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2022-01-12

【アメフト】ジョージア大が41年ぶりの全米王者に 強力ディフェンスでアラバマ大を撃破

優勝トロフィーにキスをする、ジョージア大のQBベネット=photo by Getty Images

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アメリカンフットボールの全米大学王座決定戦、CFP(College Football Playoff )決勝が、現地1月10日(日本時間11日)、インディアナ州インディアナポリスのルーカスオイル・スタジアムに6万8千人の観衆を集めて行われ、ジョージア大学ブルドッグス(全米ランク3位)が、持ち前の強力ディフェンスで、アラバマ大学クリムゾンタイド(同1位)を33-18で破って、1980年シーズン以来41年ぶりの全米王者となった。ジョージア大はチーム史上初めて1シーズンで14勝を記録した。カービー・スマートヘッドコーチ(HC)は、初の栄冠。師匠であるアラバマ大のニック・セイバンHCとの5回目の対戦で、うれしい初勝利を挙げた。
 最優秀選手(MVP)は、オフェンスはジョージア大のQBステットソン・ベネット、ディフェンスは同大のDBルイス・シーンが選ばれた。
 CFPは今回が8回目と歴史の浅い大会だが、米国で2260万人が視聴。スポーツにとどまらない全米規模のビッグイベントとして認知が高まっている。ハーフタイムには、ポップミュージックのアイコン、ケイティ・ペリーの最新曲ミュージックビデオが世界で初公開されたのが象徴的だった。(写真はすべてGetty Images)

全米大学王座決定戦(CFP)決勝(2022年1月10日、ルーカスオイルスタジアム)
        1Q 2Q  3Q   4Q  計
ジョージア大学   0  6   7  20  33
アラバマ 大学   3  6   0   9    18
【ユルくないマスコット!】勝利を喜ぶジョージア大のマスコット、ウガ(UGA)=photo by Getty images


【ユルくないマスコットsono2 !】敗れて悔しい、アラバマ大の象のマスコット=photo by Getty images

互角の攻防、終盤で決定力の差

 ジョージア大は、アラバマ大の最初のオフェンスシリーズで、198センチ154キロのDTジョーダン・デービスがインサイドからラッシュし、アラバマ大QBブライス・ヤングをヒット。ファンブルしたボールをリカバーしたLBネコビ・ディーンがリターンタッチダウン(TD)を決めた。しかし、ビデオリビューで、QBヤングがパスを投げる動作をしていたとして、TDが取り消されパスインコンプリートとなった。


 この後も、両チームのディフェンスが力を見せ、オフェンスのTDを許さずフィールドゴール(FG)の応酬となった。この前半で、ゲームの流れに大きく影響を与えるできごとがあった。第2クオーター、ポストを走ったアラバマ大のエースWRジェームソン・ウィリアムズが、ステップした際に左ひざを痛めて負傷退場となった。倒れ方から見て、ひざの靭帯を損傷した可能性があり、試合に戻れないのは明白だった。アラバマ大は、もう一人のエースWR、ジョン・メッチーを、レギュラーシーズン最終戦の負傷で失っており、QBヤングには大きな打撃となった。
【ジョージア大 vs アラバマ大】ロングパスをキャッチした後で、左足を負傷したアラバマ大WRウィリアムス=photo by Getty Images

 9-6とアラバマ大リードで迎えた第3Qから試合は動き始めた。アラバマ大の48ヤードFGトライが失敗した後のジョージア大のファーストプレー。RBジェーム・クックの67ヤードランで一気に攻め込んだ。OLのコンビネーションブロックでインサイドを突いたクックは、NFLバイキングスの兄ダルビンを想起させる敏捷なカットで、左の外に持ち出してビッグプレーとした。ジョージア大はこのチャンスを逃さず。ゴール前1ヤードのランで、巨漢デービスを筆頭に、デボンテ・ワイアット、ジェイレン・カーターという自慢のDT陣をオフェンスのブロッカーに投入し、ザミール・ホワイトのランでTDを奪った。第3Q13分40秒、この試合で両チーム合わせて最初のTDは、試合の3/4が終わろうとしているときに記録された。

 9-13とジョージア大がリードしたここから、試合はシーソーとなった。アラバマ大は、第4QにFGを決めて1点差に。ここでジョージア大QBベネットにミスが出る。ゴールを背負った地点で、ディフェンスにラッシュされた。ベネットはタックルされながらパスを投げたつもりだったが、ビデオリビューでファンブルに。ボールはアラバマ大が抑えており、ターンオーバーとなった。

 アラバマはこのチャンスに、QBヤングがTDパスを決めて(2ポイントコンバージョンは失敗)、18-13と5点をリードした。

 QBベネットは、人が変わったかのようにパスを決め始めた。奮闘しているディフェンスのためにも、自らのミスを取り返さなければならなかった。アラバマ大DBのパスインタフェアランスもあり、敵陣に侵入。そして、アラバマ大オフサイドに合わせて、ロングパスを投げた。いわゆるフリープレーだ。マンツーマンカバーされていたジョージア大WRアドネイ・ミッチェルが見事にキャッチしTD。再び逆転した。

