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2022-09-09

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第2回「自分に負けるな」その2

平成24年名古屋場所、豪栄道は左わき腹に大きなテーピングを巻いて土俵に上がった

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会社や、学校などで、新しいスタートを切ったみなさん、おめでとうございます。
平成31(2019)年春場所、大相撲界にも希望に燃えた弟子たちが40人も入ってきました。
彼が目指すのは、もちろん、番付の一番てっぺん、横綱です。
そこにたどり着くには、筆舌に尽くしがたい試練を乗り越えなければいけませんが、最大の壁は何か。
こっそり教えましょう。それは最も身近にいる自分です。自分に負けてはいけないんです。
兄弟子たちも、甘えたくなる自分の心に真っ向から立ち向かい、打ち克って出世の階段を上っていきました。そんな壮絶な闘いぶりを教えましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します

弱みは見せない
 
勝負に生きる人間は、たとえ相手が誰であろうと弱みを見せてはいけない。勝負の世界は非情。必ずそこを突かれるからだ。大相撲史に残る名言い訳が誕生したのは平成24(2012)年名古屋場所8日目のことだった。
 
その日、名古屋ならではのむせ返るような酷暑の中、関脇豪栄道は左わき腹に大きくテーピングを巻いて現れた。前日の7日目、豪栄道は大関だった稀勢の里を左からの掬い投げで破って4勝目を挙げている。この投げを打ったときになんらかの異変が起こったのは明白だった。当然、この日、前日と打って変わったような相撲で琴奨菊に敗れた豪栄道を取り囲んだ報道陣から、

「どうしました?」
 
とそのテーピングに対する質問が飛んだ。すると、豪栄道は、おもしろくもないといわんばかりの顔でこう答えたのだ。

「虫に刺されました」
 
いまどき、虫に刺されたぐらいで目を見張るような大きなテーピングを巻いて土俵に上がる力士はいない。その本当の原因がわかったのは6日後のことだった。なんと肋骨の骨折を明らかにし、休場届を提出したのだ。それまでずっと黙っていたのは、不可抗力だったとはいえ、ケガにした自分を恥じ、それに屈する自分が許せなかったのに違いない。

14日目、勝ち越しまであと1勝に迫りながら、ついに我慢の限界に達し、無念の休場に踏み切った豪栄道はよほど悔しかったのか、この件に関して2度と触れることはなかった。この負けん気が2年後の大関昇進につながったと言っていい。

月刊『相撲』令和元年5月号掲載

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