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2022-07-01

【連載 名力士ライバル列伝】ヨーロッパからの「挑戦者たち」――把瑠都中編

平成22年初場所、14勝1敗の好成績を挙げ場所後、大関に昇進した把瑠都

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四股名にズバリ「欧州(欧洲)」と名乗り、
大関へ駆け上がったブルガリア出身の琴欧洲(現鳴戸親方)。
その“先駆者”を目標にして上を目指し、栄位にたどり着いた
エストニア出身の把瑠都。
ヨーロッパから極東の国へ、
新風を吹かせた「挑戦者」二人の言葉を送る。

モンゴル出身力士は頑張る心が違う

左ヒザが癒えた“怪人”は、再び幕内上位で存在感を発揮し始める。平成21(2009)年初場所には4大関、秋場所には5大関を倒した。懐に入られるとうるさい日馬富士(のち横綱)を、モロ手突きから2、3発で押し出した相撲などは、すでに三役には留まらない力を身に付けていたことを示している。
 
だが、一方で高い壁だったのは横綱の存在だ。「“横綱”という相手の地位に気後れしてしまった」という朝青龍には、結局9戦して一度も勝てなかったし、白鵬にも、新入幕場所から実に9連敗を喫した。
 
把瑠都にとって、この白鵬は取的時代から意識する存在だった。

「私がまだ三段目くらいのときに、白鵬関が出稽古に来たことがあったんですよ。それまで日本人としか相撲を取ったことがなかったから、モンゴル人ってどんなものなのかなと。すると、いろんな技を出してくるし、稽古場であっても力を出し切るでしょう。頑張る心が、違うなあと思いましたね」
 
大関を目指すには、どうしても乗り越えなければいけない横綱戦。待望の初白星は、平成22年初場所7日目だった。右四つで白鵬に両廻しを許す厳しい展開だったが、左を巻き替えた瞬間に掬い投げを打つ思い切りの良さが利いた。右足首が捻じれてヒヤリとしたが、「負けたら痛かったかもしれないけれど、勝ったから痛みは感じなかったですよ(笑)」。そして、14勝を挙げた翌、春場所後に、ついに大関昇進。「本当のスタート」と位置付けた十両全勝優勝から、すでに4年がたっていた。

「ようやくここまで来たな、と。すぐに上がったという人もいるけれど、そうじゃない。私にとっては、長かった。途中、ケガとの闘いが、ずっと続きましたから」
 
平成24年初場所には、初日から白星を並べ、初の賜盃を手にした。把瑠都の場合はこのように、大勝ちするときは初日から連勝を続けるパターンが多かった。

「私にとっては初日から2日目、3日目くらいがすごく大事だったんです。そこで負けてしまうと『あ~、早く場所が終わらないかな』って余計なことを考えて、相撲がバタバタしてしまう。逆にそこを勝てれば、波に乗れました」
 
優勝を決めた13連勝目、琴奨菊戦も、左四つ十分の相手を、肩越しに取った右上手から吊り上げ、振り回して倒すという、まさに力技だった。

「結局、このクセは直らなかった。右四つなのか、左四つなのか、自分の相撲がどういうものなのかも、最後までよく分からなかったです(苦笑)」

それが大成を阻んだという見方もあるが、3度も決めた波離間投げに、大逆手……すべては大きな体を目いっぱい使って、一生懸命に相撲を取った結果なのだ。だからこそ今も、大関把瑠都ならではの迫力、魅力として、相撲ファンの心に深く刻み込まれているのだろう。(続く)

対戦成績=把瑠都3勝―25勝白鵬、把瑠都12勝―18勝日馬富士、把瑠都21勝―6勝稀勢の里

『名力士風雲録』第28号 琴欧洲 琴光喜 把瑠都掲載

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