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2019-06-18

【ボクシング】WBO女子世界スーパーフライ級王座決定戦 「勝って娘に『ありがとう』と言いたい」(吉田) 「明日は長年の夢を実現させる日」(モートン)

明日19日(水)、千葉・幕張メッセ イベントホールで行われるWBO女子世界スーパーフライ級王座決定戦10回戦で雌雄を決する吉田実代(31歳=EBISU K’S BOX)とケーシー・モートン(35歳=アメリカ)は、ともに計量を1発でクリア。人心地ついたあとの会見で、あらためて、明日に向けての決意を語った。

上写真=吉田(右)とモートン。背負うものは、ともに重くて深い

計量のために用意した衣装を着た上で300グラムアンダーの吉田

 バンタム級時代は「ほぼノー減量だった」という吉田だが、スーパーフライ級ではやはり、多少なりともウェイトを落とさなければならなかった。51.8キロと、300グラムアンダーで計量を終えた彼女も、自ら用意し楽しみにしていた食事に舌鼓を打つ、つもりだった。

「サムゲタンを作ったんですけど、いちばん大事なスープを入れた水筒を家に忘れてきてしまったんです」

 別に用意した梅おにぎりと鶏肉だけは食べたと言いつつ、悔しそうな表情を浮かべて、メディアの爆笑を誘った。試合に必要なマウスピースやコスチュームは忘れたことはないが、「こういうこと、ちょいちょいあるんです」と照れ笑い。集中力が尋常じゃない彼ら彼女らトップ選手。こういう事例は、よく聞く話である。 

 格闘技を始めて11年。「たくさんの方々にお世話になってきた。明日は最高の恩返しをできる日」と、いよいよ迫った大一番に力をこめる。だが、彼女は繰り返す。
「力むことなく冷静に。自分がやってきたことを信じて、自分の動きをしっかり出せれば」と。

 これまで経験したことのない大会場で、しかも地元・鹿児島からやってくる方々も合わせると、数百人の大応援団が声援を送る。それを、プレッシャーに感じずに、追い風にする。とにもかくにも、自身のメンタルがカギを握る。吉田は、それを充分に承知しているのだ。

髪の毛を20cmもカットしてリミットちょうどだったモートン

 リミットぴったりで計量を終えたモートンは、非公式の予備計量で200グラムオーバーしていた。
「ホテルの体重計が、500グラム下回っていた」のが理由で、公式計量までの時間を使って、トイレで用を足し、「髪の毛を20センチくらい切った」。

「会場のトイレで髪を切っていたら、入ってきた日本人女性に驚かれてしまって。後ろをどうしても切れないから、『プリーズ・ヘルプ・ミー!』って(笑)。とてもいい方で、手伝ってくれたんです」

 体力を削ることなく、しっかりとリミットを守ったのは立派だった。

「明日はとてもエモーショナルな日。そして、夢を実現させる日です」。
 彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。それはもちろん、喜びのもの。
夢にまで見た世界タイトルマッチがついに実現する。「感謝しかない」と彼女は両手を合わせるのだ。

 しかし、その舞台に上がることだけで満足はしない。
「これまで長く苦しいハードなトレーニングを積んできました。それを出し切って、さらなる夢を実現させたい」

 父親はアメリカ人。母親は日本人。しかし、孤児院で育ったという彼女は、母の名前すら知らない。

「ボクシングは様々な苦しみ、痛みを癒してくれて、怒りの感情を変化させてくれました。そして、他人を勇気づけることができる素晴らしい競技です」
 記者たちの目をしっかりと見つめ、笑顔で語る彼女には悲壮感がない。いや、それを感じさせない強さがあるのかもしれない。

ベルトを手にできるのは、たったひとり──

 複数の仕事をこなしながら、愛娘・実衣菜(みいな)ちゃんを育て、自らも成長し、ボクサーとしても立派に飛躍した吉田は、「勝って、娘をリングに上げて『ありがとう』と伝えたい」。

 ボクシングと出会い、不遇の人生を豊かなものに変えたモートンは、「どんなに困難なことがあっても、それを変えることはできるということをお見せしたい」。

 勝利を手にできるのは、ただひとり──。

文_本間 暁
写真_山口裕朗

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