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2022-07-05

【泣き笑いどすこい劇場】第9回「力士の気持ち」その4

満面の笑みで戻ってくる琴奨菊。次は一生忘れられない大きな勝利をものにしたい

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2011年、「どうしてこんなことを?」と耳を疑い、目をこすりたくなるような凄惨な事件が多発しています。人間性や、人間関係が崩壊してきているんでしょうか。悲しいですね。その点、丸い土俵に青春のエネルギーをぶつけている力士たちはまだまだ純です。このところ、不祥事やトラブルが相次ぎ、「馬鹿野郎、いい加減にせえ」と怒鳴りつけたくなるときもありましたが、少なくとも彼らが垣間見せる言動は理解の範囲内。「いや、その気持ち、よくわかるよ」と肩をたたき、抱き締めたくなるようなことが多い。そんな力士たちの素直な気持ちがにじみ出たエピソードを紹介しましょう。黒星は雨のせい?

忘れ得ぬ喜びを
 
負けて覚える相撲かな。では、勝った場合は――。

平成21(2009)年夏場所12日目、東前頭6枚目の琴奨菊(現秀ノ山親方)は東前頭15枚目の翔天狼(現北陣親方)に得意の左四つからのガブリ寄りで快勝し、3場所ぶりの勝ち越しを決めた。勝ったときの琴奨菊は目を糸のように細くし、心底うれしそうな顔をする。この日も満面に笑みを浮かべると、

「まさかこんなに早く勝ち越せるなんて。うれしいですね。でも、忘れちゃうんだよな、このうれしさ」
 
と話し、我が身を戒めた。
 
言われてみれば、確かにうれしいこと、楽しいことは人生の上っ面を流れ去ってしまうことが多い。でも、今度の場所(平成23年名古屋)はしっかり覚えておかないと。なにしろ大関取りがかかっているんだから。

月刊『相撲』平成23年7月号掲載

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