WBO世界スーパーフライ級王座決定戦、1位のアストン・パリクテ(フィリピン)対2位、井岡一翔(Reason大貴)の12回戦は19日、千葉・幕張メッセで行われ、井岡が10回1分46秒、レフェリーストップによるTKO勝ちを収め、ミニマム級、ライトフライ級、フライ級に続き4階級目の世界王座を制覇した。井岡は昨年大晦日、マカオでドニー・ニエテス(フィリピン)に敗れて逸した日本人初の快挙をついに成し遂げた。
写真上=パリクテ(左)に右を打ち込む井岡
数々の栄光を手にいれてきた井岡にして、これがベストファイトであったと断言できる。見事なボクシングだった。9回までの採点は5ポイント差がひとり、そのほかふたりが3ポイント差だったが、戦いの形を組み立て、ミッションを着実に遂行していたのは、確かに井岡のほうだったと思う。さらに勝負どころでも、勇気を持って対応しきって、対戦者につけいるスキを与えなかった。
「パリクテは想像以上に距離が遠く、懐も深く、パンチもあって、やりにくかった」
立ち上がり、井岡はそう感じていたという。しかし、左右へのステップでいなし、25勝21KOの長身強打者にフルパワーでの攻撃機会を与えない。さらに小さなダッキング、堅牢なブロッキングでヒットを許さなかった。「だんだんとパンチが見えてきた」3回以降は、いよいよギアを上げる。左フック、右ストレートをボディに集めていく。パリクテは井岡のハイテンポにまったく追いつけない。
井岡のパンチは多くが軽打ではあったが、いずれもタイムリーで正確だった。次々に巧打を重ねていく。
「自分が勝っていたと思う」と試合後に強気なコメントを残したパリクテだったが、7回、突如、アタックを仕掛けた背景には、敗勢を拭いきれずにやきもきしていたからだとみる。いかにも強引で力づくでも、パリクテのパワーは抜けている。井岡は防戦に追われ、左フックで足もとを揺らすシーンもあった。
「効いたというより、慌てました。ただ、ここで(勝負にきた相手と)しっかり打ち勝ち、耐えきったことがターニングポイントでした」
強い決意をにじませて、立ち向かった井岡はラウンド後半には確度の高いパンチで盛り返してみせる。その後は井岡の思惑どおり、勢いの落ちたフィリピン人に足して自在のペースメイクを施していく。
10回のフィニッシュはことさらに見事だった。右カウンター。パリクテがひるんだ一瞬を見逃さない。右ストレートを10発近く突きまくる。後退に次ぐ後退。そして防戦一方になったパリクテに、レフェリーのケニー・チャバリエはストップをかけた。パリクテは「早すぎる。残り3ラウンドを戦っていたら勝っていた」と息巻いたが、そう感じたのは彼自身とその陣営以外にはほとんどいなかったはず。
「好きでボクシングをやってきて、結果で答を出せました」
井岡はほのかに涙ぐんでいた。2年2ヵ月ぶりの日本のリングにも「皆さんの声援が、背中を押してくれました」と感謝した。だが、海外リング挑戦の野心に変わりはない。
「WBOのベルトをチケットにして、また海外に行きたい。そして他団体のチャンピオンと対戦していきたい」
30歳にしてあらためて決意を誓った井岡は、そしてこう結んだ。
「成長しているからこそ今日は勝てました。次に勝つためには、さらに成長しなければいけません」
文◉宮崎正博
写真◉菊田義久
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