close

2022-09-25

【相撲編集部が選ぶ秋場所千秋楽の一番】千秋楽も見事な押し。玉鷲が髙安倒し昭和以降最高齢優勝

強烈なノド輪で髙安を押し出した玉鷲。千秋楽も得意の押し相撲を貫き、37歳10カ月での賜盃を手にした

全ての画像を見る
玉鷲(押し出し)髙安

「押して、押して、押した。何が何でも、自分の相撲を取ろうと思いました」
 
優勝を意識したのは「3日前」だったそうだが、最後まで、玉鷲の立ち合いの当たり、さらにそのあとの突き押しは、全く変わることがなかった。
 
勝てば平成31年初場所以来2回目、昭和以降最年長の37歳10カ月での優勝、もし負ければ優勝決定戦にもつれ込むという髙安との一番。頭からカマす玉鷲と、カチ上げの髙安、どちらの立ち合いの威力が勝るかが注目されたが、当たり勝ったのは玉鷲だった。低く当たると、すぐにカチ上げに来た髙安の左腕を右ハズで下から押し上げ、相手の体を浮かせた。髙安が向き直って突いてくるところをイナしてかわすと、そこからは左右の突き、最後は左ノド輪で赤房下に押し出した。
 
このところ、序盤はよくても後半崩れる場所が多かったが、今場所は気持ちの張りも違ったのだろう、優勝を意識した12日目、13日目あたりこそ少し鈍ったが、最後まで持ち味の当たりと突き押しを貫き通した。

「11月場所もすぐなので、気持ち熱いままいきたいと思います」
 
衰え知らずの鉄人のハートは、どこまでも熱い。
 
一方、またも悲願の初優勝はならなかった髙安だが、玉鷲とともに横綱・大関陣不振の場所を支えた活躍は見事だった。「(優勝には)何度でも挑戦します。きょうから九州場所目指します」。その意気やよしだ。
 
さて、まずは先場所のように新型コロナウイルス感染でバタバタ途中休場者が出るような状況に陥ることもなく、場所が終わったことを喜びたいが、今場所を振り返るとき、やはり横綱・大関陣の不振に触れないわけにはいかないだろう。今場所は4人そろって敗れた日が2回。大関貴景勝がかろうじて二ケタ10勝に乗せたのみで、横綱照ノ富士は途中休場、正代、御嶽海は4勝止まりで、4人の合計は23勝32敗という惨状だった。御嶽海は大関から陥落、正代は来場所カド番となる。ヒザの故障を抱えながらもなんとか途中まで白星を先行させていた照ノ富士はまだ「負けてなお強し」と言えなくもないが、もはや大関と関脇以下の力の差は紙一重という状況になっていることが改めてはっきりしたと言っていいだろう。
 
場所中の「番付社会なのだから」という、上位陣に奮起を促す八角理事長のコメントに表れているとおり、相撲界は番付によってすべての秩序が成り立っている社会。そもそも給料も番付に従って変わってくるのだから、その権威が失墜することは、相撲界の内部の価値観からすれば、それはそれは由々しき問題ということになる。
 
もっとも、外から見ているファンの目線に立てば、各力士の実力が伯仲し、誰が優勝するか分からないという状況は面白くもあり、場所前から優勝者の目星がつき、「やっぱりな」で終わるような場所よりははるかに興味をそそるところもある。
 
今場所11勝を挙げた若隆景を筆頭に、次期大関争いにはさまざまな顔が浮上してきつつあるが(御嶽海が来場所10勝を挙げて復帰できるかどうかはともかくとして)、「強い大関」の出現には、まだ少し時間がかかりそうで、しばらくは似たような展開の場所が続くだろう。若干、毎日終わりのほうが締まらない、という感じはあるかもしれないが、ファンとしては、しばらくは戦国時代を楽しむ、という感覚でいたほうがいいのかもしれない。

文=藤本泰祐

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事