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2022-12-23

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第5回「ご褒美」その1

平成27年春場所13日目、照ノ富士は白鵬を寄り切り、大横綱から初勝利を挙げた

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一生懸命がんばって「よくやった。おめでとう」と背中を叩かれ、お祝いになにかご褒美をいただく。
こんなうれしいことはありませんね。がんばりがいがあったというものです。
最近は自分が自分にあげるご褒美も流行っていますが、毎日が勝負、それも白か黒か、結果がハッキリ出る大相撲界にはよくご褒美が飛び交います。
早い話、最も好成績をあげた力士が手にする優勝だって、三賞だって、一種のご褒美と言えなくもありません。そんな大相撲界のご褒美アラカルトです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

横綱に初勝利

横綱に勝つ、というのは力士たちに共通する願いであり、目標だが、師匠にとっても大きな喜びだ。横綱に勝てるような力士を育てた、ということになるのだから。
 
平成27(2015)年春場所13日目、横綱白鵬(現間垣親方)と東関脇照ノ富士(現横綱)との一戦はまさに激闘という表現がぴったりだった。初日から負け知らずの36連勝中で、この一番に勝てば2度目の6連覇達成という白鵬に23歳の伸び盛りの新鋭、照ノ富士が真っ向から挑み、堂々と力勝負を繰り広げたのだ。
 
お互いに得意の右四つ。いち早く左上手を取り、頭をつけた照ノ富士は白鵬の下手投げや揺さぶりにも必死に耐え、軍配が返って22秒後、右下手もガッチリ取り、引き付けて寄り切って横綱の優勝決定を千秋楽まで持ち越すのに成功したのだ。
 
館内はこの照ノ富士の大殊勲に熱狂した。拍手、歓声の嵐の中を引き揚げる照ノ富士の顔は紅潮して真っ赤。部屋に戻ると待ち構えていた師匠の伊勢ケ濱親方(元横綱旭富士)に、

「よくやった」
 
といきなりハグされ、戸惑ったという。

「だって、いつも怒られてばかりで、褒められたことはなかったんだもの」
 
と後日、うれしそうに打ち明けている。さらに、

「これはご褒美だ」
 
とご祝儀袋までもらった。中を開けてみると1万円札が10枚入っていた。これまでも師匠に新十両になったときや、正月にお年玉をもらったことがあるが、

「この10万円はいままでの10万円とは違う」
 
と思い、しばらくは手を付けることができなかった。もっとも、手を付ける必要はなかったと言える。この日、獲得した懸賞は21本。63万円が別口で入ってきていたのだから。
 
その夜、知人、友人からこの日の快勝を祝福するメールが200通も届き、すべてに返信するのに4時間もかかった。おかげでゲン担ぎにしている外出ができなくなったが、この一番でつかんだ自信は大きく、翌夏場所、みごとに初優勝し、場所後、大関に昇進することになる。これもまた、もう一つのご褒美だった。

月刊『相撲』令和元年7月号掲載

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