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2023-02-03

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第6回「切れる」その2

平成27年初場所6日目、白鵬は気迫あふれる相撲で遠藤を押し出す

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令和元年の夏は酷暑でした。
「オレ、もう切れた」という人も多かったんじゃないでしょうか。
ところで、この切れるのは、とても大切なことなんです。
中には、切れて暴走する人もいますが、こんなことをしている自分にガマンできない、なんとかしないと、という強烈な発奮の現れでもありますから。
切れることは飛躍の原点、成長の秘密でもあります。
ギリギリの勝負をしている力士たちもよく切れます。
こうすることで失敗や挫折を乗り越え、人間的にも大きくなっていくんですね。
そんな力士たちの切れた話を紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

遠藤コール一色に

横綱は、ほかの力士とまったく違った人種と思った方がいい。全身、プライドのかたまりのようなもので、なんでもナンバーワンでなければ気がすまないところがあるのだ。だから、それを守るために人一倍、稽古もするし、言動にも気をつけるのだが、そのプライドが傷つけられたときの怒りはすさまじい。
 
平成27(2015)年初場所6日目、白鵬(現宮城野親方)はイケメン力士として人気沸騰中の遠藤と対戦した。地位は東の横綱と東前頭3枚目と大きな開きがあったが、館内から沸き起こる声援は遠藤の圧勝。両者が土俵にあがると、「遠藤がんばれ」という遠藤コール一色になった。
 
白鵬はこれにプッツン。軍配が返ると、まるでこの耳をつんざくような大量の声援に反発するように遠藤の端正な顔目がけて強烈な張り手を見舞い、右ヒジを曲げてカチ上げる、というよりもヒジ打ちを見舞った。
 
さらに、あたりの空気を凍り付かせるような白鵬の激しい攻撃は続く。一瞬、遠藤に右を差される場面もあったが、これを力まかせに振りほどくと、今度は思い切り体当たりを食らわせ、バランスを崩したところを押し出す、というよりも弾き飛ばした。この横綱のケンカまがいの強烈な攻めに館内はシーン。まだ興奮冷めやらぬ顔で引き揚げてきた白鵬は、

「(遠藤コールに)燃えたのかって? いや、そういう意識はなかったんだけど、どこかに反発する気持ちはあったのかもしれない。厳しい攻めだったかどうか、わからないけど、いい相撲は取れたと思います」
 
と言いつくろったが、こんなに感情をむき出しにした相撲も珍しかった。
 
これでエンジン再点火。あのあとも気合あふれる相撲で勝ち星を伸ばした白鵬は、この場所、余裕で全勝優勝。優勝回数も、ついに大鵬を抜いて単独史上最多の33回に乗せた。

月刊『相撲』令和元年9月号掲載

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