 次のドライブ。ジョージア大はモメンタムを手放さなかった。TEを2枚入れ、ゴリゴリのランオフェンスで前進した。全米4位のランディフェンスを誇るアラバマが気圧されたように後退した。そしてゴールまで15ヤードの3rd&1で、ランパスのオプションから左サイドのフレッシュマン(1年生)TEブロック・バウワーズにスクリーンパス。バウワーズが一気にエンドゾーンまで走り、貴重なTDで26-18と突き放した。
【ジョージア大 vs アラバマ大】第4Qに貴重なTDを決めた、ジョージア大TEバウワース=photo by Getty images
 残り3分で8点差を追いかける展開。QBヤングのパスに頼らざるを得なかったアラバマ大だが、レシーバーの軸を欠いていた。ジョージア大の厳しいプレッシャーと、タイトなマンツーマンカバーの中で、なんとか投げたヤングのパスを、レシーバー陣がしばしば落球していた。

 試合時間残り59秒、QBヤングのパスを、ジョージア大DBキーリー・リンゴがインターセプトして、79ヤードのリターンTD。33-18として試合を決めた。
【ジョージア大 vs アラバマ大】第4Qに決定的な「ピック6」を決めたジョージア大DBリンゴ=photo by Getty images
 ジョージア大ディフェンスは、4QBサック、9タックルフォーロス。CFP準決勝のシンシナティ大戦で204ヤードを走ったRBブライアン・ロビンソンを68ヤードに封じ、今季ハイズマントロフィーに選出されたQBヤングから、キャリアで初の1試合複数インターセプトを奪った。

スマートHC、ついに師セイバンを超えた

 試合後、赤い紙吹雪の舞うフィールドでインタビューに応じたジョージア大のスマートHCは、質問を遮るように「この大学は、どうだ。このファンはどうだ。ジョージア大学にとって、このチームにとって、これは本当に特別な瞬間なんだ」と話した。
【ジョージア大 vs アラバマ大】41年ぶりにジョージア大を王者に導き、右手を突き上げて喜ぶスマートHC =photo by Getty images
 「ここまでの道のりは、本当に長かった。アラバマはWRウィリアムズを(負傷で)失うなど、何人もの負傷者が出るタフな状況だった。だが我々の子どもたちは最後まで戦い抜くことができたんだ。」

 スマートは、ジョージア大時代、通算15インターセプトのトップDBだった。テネシー大のペイトン・マニングとは1学年違い。ゲームで対峙したこともあった。だがNFLには届かずに、コーチの道ヘ進んだ。そして、ニック・セイバンと運命的な出会いがあった。

 セイバンの下でのコーチ修行は11年に及ぶ。セイバンがチームを替わるとスマートも後を追った。ディフェンスコーディネーターとして、2011年は13試合でわずか106失点という驚異的なディフェンスを作り上げ、アラバマ大の2年連続全米優勝の原動力となった。ディフェンスコーディネーターでありながら年俸はアシスタントコーチとしては全米トップの1億5000万円近くに達した。

 2016年のシーズンからは母校のHCに就任。ジョージア大の強化には成功したものの、師が率いるアラバマ大とは4回対戦して1度も勝てなかった。。

 しかし、今季はこれまでとは違った。ディフェンスのスターター全員がNFLに行けるとまで評される強力なチームを作り上げ、さらに、常に「負け犬」の評価と戦いながら、スターターQBとなったベネットのようなたたき上げがオフェンスの中心となった。

 今季唯一の敗戦がサウスイースタンカンファレンス(SEC)決勝のアラバマ大戦。全米トップQBであるヤングのアップテンポオフェンスの前に、41失点で惨敗した。あれから1カ月。ハードな練習でコンディションを整えたブルドッグスの面々は、アラバマ大を圧倒した。スマートは、念願の師匠越えを果たした。

 そのセイバンは、試合後次の通りに語った。
「もしナショナルタイトルを失うとしたら、我々のために素晴らしい仕事をしてくれ、そして今は自身の大学とチームのために素晴らしい仕事をしてきた元アシスタントに負けたいと思っていた。」

「彼らはシーズンを通して素晴らしいプレーをした。我々はSEC選手権で彼らを破ったが、今夜は思うようにいかなかった。」

「カービーは本当に、本当に良い仕事をしたと思う。私は彼を本当に誇りに思う。」

  弟子が師匠よりもぬきんでることを「出藍の誉」という。「青は藍より出でて藍より青し」。

 今回の両者の勝負に準じれば「ジョージアの赤は、アラバマのクリムゾン(深紅)よりも赤し」ということだった。
【ジョージア大 vs アラバマ大】試合後、師のセイバンHCと言葉を交わすスマートHC(左) =photo by Getty images

過去2年のNFL以外の全番組で2番目の視聴者数

 中継を担当したスポーツ専門局ESPNによると、今回のCPF決勝は、全米で2260万人、ピーク時には2540万人が視聴した。平均時の数字は昨年に比べて19%増加したという。2020年2月以降に放送された、NFLを除いたすべてのテレビ番組(非スポーツも含む)で、2番目に多くの視聴数を記録したという。1月10日の試合中にテレビを見ていた人の29%、18-49歳の大人の38%がCFP決勝を視聴したことになる。

 スーパーボウル中継に比べると1/4程度にとどまっているが、他のプロスポーツにとの比較では、2021年のMLBワールドシリーズ中継の視聴者が1試合平均1175万人、NBAファイナルが1試合平均991万人だった。
【うれしい!】勝利を喜ぶジョージア大のチアリーダー=photo by Getty images

【小座野容斉】

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