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2021-10-21

藤波辰爾が語る新日本プロレス旗揚げ前夜<プロローグ3>「猪木さんの前に行ったらいきなりプッシュアップ用バーで殴られて…」【週刊プロレス】

アントニオ猪木と藤波辰巳

 藤波辰爾が語った“新日本プロレス旗揚げ前夜”。第3回は付け人時代のエピソード。ここで語られたのはジュニアヘビー級王者として凱旋帰国してからのものだが、アントニオ猪木のプロレスに、リングに対する姿勢がうかがえるもの。また、最も近くで猪木を見てきたからこそ理解できる部分でもある。

 猪木が力道山にやられたように、理にかなってないことで殴られるということはなかったという藤波。それでももっとも猪木の近くにいたからこそ受けた仕打ちもあったという。それはWWF(当時)ジュニア王者として凱旋帰国してからのこと。

「猪木さんって突然ひらめく方なんで。でも自分も、こういう理由で殴られたんだろうなっていうのもわかるようになって。当時は年間200試合以上、日本中を巡業して回ってるわけで。そうなると1シリーズが20~30試合。

 それだけ長期間巡業してると、疲れもあるんでどうしても中だるみしちゃうことがあって。試合前のリングに集まって練習するんだけど、どうしてもちょっとだらけてけてきちゃうんですよね。

 6時半試合開始だったら、だいたい3時過ぎに会場に入って練習始めるんだけど、猪木さんが会場に入ってくるのが4時ぐらいで。ちょうど猪木さんが会場に入ってきたときに、不揃いで練習しててだらけてると感じたんだろうね。

 ちょうどその時の僕はアメリカから凱旋帰国してて、自分も勢いがあって一番いい時。リング周りの練習の輪には入ってなかくて、僕は僕なりに会場の隅の方で縄跳びとかスクワットとか自分なりの調整をしてたんだけど、ちょうど猪木さんが会場に入ってきたとき練習が目に飛び込んできたんでしょう。

 いきなり猪木さんの怒鳴り声が聞こえてきて、みんなビクッてして。そしたら猪木さんに呼び止められて、猪木さんの前に行ったらいきなり(木製の)プッシュアップ用バーで殴られて。

 当然みんなこっちを見てるわけで。僕はじっと耐えるだけ。そしたら頭がパックリ割れて血が流れてきて。その時、会場は水を打ったようにシーンと静まり返って。猪木さんは『かったるい練習してんじゃない!』って。

 当然、そのあと試合があるわけだけど、僕がリングに上がったとき、試合始まる前から血が流れてて。お客さんは何があったんだって不思議な顔してましたね。やられた瞬間は、“なんで俺が?”って思ったけどね。

 でも、常に自分たちの仕事場はそれだけの気持ち、闘う心得を持ってリングに上がれっていうことをね、自分を殴ることでみんなに伝えた。控室で身支度しててもドアひとつ向こうにはリングがあるわけで。猪木さんは、会場入りしたその時にもうゴングが鳴ってるんですね。

 今、そういう雰囲気を作れるプロレスラーって少ない。だいたい今はリングに上がってから、リングに向かうところでそうなんるんだろうけど。お客さんの声に合わせたりとか。自分がどこに今から向かっていくのか、何をしに行くのかっていうのを猪木さんは人一倍意識してましたね」

橋爪哲也

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