッチリと寸断されている平岡より印象強かった。

 オープンスコアは5回終了時の1度だけ。48対47が1者、49対46が2者と、平岡の手数を支持したもの。それを聞いた佐々木は自分に気合を入れるように大声で吼え、対する平岡には余裕が生まれたように感じた。6ラウンド、平岡はジャブを多用して、フットワークもさらにリズミカルに。コンパクトに打つ左右ストレート、アッパーには、より力感が宿り始めた。

 そして7ラウンド。左アッパーから右フックを返すと佐々木のヒザが揺れ、さらに左フォローでダウン。立ち上がった佐々木に同じコンビネーションを見舞って2度目。クリンチ等で必死に回避した佐々木を、平岡は詰め切れなかった。

 接近戦での腕や首のロックは絶妙。キャリアに優る平岡はさすがにしたたかだった。初回から迫力ある攻撃を仕掛けてきた佐々木は、すでに自身最長のラウンドに入っている。平岡は、上からのしかかってスタミナを削ろうともした。しかし、ダメージからの回復力、スタミナの多さなど、佐々木は常軌を逸していた。かわされてもかわされても、猛然とスイングを繰り返し、最後の最後まで試合をスリリングなものにした。

11回、最後は左ストレートからの左アッパー。3度目のダウンを喫した佐々木
11回、最後は左ストレートからの左アッパー。3度目のダウンを喫した佐々木

 迎えた11ラウンド。中盤から上下左右内外に打ち分けてきた平岡は、強弱もつけ始めて仕上げにかかる。外を意識させておいて中を開かせて、左ストレートをアゴに直撃。さらに左アッパーをフォローすると、佐々木はこの試合3度目のダウン。立ち上がったものの、レフェリーは続行を許さなかった。

 遠い距離からコツコツと冷静に痛めつけることを選択した平岡。その距離にかわされ、自らロープやコーナーを背負って誘ったり、両グローブをバンバンと叩きつけて「打ってこい!」とアピールした佐々木。互いの性格がそれぞれ滲み出、パフォーマンスも両者の持ち味が出た試合となった。佐々木が前日の失態をおかさなければ、「期待どおりの好ファイト」と叫びたかった。

「やっと手にできた」と感慨を語った平岡。対戦相手が現れず、ようやく実現した王座戦だった
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「佐々木くんとは(スパーリングで)交流があって、勉強熱心だし、性格も良いので、みなさんあんまり責めないでください」と、勝者・平岡はリング上から呼びかけた。

「あれ(体重超過)さえなければ、佐々木くんは魅力的でスター性もあるから。アンディの相手に名乗りを挙げてくれたのは彼だけ。そういう根性は讃えたい。次のチャンピオンはきっと彼でしょう」と、大橋会長も佐々木を絶賛した。

 あれだけの迫力で迫られて、ビッグパンチを振られたら、体が反応して巻き込まれても不思議ではない。しかし、平岡は最後まで決してそこを崩さなかった。かつては精神的に弱い一面も見せたものの、“初志貫徹”で高い技術力を見せ続け、キャリアで培った自信、1枚上手の貫禄を披露した。すべてコンパクトに、多彩なコンビネーションを出し続けたが、強くて長いジャブをもっと有効に使えれば、さらにはっきりとした主導権をアピールできただろう。

 初黒星の佐々木は、なによりメンタルの強さに驚かされる。リングに上がってしまえば、目の前の相手を打ちのめしにかかる。そこに入り込んでしまう“本能”は狂気を孕む。ロープを背にしてL字ガードで連打を防いだり、ボディワークを多用したりと、ただのパワーヒッターでない一面も見せた。長いラウンドを戦い抜いた体力も示した。ウェイトを作れなかったことだけが本当に残念で、これさえなければ、万人を惹きつける将来性を讃えたかった。

 平岡は18戦18勝(13KO)。佐々木は12戦11勝(10KO)1敗。

子供時代、テレビ番組の人気キャラだった“アンディくん”の成長に、関根勤さんも「別人!」と感動を語った
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 上述したJBCルールは、試合や興行を守ろうとする意図も多分に含んでいるのだろうが、それを逆手にとって、体力を温存して勝ちに徹する選手、陣営が出てこないともかぎらない。戦う選手の安全面を考慮することが第一であるし、なにより「同一ウェイトで戦う」のがボクシングである。業界全体で、再考すべきルールではないかと思う。
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