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2018-11-22

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日本陸上競技連盟 新プロジェクト始動 早野忠昭チーフオフィサーに聞く/ JAAF RunLinkとは。 ランナーにとってのメリットは。

11月13日、日本陸上競技連盟が、ロードレースに関する新しいプロジェクトを発表した。
JAAF RunLinkと名付けられた取り組みは、2040年までにランニング人口2000万人を目指すという壮大な計画だ。
このプロジェクトで行われることは何か、私たちランナーにどんなメリットをもたらすのか、
早野忠昭チーフオフィサーに聞いた。
構成/クリール編集部 写真/小山真司

強化と2本柱となる
ウェルネス陸上

ーーそもそもJAAF RunLink(以下、RunLink)とは何か、どういうことをしようとしているのでしょうか。

早野 昨年、日本陸連ではJAFF VISION 2017というものを作りました。中長期的に陸連としてすべきことを議論し、2040年のあるべき姿を掲げたものになります。

 軸としては2つあり、まずは、「競技陸上」と称して従来取り組んできたトップアスリートの育成・強化です。オリンピックや世界陸上で結果を出す、人々に感動を与えるということ。もう1つが、競技団体としての日本陸連の新たな役割として「ウェルネス陸上」を掲げ、すべての方のすべてのライフステージにおいて陸上競技を楽しめる環境をつくることを推進していくというものです。そのようななか、ウェルネス陸上の実行組織としてRunLinkが立ち上がりました。

 全国各地で行われているランニングイベントに、日本陸連の責任はないのか、そうではないでしょう。唯一の陸上競技の統治組織として、陸上競技に関するあらゆるものを統括していかなければいけないのが日本陸連です。ロードランニングに関しても、陸連のやるべきことがあると考えています。

 RunLinkがやろうとしていることは大きく2つあります。1つめは各大会と安心安全な環境づくりをしていくこと。2つめはランナーのサポートです。さらにはこの活動に賛同した企業・団体とランニングに関するイノベーションを促進することです。

 1つめの大会に向けた取り組みは、大会を開催するのに最低限の基準(走力に応じた運営方法、救護体制など)を、今後作り広めていきたいと考えています。日本陸連公認のロードレースは、全国で2000から3000あるといわれている大会のうちわずか200大会程度です。ロードレースが全国各地で開催されることは喜ばしいことですが、発生する事故の多くが非公認大会となります。

 そこで今後、公認非公認大会にかかわらず「JAAF RunLink加盟大会(以下、RL加盟大会)」という形で加盟を募り、大会の輪を広げていき全体で安全の水準を高めていきたいと考えています。もちろん加盟料といった形で費用をいただくことは考えておりません。

 また、大会に対しても安全基準だけでなく、陸連公認大会・RL加盟大会に対して共通のサービスを提供していきたいと考えています。例えば、現在、走力別にランナーを並べられるようなシステムを開発しています。現状、申し込み時の完走予想タイムが自己申告なので、本来遅い人でも速いタイムを申告すれば前のブロックからスタートできてしまいます。その場合、主催者としては転倒のリスクがあるし、ランナー側からしてもスタート直後の混雑はタイムロスになるので、ストレスです。過去のリザルトデータに基づいたエントリーができるようになれば、安全かつスムーズなスタートが可能になります。

早野 2つめのランナー個人としても過去に出場した記録がストックされていないという課題も、マイページ上で全ての記録が閲覧できるようなサービスも作っていきたいと考えています。1大会では解決できないような課題を解決していく、そのためのサービスや情報を提供していくのがRunLinkです。
 
 さらにはこの活動の趣旨に賛同した企業・団体に対する取り組みとして、RunLinkはスポンサー制ではなく、賛助会員制という形で、同業種を排除することなく、趣旨に賛同する企業団体であれば誰でも参画できる形を取ります。2020年東京オリンピックまであと2年、にもかかわらずランニング人口が2012年をピークに減少しつつある状況です。
 
 この状況を打破するには、スポンサーという形であらかじめパートナーを決めて進めるやり方もありますが、ランニング業界みんなで肩を組んで、この先の10年、20年を考えて、ランニングに関する新しい価値観や、商品・サービスを創造していく必要があると考えています。ランナー目線で考えるとA社が好きな人、B社が好きな人それぞれですので、サービスを選ぶのはランナー自身のほうが楽しいと思います。その意味で、ランニング業界に新しいプレーヤーの参入もうながしたり、コミットを高めていただいたりするようなこともしていきたいです。

 イギリスのゴルフ業界ではゴルフ人口の減少を食い止めるべく「ナショナルゴルフマンス」といって、特定の期間にゴルフ業界総力を挙げて初心者の方に無料のレッスンを開催したり、コースを開放したりしてゴルフを始めるきかっけづくりをしているそうです。日本でもファッション業界は、ファッション・ウィークを開催していたり、映画業界は映画祭を開催したり、業界を挙げた取り組みは随所で見られます。ランニング業界もRunning Weekのような形で、賛助会員と共にそうした活動もしていきたいです。
 
 JAAF RunLinkが直接何か大会等のコンテンツをもつわけではなく、基本的には企業や団体が有するリソースを生かしているところです。多くの賛助会員にご参加いただくことで、ビールやファッション×ランニング、フード×ランニングなど、企業や団体の強みを掛け算として新しい価値をビジネス側面だけでなく、ランナーの皆様にもご提供できると思っています。

