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2018-09-05

32年ぶりの勝利を決めた32秒のドライブ  関東学生TOP8 明治ー法政

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アメリカンフットボールの関東学生1部リーグTOP8は、開幕の第1節から波乱の幕開けとなった。明治大が法政大を16-14で破った1戦は、二転三転の展開で最後まで勝敗が分からない、フットボールの醍醐味が詰まった好ゲームとなった。

明治に最後の攻撃が回ってきたとき、クロックの掲示は残り32秒だった(撮影:北川直樹)

明治大学○16-14●法政大学@アミノバイタルフィールド <9月2日(日)>

試合終了後、感極まって号泣するK#37佐藤の背中を叩く、主将LB#6茂木(撮影:北川直樹)

「主将の茂木が中心となり、学生がとことんまでつきつめてやってきた。今日は学生のチームワークの勝利です。」試合後の岩崎監督の言葉だ。しかし、ここに至るまでは長い道のりがあった。

32年間、明治にとって法政はオレンジ色の高い壁であり続けた。ちょうど10年前の2008年、大型RB喜代吉壮太を筆頭に豊富なタレントを擁し、満を持して臨んだのが、もっとも法政に肉薄したシーズンだろう。この時、法政にも喜代吉と同学年の傑出したRB原卓門(現オービック)がいた。関東1部Bブロックのリーグ最終戦、冷たい雨の降る川崎球場で両校は激突した。6勝同士の全勝対決は、最後に喜代吉のランがエンドゾーンにわずかに及ばず6-13で明治が苦汁をなめた。翌2009年も明治は法政にTD1本の差で敗れ、ブロック2位に終わった。

明治は、2014年のTOP8、BIG8の1部縦列編成に移行後、低迷する。昨シーズンは2勝をあげたが、順列7位となりチャレンジマッチに出場、BIG8の桜美林相手に、17-10と薄氷の勝利でTOP8に踏みとどまった。今春の横国大戦を取材した際、主将のLB#6茂木の言葉はどこか歯切れが悪く、もがいているように感じた。明治が秋に向けどのように変貌するのか、厳しい表情の下で茂木が発した「今年の目標は日本一になること」という言葉を楽しみにしていた。

波乱の試合展開

K#37佐藤はこの試合で3本のフィールドゴールを決めた。(撮影:北川直樹)

試合はコイントスに勝った明治が後半を選択、法政の攻撃から始まった。法政攻撃の1シリーズ目に、QB#1野辺の投じたパスを明治SF#38加藤がインターセプトするなど、スタートから波乱含みだった。

第1クオーター(Q)終盤に明治がRB#22加藤のランで先制。第2Qには法政QB野辺が自らエンドゾーンに飛び込むTDで、同点とされたが、前半終了と同時に明治K#37佐藤の33ヤードフィールドゴール(FG)が決まり、明治が3点のリードで試合を折り返した。

後半、明治は第4QにもFGを成功させ6点をリード。ランニングゲームでタイムコントロールに入っていたが、試合終了まで1分強を残し、ハンドオフミスからボールをファンブルロスト、法政に攻撃権を献上する痛恨のミスを犯した。逆転のチャンスが転がり込んできた法政は、QB野辺が冷静にパスを決め、最後はWR#11高津佐に38ヤードのタッチダウンパスをヒット。32秒を残し、明治に最後の攻撃が回ってきたーー。

「諦めなかった」QB西本

この試合で明治の攻撃を牽引したQB#4西本晟は、大阪の箕面自由学園出身の2年生。関西の強豪校からも声がかかっていたが、関西大倉中時代の先輩から伝え聞いた「学生主体のチーム」に惹かれ、明治に進学を決めたという。

残り32秒からはじまった明治の攻撃ラストシリーズ。両チームスタンドは異様な熱気に包まれた(撮影:北川直樹)

勝負を決めた最後のシリーズに残された時間は、奇しくも法政戦の勝利から遠ざかっている年数と同じ「32」秒。極限のシチュエーションだが、「夏合宿や普段の練習からしっかりと準備してきたので平気だった」と、西本は冷静だった。

西本には、原点となる試合があった。箕面自由学園高3年時の、春季大阪府大会準決勝だ。対戦相手は、当時春季大会3連覇中で優勝候補筆頭の高槻高。「10回やって1回勝てるかどうか」という相手に、3Q終了時点で10点差をつけられながら同点に持ち込み、延長タイブレイクの末に17-16で勝利した。

「あの試合で、どんな展開でも絶対に諦めないことを学んだ。32秒あったし、今日も敵陣30ヤード付近、FGレンジまで進めればKの太希さん(#37佐藤)が必ず決めてくれると思っていた」という。

エースRB#9福田にボールをハンドオフするQB#4西本(撮影:北川直樹)

最後の出番に備え、キッキングフォームの確認を行うK#37佐藤(撮影:北川直樹)

明治攻撃の最終シリーズ、逆転をかけた32秒のドライブは、西本からWR#7渡邊へのパス、エースRB#9福田のランで着実に前進。3秒を残してK#37佐藤の40ヤードFGにつないだ。「チーム初の専任K」(茂木)という、佐藤太希の蹴り上げたボールはゴールポストの中央、十分な高さを越えていった。最終スコアは16-14、明治の劇的逆転勝利だった。

明治QB陣の絆

明治のQBは西本の他に、同じく関西出身(六甲高)で昨年までチームを率いてきた#15阿江(4年)、今春佼成学園から加入した#8櫻井の2人がいる。3人は、ほぼ横一線で先発を争ってきた。普段からとても仲が良く、食事やトレーニングだけでなく、試合前には一緒に銭湯に行くほどだ。西本いわく、最年長の阿江は「めっちゃおもろくて優しい」先輩だそうだ。ただ、3者がそれぞれ「自分が絶対に試合に出る」という強い意志を持っており、先発争いは日々熾烈を極めているという。

この日の先発について岩崎監督は「阿江と西本どちらでいくかは直前まで悩んだが、最終的には学生に決めさせて西本で行こうとなった」と、経緯を語った。西本が先発を告げられたのは、試合の前日のことだったという。法政戦で、阿江はフィールドに出ることはなかったが、サイドラインで西本をしっかりと支えた。そんな阿江について岩崎監督は、「腐ることなくサポートに徹し、しっかりとアドバイスやプレイコールを入れていた。立派な男だとおもいます」と讃えた。

最後に、岩崎監督に、次節の早稲田戦へ準備を尋ねた。「今日は勝ったこと、勝ち切れたことが重要。また2週間で、一から立て直します」と簡潔に力強く語った。

思い切りよくパスを投じる、QB#4西本(撮影:北川直樹)

32年ぶりに法政戦に勝利し、涙を流す#4西本を抱擁する#15阿江(撮影:北川直樹)

【写真/文:北川直樹】

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