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2022-10-06

【NFL】QBタゴバイロアに、神経病理学者オマル氏が「引退勧告」 映画「コンカッション」のモデル医師

神経病理学者で医師でもあるベネット・オマル氏(中央)=photo by Getty Images

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米プロフットボール・NFLのマイアミ・ドルフィンズQBトゥア・タゴバイロアについて、有名な神経病理学者で医師でもあるベネット・オマル氏が、「引退勧告」をしている。

 オマル氏は、ナイジェリア系アメリカ人。ウィル・スミス主演の映画 「コンカッション」 の主人公のモデルとなった人物で、「Chronic traumatic encephalopathy(CTE=慢性外傷性脳症)」について、最初に発表したことで知られている。

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 オマル氏は、現地9月29日(日本時間9月30日)の第4週サーズナイトゲーム、ドルフィンズ対ベンガルズ戦で、QBサックされた際に脳震盪となったタゴバイロアについて、「NFLで再びプレーすべきではない」と、米のスポーツ系情報サイトTMZに語っている。オマル氏は中継映像を見て、タゴバイロアが「深刻で長期的かつ永続的な脳損傷を受けた 」と考えているという。

 オマル氏はyoutubeで、タゴバイロアに向かって「私は君のことを、自分の息子と同じくらいに愛している。もうプレーするのは止めよう。止めるんだ。ヘルメットを脱いで、吊るして、勇敢に(フットボールから)立ち去れ」 とメッセージした。
「自分の人生を愛しているなら。家族を愛しているなら。子どもを愛しているなら―--子どもがいれば、だが--。勇敢に立ち去る時が来たのだ。何か他のやるべきことを見つけてほしい」。
「お金は人の命よりも価値がない。200億ドルは、君の脳よりも価値がない」。

 タゴバイロアは、シンシナティの病院に救急搬送されたが、数時間後に退院し、チームと共にフロリダに戻った。翌日、タゴバイロアは 「気分はずっと良くなった」 と語り、できるだけ早くグラウンドに戻ることを決意したと現地メディアが伝えている。

 ドルフィンズは10月9日、ジェッツと対戦するが、タゴバイロアはそのゲームから除外されて出場できない。今後の見通しは立っていないという。

タゴバイロア負傷の経緯
後頭部から叩きつけられて動けなくなり、ストレッチャーで搬送されるQBタゴバイロア=photo by Getty Images
 タゴバイロアは、9月29日のベンガルズ戦の4日前、9月25日のビルズ戦で、後頭部からグラウンドに落ち、その後、立ち上がってから崩れ落ちるシーンがあった。タゴバイロアは、いったん試合から退いたが、「脳震盪ではなかった」として、再び試合に出場していた。

 その際の判断を巡って、NFL選手会(NFLPA=労働組合)が、NFLに調査を申し入れ、判定を降す第3者の専門医が解雇される事態となっている。

 短期間の間に脳震盪を繰り返すことで、セカンドインパクト症候群と呼ばれる状態を引き起こすことがあり、極めて危険。スポーツ選手が前の脳震盪から完全に回復する前に2回目の脳震盪を起こした後、最悪の場合死に至ることもあるという。

オマル氏と慢性外傷性脳症

 オマル氏を有名にした「コンカッション」は2015年の米国映画。NFLを引退した選手が、肉体的、精神的に苦境に追い込まれた真相を探り当て、NFLに立ち向かうという実話に基づいた作品だ。

 ナイジェリアから米国に移住し、ペンシルベニア州ピッツバーグ市で監察医を務めていたオマル氏は2002年9月、1人の男性の変死体を検視することになる。死者の名はマイク・ウェブスター(当時50歳)。スティーラーズのOL(センター)として、1970年代にスーパーボウルで4回の優勝に貢献するなど通算で245試合に出場し、引退後はプロフットボール殿堂入りを果たした不世出の名選手だった。

 街の英雄だったウェブスター。だが、晩年は激しい頭痛や不眠、幻聴などに悩まされ、奇行を繰り返した上に家族とも離別し、廃車寸前のトラックで寝泊まりする悲惨な生活の末に変死したのだった。

 オマル医師は、ウェブスターの脳を調べ抜いた結果、ある症状を発見する。「Chronic traumatic encephalopathy(CTE=慢性外傷性脳症)」と名付けたこの症状を巡ってNFLと対立する、というストーリーだ。

 現実の世界では、オマル医師が医学誌に論文を発表したのは05年。それから11年を経て、NFLはCTEと競技の関連を最終的に認めた。数千人の元選手らによる集団訴訟は、NFLが総額10億ドル(約1400億円)を補償することで16年春に最終的に和解が成立している。

神経病理学者で医師でもあるベネット・オマル氏=photo by Getty Images

【小座野容斉】

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