ーー2040年にランニング人口2000万人という目標があります。スケジュールをどのように考えていますか。

早野 まずは、統計にもよりますが、既に2000万人いるとも言われている現状のランナーの「見える化」をしていきたいと思います。大きく大会と日常の活動の両面からアクションを起こそうと思っています。
 
 大会に対しては、RL加盟大会の裾野をできるだけ広げて、公認大会、RL加盟大会に参加するランナーをまずは、リザルトベースで把握をして、将来的にはマイナンバーのような共通のIDを各自が持てるようにして、エントリーサイトはじめさまざまなサービスと連携をして、誰が、どんな大会に出ているのか、というところまで分かると理想的です。
 
 ただ、大小さまざまな大会がありますが、大会に出ているランナーは100万人程度ではないかと思っています。一方で日常の活動については皇居ランナーのように大会には出場した経験はないが、定期的に公園や川沿いなどを走っているランナーがたくさんいます。このランナーも何かしらGPSウォッチやアプリなどを使っている人たちがいますので、IDのシステム連携などを通じて把握をしていきたいと考えています。
 
 既存のランナーの「見える化」の先には、ランニングをカルチャーとして根付かせる活動が必要です。2020年東京に向けては、パラスポーツの盛り上げということが日本全体の流れだと思いますが、あくまでエリートアスリートの話だと思います。2020年以降は、一人ひとりのライフスタイルのなかでいかにスポーツを根付かせていくか、ランニングがその中心を担う存在であると信じています。
 
 今、世界でもブルックリンやポートランドなど、ミレニアル世代といわれる若者が新しいカルチャーを発信している街は、奇しくもランニングが盛んな街です。私が若いころいたアメリカのボウルダーは、スポーツと音楽の街で、それぞれのランニングライフスタイルが根付いていました。「Bolder Boulder」という大会は10㎞の大会ですが、5万人も参加するイベントで、それぞれが自由に走っています。そうしたランニングカルチャーを、日本においても賛助会員となる企業・団体、その他にもスポーツ界以外のインフルエンサーをも巻き込んだ取り組みをしていきたいと考えています。その意味で、堀江貴文さんと茂木健一郎さんにはアドバイザーに就任いただきました。

11月13日の会見で。左から鈴木大地・スポーツ庁長官、茂木健一郎氏、早野氏、堀江貴文氏、尾懸貢・日本陸連専務理事(c) JAAF RunLink

――IDという話が出ましたが、登録制度のようなものを作っていく予定ですか。

早野 IDという話はあくまでRunLinkのサービスとしてのIDですので、全く異なります。陸連の登録制度は従来通り公認記録がもらえる制度として存在しますが、本来的な意義としては、市民ランナーの中でも速い人が、福岡国際マラソンのような参加標準記録がある大会の出場資格を得る際に公認記録を得るということだと思いますが、そこの周知は、きちんとしていきたいです。

――日本のロードレースを走ろうとすれば、RunLinkとかかわることになります。

早野 そうですね。大会主催者、ランナーそれぞれがメリットを感じていただけるように考えています。費用も特にかかりませんので、良いことだらけです。その分、きちんとランナーや主催者の皆さんにメリットがあると思えるサービスを提供して、その対価としてお金をいただく、そしてランニング業界に再投資するという好循環を作っていきたいと考えています。

――ランナーには登録するとどんなメリットがあるのでしょうか。

早野 安心安全な大会を走れるようになる、リザルトに基づいた位置からスタートができるようになる、自分の記録を一覧で見ることができるなど今まで説明したサービスもありますが、あとはコミュニティということもあります。マラソンの中継を見て、私も走ろうかなと思っても、何から始めたらいいか分からないという人は多いでしょう。友人で走っている人がいないという人も、登録しておくとランニングのコミュニティに入りやすくなったり、トレーニングを受けられるサービスも出てくるでしょう。陸連には、公認競技場という形で全国各地に競技場もありますので、東京の代々木公園にある織田フィールドのように市民ランナーでにぎわう陸上競技場を増やしていきたいです。

――何かベンチマークしている取り組みはありますか。

早野 チェコやイギリスには、RunCzech(ランチェコ)やrunbritain(ランブリテン)という組織があります。ただ彼らがやっていることは、安全基準を作ったり、共通のプロモーションを行ったりというレベルで、僕らはその先のサービスの創造という点でいくと、われわれが最も先進的な事例になるので、今後海外からベンチマークされる存在になっていきたいと思います。いずれにしろ、前例がない取り組みですので、より多くの人たちとオープンに議論をして進めていきたいと考えています。

早野忠昭 Tadaaki HAYANO
一般財団法人 東京マラソン財団事業担当局長・東京マラソンレースディレクター。日本陸上競技連盟 総務企画委員。国際陸上競技連盟 ロードランニングコミッション委員。スポーツ庁スポーツ審議会 健康スポーツ部会委員。内閣府 保険医療政策市民会議委員。高校時代は800mのインターハイチャンピオン。筑波大を卒業後、教員となり、その後渡米し、スポーツメーカーに勤務。東京マラソンには第1回からかかわり、ワールドマラソン・メジャーズ入りに尽力した。

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